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以下の記事は、IFRS解釈指針委員会(IFRS IC)において、却下通知が発行されるまでのIFRIC ICの検討プロセスをまとめています。
※ この記事はPwCの刊行物『PwC's View』の第1号に掲載されたものです。

「IFRS ICリジェクション」とは、一般に、IFRS解釈指針委員会(以下、「IFRS IC」という。)が、議題として取り上げないと判断した論点をいいます。IFRS ICは、関係者から寄せられた様々な論点を検討します。議題として追加されると、解釈指針の開発や狭い範囲の基準の修正(「年次改善」としての修正を含む)の検討が開始されます。一方で、多くの論点は、議題として取り上げることが却下(リジェクション)されています。IFRS ICは、却下した論点について、論点の概要と議題にしないと判断した理由を簡潔にまとめ、ウェブサイトなどで公表しています。「却下通知(リジェクション・ノーティス)」と呼ばれるこの情報は、基準承認の権限を有する国際会計基準審議会(以下、「IASB」という。)の審議を経ずに公表されるものですので基準書ではありませんが、有用な情報といえます。これまで、どのような論点がIFRS ICに提出され、どのような却下通知が公表されたのか、過去に公表された却下通知をIFRSの基準ごとに連載していきます。第1回の今回は、却下通知がどのような検討を経て公表されるのか、IFRS ICでの検討プロセスについて紹介します。
■ IFRS ICの検討プロセス
まず、IFRS ICについて簡単に説明します。IFRS ICは、IFRSの適用についての解釈を行う機関であり、議決権を有する14名のメンバーと、議決権のない1名の議長で構成されます。主な活動目的は、IFRS で具体的に取り扱っていない事項について、基準の一部であるIFRS解釈指針(「IFRIC」と呼ばれるもの。)を提供することです。定期会議は公開されており、ウェブキャストで聞くことも可能です。
以下、IFRS ICの各プロセスを説明します(全体の流れを示した上図表も参照のこと)。
①論点の提出(サブミッション)
IFRS ICの議題は、基本的に、世界中の様々な関係者から提出される論点に基づいて決定されます。あらゆる個人や組織体などが、IFRS ICに対して論点の検討を提案できます。(このプロセスは「提出(サブミッション)」と呼ばれます。)サブミッションする場合、提出者は論点が「IASB及びIFRS解釈指針委員会デュー・プロセス・ハンドブック」に記載されている「議題要件(後述)」を満たしているかを評価しなくてはなりません。その上でIFRS ICが当該論点を検討すべきと考えた根拠を、論点の説明や現行の会計実務(実務で使用される主要な会計処理とその代替的処理を含む)およ び関連する基準等とともに記載してサブミッションします。
②論点の評価と分析
IASBのスタッフは、サブミッションされた論点について提出者にコンタクトし、内容の詳細(関連する取引事実や状況を含む)や背景・懸念等を把握します。また、議題要件を満たすか(たとえば当該論点・取引が広く存在するか、実務に多様性(会計処理のばらつき)が生じているか)を評価・分析するため、通常、各国の基準設定主体や規制当局等から情報を収集します。スタッフは、入手した各種情報や関連する基準等をもとに分析を行い、分析結果と提案をペーパーにまとめ、IFRS ICの会議に提起します。

議題要件をすべて満たすと評価される場合は、通常、議題として追加することをスタッフは提案します。一方、たとえば、分析の結果、基準に既に存在するガイダンス等から特定の会計処理を行うべきことが明確であると評価される場合は、議題要件を満たさないため、却下が提案されます。また、論点が財務諸表に与える影響が限定的であると評価される場合や、特定の企業にしか影響しないと評価される場合も議題要件に照らして却下が提案されます。
③IFRS ICの議論と議決
基本的に、提案(サブミッション)されたすべての論点が、IFRS ICの公開会議で検討されます。IFRS ICの議題に含めるかどうかの判断は、前述のデュー・プロセス・ハンドブック5.16項、5.17項および5.21項における下記の議題要件に基づきます。
広がりのある影響を有し、影響を受ける人々に重要性のある影響を与えているか又は与えると予想される。
多様な報告方法の解消又は削減を通じて、財務報告が改善される。
既存のIFRS及び「財務報告に関する概念フレームワーク」の枠内で効率的に解決できる。
論点は、IFRS ICが効率的な方法で対処できる十分な狭さであるべきであるが、IFRS IC及び関心のある関係者にとってIFRSの変更を行う場合に必要となるデュー・プロセスの実施の費用に見合う効果がないほど狭いものとすべきではない。
IFRS ICが開発する解決策は、合理的な期間にわたり効力を有するべきである(したがって、IFRS ICは、通常、トピックが完成の迫った基準で扱われている場合には、解釈指針を開発しない)。
IFRS ICでは、通常、IASBのスタッフの分析や提案が記載されたペーパーに沿って論点を議題に追加すべきか等について議論します。論点が議題要件を満たさないとIFRS ICが判断すると、当該論点の却下が暫定的に決定されます。なお、議決は、出席したメンバー(最低10名)の多数決によってなされます。
④暫定の却下通知と意見募集
IFRS ICが議題にしないと一度決議したことが、即座に正式な決定事項となるわけではありません。まず、IFRS ICは暫定の却下通知を公表します。当該却下通知には、論点の概要とIFRS ICが議題に追加しないと判断した根拠が説明されます。たとえば、基準に既に存在するガイダンスから特定の会計処理を行うべきことが明確な場合には、その結論および理由が記載されます。IFRS ICは、当該却下通知について、最低60日間の意見募集を実施します。その後、受領したコメントについてのIASBのスタッフの分析に基づいてIFRS ICは、再度、公開の審議を実施し、正式な却下通知を公表するかどうかを決議するのです。
⑤却下通知
IFRS ICの公開会議での2度の決議の結果、議題としないことが正式に決定されたものについて、最終的な却下通知が公表されます。冒頭に記載したとおり、却下通知はIASBの承認を得ていませんので、教育的な性質の情報という位置づけになります。それでも、IFRS ICのメンバーが検討し、意見募集を経て最終決議した内容は、関係者の参考となる有用な情報といえます。よって、IASBが教育目的で発行する、「グリーンブック」と呼ばれるIFRSの基準書の緑版には、結論の背景への参照とともに却下通知が付いています。

以上が、却下通知が公表されるまでのIFRS ICでの検討プロセスとなります。今後、これまで公表された却下通知を、基準ごとに解説していきます。世界中の関係者が解釈に困った論点について、その概要やそれに対するIFRS ICでの議論および結論をご覧いただければ幸いです。
なお、IFRS ICとしての議論と決定は全てIASBのウェブサイトに公開されています。
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