Q. 国際会計基準審議会(IASB)の設立の経緯について教えてください。
A
1. IASCの発足およびIOSCOの影響
国際財務報告基準(IFRS)の設定主体である国際会計基準審議会(IASB)は2001年から活動を開始していますが、その活動は、前身の国際会計基準委員会(IASC)より引き継がれたものです。
IASCの発足は、1973年に遡ります。IASCは、世界9カ国(英・加・米・豪・蘭・西独・仏・墨・日)の職業会計士団体により設立され、日本からは、日本公認会計士協会がメンバーとして参加していました。IASCは発足以来、現在の国際財務報告基準の原型となる国際会計基準(IAS)を作成していました。
1980年代に入ると、1986年に結成された証券監督者機構(IOSCO)からの働きかけを受けるなど、IASCは新たな段階に入りました。IOSCOは、米国証券取引委員会(SEC)や日本の大蔵省(現在は金融庁)など、資本市場の規制当局者により構成されていました。IOSCOがIASCに関心を持った理由は、1980年代の国際資本市場の拡大、とりわけ多国間公募の拡大でした。IOSCOは1987年6月からIASCの諮問グループのメンバーとなり、1988年11月に開催されたIOSCOの第13回メルボルン総会において、正式に、IOSCOがIASCによるIASの改善作業を奨励することおよびIASCの活動を支援していくことを表明しました。
IOSCOからの支持を受けて、IASCは、会計処理を可能な限り統一し、国際的に企業間の比較を可能にするという目標に向けて精力的に作業を進めました。1989年1月に公開草案としてE32「財務諸表の比較可能性」を公表し、IASの改訂作業を開始しました。この比較可能性改善プロジェクトは6年間続き、1993年11月にオスロで開催されたIASCの理事会において11の基準書が一括改訂されたことにより完了しました。
1987年 | 証券監督者機構(IOSCO)がIASC諮問グループに参加 |
2000年 | コア・スタンダードの完成 米国証券取引委員会(SEC)のコンセプト・リリースの公表 |
2001年 | 欧州連合(EU)によるIASのEU域内の上場企業への適用を決定 国際会計基準審議会(IASB)に組織改正 |
2002年 | 米国財務会計基準審議会(FASB)とIASBによるノーウォーク合意 |
2. コア・スタンダードの完成と米国、EUの対応
比較可能性改善プロジェクトにより見直されたIASは、IOSCOにとって満足の行くものではありませんでした。このため、1995年7月にIASCとIOSCOは、IASを再度見直すことに合意し、1999年6月までに「包括的コア・スタンダード」を完成させることを公表しました。IOSCOが受け入れ可能と認めるコア・スタンダードが完成すれば、グローバルな市場でのクロス・ボーダーの資金調達および上場目的において、IASの使用を認める勧告ができるとされていました。
このため、IASCは急ピッチでコア・スタンダードの完成に向けて作業を行い、2000年3月のサンパウロでの理事会におけるIAS第40号「投資不動産」の承認をもってその作業は完了しました。IOSCOはこのコア・スタンダードについて、2000年5月に開催されたシドニー総会で支持を表明し、IOSCOメンバーにその使用を認める勧告をしました。
コア・スタンダードの受け入れは、世界最大の資本市場を抱える米国、特にSECの動きが焦点となりました。SECは、2000年2月にコンセプト・リリース「国際会計基準」を公表し広く意見を求めましたが、最終的にはIASの受け入れについての結論は表明しませんでした。IASの受け入れに消極的であった米国に対し、EUはEU域内におけるIASに基づく連結財務諸表の作成について検討を開始し、2001年2月に、EUの上場企業に対し2005年1月1日以後開始する会計年度よりIASに準拠した連結財務諸表の作成を要求することを決定しました。
3. IASBの発足とコンバージェンス
1990年代における国際資本市場の急激な成長等の環境変化に伴い、高品質の会計基準を提供することがIASCの課題となりました。当時のIASCは、各国の職業会計士団体から派遣された非常勤のメンバーにより構成されており、その専門性・独立性について疑問を呈する声もあり、組織改正の必要性が強調されるようになりました。組織改正の問題は、ディスカッション・ペーパー「IASCの将来像」として提言され、2000年6月に現在のIASBに組織改正することが承認されました。
