Q. 国際財務報告基準(IFRS)と米国基準および日本基準とのコンバージェンスに関して、その経緯および現状を教えてください。
A
IFRSは、2005年に、EU域内の上場企業の連結財務諸表へ強制適用されました。その後、EU域外にもIFRSの採用は拡大し、現在では世界の140を超える国や法域に適用されています。IASBは、2002年に米国と、そして2005年に日本と、基準をコンバージェンスする活動を開始しました。
1. IFRSと米国基準とのコンバージェンスの経緯
IFRSと米国基準とのコンバージェンス・プロジェクトは、2002年9月の国際会計基準審議会(IASB)と米国財務会計基準審議会(FASB)との共同会議にまで遡ることができます。この共同会議で両審議会は、(1)短期プロジェクトの着手、(2)両基準上の差異を埋めるプロジェクトの実施、(3)現存の共同プロジェクトの継続促進および(4)両者の解釈指針設定機関の活動の調和を合意しました。これが「ノーウォーク合意」と呼ばれるものです。
ノーウォーク合意後、以下の目標が公表されています。
(a) 2006年2月、覚書(MoU)の公表
- IASBとFASBは両者間のMoUを公表しました。
- このMoUは、米国証券取引委員会(SEC)が米国市場に登録している米国外企業に対して課していた、IFRSに準拠して作成した財務諸表の米国基準への調整を2009年に撤廃すると公表したことを背景に発行されたもので、コンバージェンス・プログラムについて2008年に向けてのゴールを示していました。
(b) 2008年9月、MoUのアップデートの公表
- MoU公表当初の目標であった2008年に、MoUがアップデートされました。
- 改訂MoUでは、2011年6月までに主要プロジェクトを完了するという目標を掲げました。この目標は、カナダ、韓国、ブラジルなどが2011年あるいは2012年にIFRSを採用することが想定されていたことを受けています。
(c) 2009年11月、共同声明の公表
- IASBとFASBは、「FASBとIASBによるMoUに対するコミットメントの再確認」という声明を公表し、各主要プロジェクトについて、どのタイミングでどのようなものを公表するといった目標(マイルストーン)を示しました。
(d) 2010年6月、修正戦略の公表
- IASBとFASBは修正戦略として、以下を表明しました。
(1) 最も緊急であると考えるコンバージェンス・プロジェクトの目標完了日を依然として2011年6月とする。
(2) 優先順位が比較的低いと考えるプロジェクト、または、さらなる調査・分析が必要となる可能性のあるプロジェクトについては、2011年末までの完了を目標とする。 - これらの修正は、両審議会が進めている多数のプロジェクトに対して、市場関係者が高品質な意見を提供できるかどうかを懸念する声を受けています。
(e) 2011年4月、進捗状況報告の公表
- IASB と FASBは進捗状況報告を公表し、以下を発表しました。
(1) 3つの MoU プロジェクト(金融商品、収益認識、リース)と保険契約に関する共同作業を優先する。
(2) 完了目標を2011年6月より後に延長する。 - 基準の影響を受ける関係者との協議、および利害関係者が提起した懸念や論点の検討のため、追加的な時間を費やすための対応です。
収益認識プロジェクト、金融商品プロジェクトおよびリースプロジェクトの完了をもって、MoUの共同作業は事実上完了しました。
2013年4月から、IASBとFASBのコミュニケーションは、基本的に、後述する会計基準アドバイザリー・フォーラム(ASAF)を通じたコミュニケーションに移行しています。
2. IFRSと日本基準とのコンバージェンスの経緯
IFRSと日本基準とのコンバージェンスは、2004年7月のIASBのトゥイーディ議長(当時)来日時まで遡ります。このときのトゥイーディ議長と企業会計基準委員会(ASBJ)との話し合いにより、2005年3月にASBJはIASBと共同で会計基準のコンバージェンス・プロジェクトを開始しました。2006年3月には当該プロジェクトの作業を加速することを双方が同意し、2007年8月のトゥイーディ議長の来日には両者の共同声明としての「東京合意」が公表されています。
この「東京合意」において、コンバージェンスのあり方は従来と同様(双方が修正すべき点は修正すること)であり、今後も規制当局との調整も十分に図ることを確認した上で、タイムテーブルが決められました。
ASBJは予定どおり、EUにおける同等性評価にかかる項目(工事契約、企業結合:持分プーリング法の廃止等、資産除去債務、棚卸資産の評価、金融商品の時価開示、賃貸等不動産の時価開示等)の基準の設定と改正を進め、2008年12月に完了しました。
また、欧州委員会は日本基準を(米国基準とともに)欧州で採用されている IFRSと同等であることを認める旨を、2008年12月に発表しています。
その後、2011年6月末を目標期日とした検討がなされ、過年度遡及修正および包括利益の表示等の会計基準の設定がなされたものの、のれんの非償却および開発費の資産計上等については基準の改定はなされていません。
