PwCの収益の専門家であるAkemi Miuraが、“捜査員15”の助けを借りて、国際財務報告基準(IFRS)第15号「顧客との契約から生じる収益」に基づく契約コストを資産として認識すべきかどうかの決定方法を“捜査”します。
企業には、多くの場合、契約の獲得または履行のためのコストが発生します。IFRS第15号には、これらのコストの会計処理に関して、旧基準よりも多くのガイダンスが定められています。
IFRS第15号は、契約の獲得または履行のためのコストを資産化すべき時期について定めています。
企業は、IFRS第15号に基づく契約獲得の「増分」コストについて、回収すると見込んでいる場合には、資産として認識します。顧客に請求可能なコストについては、契約を獲得したか否かにかかわらず、資産として認識します。増分コストとは、契約を獲得しなければ発生しなかったであろうコストです。
実務上の便法として、企業は、償却期間が1年以内であると見込まれる場合には、増分コストの発生時に当該コストを費用として認識することができます。
事実-事案1: 契約を獲得するための増分コスト—通信業界
Telecom社は、自社の小売店において携帯電話および通信サービスプランを販売しています。店舗の販売担当者は、ある月に2年間のサービス契約を120人の顧客に販売しました。Telecom社は、販売担当者の給与に加えて、そうした契約の獲得に対する販売手数料を支払います。また、小売店には、広告費用が発生します。
販売担当者に支払われた販売手数料は、顧客との契約を締結しなければ発生しなかったであろう増分コストです。Telecom社は、増分コストが回収可能であることを前提に、当該コストを資産として認識しなければなりません。
給与および広告費などを含むその他のコストは、費用処理しなければなりません。これらのコストは、契約が締結されていなくても発生します。
企業はまず、契約を履行するためのコストが他の基準(例えば、国際会計基準(IAS)第2号「棚卸資産」またはIAS第16号「有形固定資産」)の範囲に含まれるかどうかを決定します。次に、他の基準の範囲に含まれる場合には、その関連する基準を適用しなければなりません。
他の基準の範囲に含まれないコストは、次の要件を満たす場合、資産として認識されます。
1) 契約または予想される契約に直接関連している
2) 将来において履行義務の充足に使用される企業の資源を創出するかまたは増価する
3) 回収が見込まれている
契約に直接関連しているコストには、直接労務費、直接材料費などのコストに加えて、契約に従い顧客に明示的に請求可能なコストが含まれます。契約の管理・監督のコストおよび保険に係るコストが契約に直接関連している場合には、それらのコストも含まれます。
仕損に係る材料のコストのうち、契約の一部として要求されていないものは、発生時に費用として認識しなければなりません。そうしたコストは資源を創出および増価せず、上記の2番目の要件を満たしません。また履行義務の充足(または部分的な充足)に関連したコストについても、将来の履行義務には関連しないため2番目の要件を満たさないことから、発生時に費用処理しなければなりません。
TechCo社は、支払活動の追跡および監視を行うため、顧客との間で5年間の外注契約を締結しています。TechCo社は、契約の開始時に、契約を履行するために必要なデータおよび支払情報のアップロードに係るコストを負担します。
顧客のセットアップ後、継続的な追跡および監視は自動化されます。
TechCo社は、契約の開始時に発生するセットアップコストは次の要件を満たすことから、当該コストを資産として認識しなければなりません。
1) 契約に直接関連している
2) 契約に基づく履行および将来の履行に関連して企業の資源を増価する
3) 契約期間を通じて回収が見込まれている
a) 契約を獲得しなかった場合でも、当該コストは発生したのかどうかを検討します。契約を獲得しなければ発生しなかったコストは、増分コストです。
b) 履行コストを資産として認識するためには、上記の3つの認識要件すべてを満たしていなければなりません。
企業は、資産化した契約資産をどの期間において償却するかを検討しなければなりません。契約資産は、減損テストの対象となります。これについては次号の記事で解説します。