2001年4月に発足したIASBは、会計基準の国際的な統合、すなわちコンバージェンスを目指して活動を開始しました。その最大の焦点は、長年世界最大の資本市場を支えてきた米国基準とのコンバージェンスでした。2002年に、米国のノーウォークで行なわれたIASBとFASBの合同会議において、IASと米国基準のコンバージェンス・プロジェクトが決定され、会計基準のコンバージェンスに向けた新たな一歩が踏み出されました。
4.IASB発足後の方向性
IASBに組織改正されてからの10年間は、IASBおよびIFRSに絶え間ない変化がありました。IFRS適用国が増加したことに加え、金融危機への対応が必要でした。また、米国基準とのコンバージェンス・プロジェクトも進められました。
この10年間の取り組みが完了する見通しがたった2011年7月に、IASBは「アジェンダ協議2011-意見募集」を公表しました。アジェンダ協議とは、IASBの将来の作業計画を決定するために、その戦略的な方向性および作業計画のバランスに関して、広く一般の意見を求めるものです。この「アジェンダ協議2011-意見募集」に対する多くのコメントや議論の結果、IASBは2012年12月に「フィードバック・ステートメント:アジェンダ協議2011」を公表しました。この中で、IASBは主に以下の5つのメッセージを認識したとして、これらのメッセージに対応するために取り組んできました。
絶え間なく基準が変更された10年の後は、新しい基準に対応するため、比較的平穏な期間を置くべき。 |
原則主義の基準設定のために、首尾一貫した基礎である「財務報告に関する概念フレームワーク」の改訂を完了すべき。 |
IFRS新規適用国のニーズに対応する特定の項目を改善すべき。 |
費用対効果や論点の早期特定を考慮した基準開発方法を改善すべき。 |
その後、IASBは、2015年8月に、2回目のアジェンダ協議となる「2015年アジェンダ協議-意見募集」を公表しました。本意見募集を受けて、IASBは、2016年11月に「IASB作業計画2017-2021年(2015年アジェンダ協議に関するフィードバック・ステートメント)」を公表しました。この中で、IASBは2017年からの5年間の作業計画のテーマとして、以下の4つを挙げたうえで、現在、取り組みを進めています。
主要な基準設定プロジェクトの完了(「保険契約」の最終基準化と「財務報告に関する概念フレームワーク」の改訂)(※1) |
財務諸表におけるコミュニケーションの改善(財務諸表は、企業の経営者が財務諸表利用者とコミュニケーションを行うためのツールであり、全般的に新たな目線で見直す) |
継続的なIFRSの適用支援(新基準の導入支援、およびIFRS解釈指針委員会や適用後レビューを通じた既存の基準の維持管理) |
(※1) IFRS第17号「保険契約」は2017年5月に、改訂「財務報告に関する概念フレームワーク」は2018年3月にそれぞれ公表されました。
(※2) リサーチ・プログラムとは、基準設定プロジェクトに着手する前に、会計上の問題点が存在していて、その問題点が基準設定を必要とするほど重要であり、かつ、実行可能性のある解決策を見出せるという十分な証拠を収集することを目的として、IASBが「アジェンダ協議2011-意見募集」に寄せられたフィードバックに対応して導入したものです。
また、IASBは、2022年から2026年までの5年間の作業計画を策定するために、3回目となるアジェンダ協議に向けた審議を2019年9月に開始しました。IASBは、2020年9月に公表予定の情報要請(RFI : Request for Information)により広く一般から収集したコメントに基づいた審議を行ったうえで、2021年12月末までに作業計画及びフィードバック・ステートメントを公表する予定です。
*このQ&Aは、『週刊 経営財務』 2848号(2007年12月10日)にあらた監査法人 企業会計研究会として掲載した内容に一部加筆・修正を行ったものです(2019年12月31日時点の最新情報)。発行所である税務研究会の許可を得て、PwCあらた有限責任監査法人がウェブサイトに掲載しているものですので、他への転載・転用はご遠慮ください。