なお、IASBとASBJのコミュニケーションは、2013年4月から、後述するASAFを通じたコミュニケーションに移行しており、2005年3月以来行ってきたIASBとASBJの二者間の定期協議は2013年5月に終了しました。
3. ASAFの設置
従来、IASBは、FASBやASBJなどの各国会計基準設定主体と二者間の取決めを締結してコミュニケーションをとってきました。しかしながら、IFRS適用国が増加する中、二者間の取決めを維持する作業が複雑化し、また地域内の会計基準設定活動の協調を図る地域団体の設立も増えてきました。そのため、二者間の取決めに代わる単一の取決めとして、各国会計基準設定主体および会計基準設定に関与している地域グループで構成するASAFを設置する提案がIFRS財団より示され、このASAFを通じて、IASBと国際的な会計基準設定コミュニティとの合理的かつ効果的なコミュニケーションを図ることになりました。2013年3月に、IASBが議長でFASBやASBJを含む、主要な各国会計基準設定主体や地域グループによる12の団体がメンバーであるASAFの組成が公表されました。ASAF は、2013年4月に第1回会合が開催されて以後、通常年4回会合が実施され、各地域からのインプットも含め、様々な論点について議論が行われています。現在、ASAFのメンバーの任期は3年で、2018年に選任されたASAFの第3期メンバーは、以下のとおりです。なお、ASBJは2015年に続き2018年もメンバーとして再任されています。
アジア・オセアニア (「世界全体枠」1を含む) | アジア・オセアニア会計基準設定主体グループ(AOSSG) ASBJ 中国財政部会計司(MOF-ARD) 韓国会計基準委員会(KASB) |
欧州 (「世界全体枠」1を含む) | 欧州財務報告諮問グループ(EFRAG) フランス会計基準局(ANC) 英国財務報告評議会(FRC) イタリア会計基準設定主体(OIC) |
アメリカ大陸 | ラテンアメリカ基準設定主体グループ(GLASS) カナダ会計基準審議会(AcSB) FASB |
4.日本基準を国際的に整合性のあるものとするための主な取り組み
ASBJは、通常3年毎に中期運営方針を公表しています。中期運営方針とは、ASBJのこれまでの活動を振り返るとともに、今後3年間の日本基準の開発の基本的な方針及び国際的な会計基準の開発に関連する活動を行うにあたっての基本的な方針を示すものです。 ASBJは、2019年10月に新たな「中期運営方針」を公表し、その中で、日本基準を国際的に整合性のあるものとするための取組みに関する課題として、主に以下のIFRS基準があるとの考えが示されています。2019年12月31日現在、ASBJにおける当該課題に対する検討状況及び今後の計画は以下のとおりです。
IFRS第9号「金融商品」(分類及び測定、減損、一般ヘッジ) | ASBJは、2019年10月に予想信用損失モデルに基づく金融資産の減損についての会計基準の開発に着手することを決定しました。開発の目標時期は特に定めていません。 なお、金融資産及び金融負債の分類及び測定については、今後、会計基準の開発に着手するか否かについて判断する予定です。 |
IFRS第10号「連結財務諸表」(連結範囲)(IFRS第11号「共同支配の取決め」及びIFRS第12号「他の企業への関与の開示」を含む。) | 今後、IASBはIFRS第10号「連結財務諸表」等の適用後レビューを予定しており、その終了後に、ASBJは会計基準の開発に着手するか否かの検討を行う予定です。 |
IFRS第13号「公正価値測定」 | ASBJは、2019年7月に企業会計基準第30号「時価の算定に関する会計基準」等を公表しました。 なお、投資信託の時価の算定に関しては、会計基準公表後概ね1年をかけて検討し、その取扱いを改正する予定です。 |
IFRS第15号「顧客との契約から生じる収益」 | ASBJは、2018年3月に企業会計基準第29号「収益認識に関する会計基準」等を公表しました。 なお、収益に関する表示科目や注記事項の定めについては、2019年10月に企業会計基準第29号の改正案を公表し、2020年3月に最終基準化することを目標としています。 |
IFRS第16号「リース」 | ASBJは、2019年3月にすべてのリースについて資産及び負債を認識するリースに関する会計基準の開発に着手することを決定しました。開発の目標時期は特に定めていません。 |
IFRS第17号「保険契約」 | 今後、IASBは2017年5月に公表したIFRS第17号「保険契約」の改訂を予定しており、その終了後に、ASBJは会計基準の開発に向けた検討に着手するか否かの審議を行う予定です。 |
*このQ&Aは、『週刊 経営財務』 2850号(2007年12月24日)にあらた監査法人 企業会計研究会として掲載した内容に一部加筆・修正を行ったものです(2019年12月31日時点の最新情報)。発行所である税務研究会の許可を得て、PwCあらた有限責任監査法人がウェブサイトに掲載しているものですので、他への転載・転用はご遠慮ください。