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要点
2024年3月6日、米国証券取引委員会(SEC)は、気候関連事項のリスクと影響に関する公開企業の開示を強化する最終規則を採択しました。この新しい規則には、気候関連のリスクとリスク管理に関する開示、およびそのようなリスクに対する取締役会と経営者のガバナンスが含まれています。さらに、本規則には、厳しい気象現象およびその他の自然現象の財務的影響を監査済財務諸表の中で開示する要求事項が含まれています。大規模な登録企業は温室効果ガス排出に関する情報の開示も要求されており、これには、段階的に導入される保証の要求事項が適用されます。
本最終規則は、当初の提案とはいくつかの側面で異なっています。最も大きな相違点は、財務諸表の注記における開示ならびに温室効果ガス排出の開示の対象となる登録企業の範囲と数の削減です。
2024年4月4日、SECは、係争中である法的異議申立の「秩序ある司法的解決を促進する」ため、気候開示規則を一時停止しました

(本規則は)「投資家には一貫性があり、比較可能で意思決定に有用な情報を、発行企業には明確な報告の要求を提供することになります。」
SEC議長 ゲイリー・ゲンスラー
最新の動向
2024年3月6日、SECは、企業の事業戦略、経営成績または財政状態に重要性のある影響を与える可能性が合理的に高い気候関連リスクに関する開示を要求する、新しい規則を採択しました。しかし、本規則の採択は全会一致によるものではなく、5名のSEC委員のうち2名が反対しました。
開示のハイライト
本規則は、登録届出書や定期報告書(米国発行企業の場合はForm 10-K、外国登録企業(FPI)の場合はForm 20-Fなど)における開示を要求します。開示は将来に向かって要求され、過年度の情報の開示は過去にSEC提出書類で開示された範囲でのみ要求されます。これは、容易な移行に有用となる可能性があります。本最終規則は、米国内外で強制適用されるその他の新たな要求の基礎を成す、気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)によって策定された開示フレームワークのいくつかの概念を活用しています。しかし、SECの最終規則は、欧州連合(EU)の企業サステナビリティ報告指令、IFRS®サステナビリティ開示基準、およびカリフォルニア州の気候開示法などのその他の新たな規制や基準とは多くの点で異なっています。さらに、相互運用可能性と呼ばれる開示要求を満たすために他のフレームワークに基づいて作成された開示を利用できることへの関心が幅広く寄せられていますが、新しい規則には同等性の規定はありません。その代わり、SECは、「国際的な気候関連の報告要求や実務慣行の下での報告がどのように進展するのかを観察した上で、そのようなアプローチが投資家に対して一貫性があり、信頼性の高い比較可能な情報をもたらすのかどうかを判断する」1と述べました。
全般的開示
新規則は、米国登録企業と外国登録企業に、以下の開示を要求します。
  • 登録企業の事業戦略、財政状態および経営成績を含む、登録企業に重要性のある影響を与える、または与える可能性が合理的に高い、登録企業の戦略、ビジネスモデルおよび見通しに対する気候関連の物理的リスクおよび移行リスクの重要性のある実際のおよび潜在的な影響
ー 規則案からの主な変更点:詳細な物理的リスクが所在する場所(すなわち、郵便番号)の開示は、物理的リスクに晒される資産や事業の地理的状況の開示という規範性のより低い要求事項に置き換えられました。また、リスクは、短期(すなわち、12カ月以内)か長期(すなわち、12カ月超)かのいずれかに分類され、中期の分類を定義する際の判断は削除されています。さらに、バリューチェンに関わる気候関連リスクの開示は、そのようなリスクが登録企業の事業、経営成績、または財政状態に対して重要性がある場合を除き、要求されません。
  • 気候関連リスクの評価と管理における経営者の役割およびそのようなリスクに対する取締役会による監督の内容および範囲についての記述
ー 規則案からの主な変更点:本最終規則では、これらのリスク管理に責任を有する経営者の専門性についての開示要求を維持していますが、取締役が気候関連リスクに関する専門性を有しているかどうかの開示要求は削除されています。
  • 気候関連リスクの識別、評価および管理プロセス、気候関連リスクが企業の全体的なリスク管理プロセスに統合されているかどうか、およびどのように統合されているか、ならびに企業のリスク管理戦略の一部である重要性のある移行リスクを管理するための移行計画
ー 規則案からの主な変更点:全体的な開示原則は規則案と整合していますが、本最終規則では、気候関連リスクの識別と評価のプロセス(例えば、経営者は相対的な重大性(significance)をどのように決定するか、重要性(materiality)をどのように評価するか、ならびに顧客、規制当局および技術要因をどのように考慮しているか)に関する特定の具体的な開示要求が削除されています。また、本最終規則では、移行計画に関する詳細な開示要求を原則主義の開示に置き換えています。
  • 登録企業の事業、経営成績または財政状態に重要性のある影響を与える、または重要性のある影響を与えると合理的に可能性のある気候関連の目標(target)または目的(goal)。これには、重要性のある支出および財務上の見積りや仮定に対する重要性のある影響に関する特定の定量的および定性的な開示が含まれる。
ー 規則案からの主な変更点:最終規則では、開示が必要な目標および目的を決定する際に、重要性の要件を追加し、規則案では財務諸表に含めるとしていた特定の開示を財務諸表の外に移動させています。
温室効果ガス排出
大規模早期提出会社(large accelerated filer)および早期提出会社(accelerated filer)は、スコープ1およびスコープ2の温室効果ガス(GHG)排出に重要性がある場合にはそれらを開示することが要求されます。新興成長会社(EGC)および小規模報告会社(SRC)は、排出の開示が免除されます。スコープ1およびスコープ2のGHG排出に重要性があるかどうかの判断において、SECは、投資家が登録企業の移行リスクと開示された目標または目的の達成に向けた進捗を理解できるようにするために、排出量データの算定と開示が必要な状況を強調しています。
本最終規則は、スコープ1およびスコープ2の排出総量、ならびに個々に重要性がある場合の構成ガスの開示を要求しています。また、本最終規則は、登録企業に対し、その組織の境界を決定するために使用した方法と登録企業の連結財務諸表との重要性のある相違を開示することを要求しています。さらに、本最終規則は、GHG排出量の算定に使用した方法、重大なインプットおよび重大な仮定に関する情報を含む、GHG排出量の報告に使用した「プロトコルまたは基準」に関する開示を要求しています。これは、GHGプロトコルの基準または他の基準に基づくことが可能です。
登録企業には、年次報告書の提出後、スコープ1およびスコープ2の開示を提供するための追加の期間が与えられます。米国登録企業の場合、第2四半期のForm 10-Qの提出期限までにこの情報を提出しなければなりません。外国登録企業も同様の期限で温室効果ガスの開示を提出しなければなりません。さらに、本最終規則では、要求されるスコープ1およびスコープ2のGHG排出について、独立した保証(attestation)を取得することを企業に要求しています。この保証の要求は、限定保証から開始し、段階的に導入することが要求されています。最終的に合理的保証が義務付けられるのは、大規模早期提出会社のみです。
ー 規則案からの主な変更点:本最終規則には、GHG排出の開示要求の大幅な変更が含まれています。スコープ1およびスコープ2の開示がすべての登録企業には義務付けられなくなったことに加え、注目すべき変更として、スコープ3の開示の削除、組織の境界の決定における柔軟性の追加、GHGの原単位指標の削除、および保証の要求の変更が挙げられます。
財務諸表の開示
登録企業は、特定の気候関連の財務諸表の影響および関連する開示を監査済財務諸表の注記において開示することが要求されます。ただし、開示が要求される情報の範囲は、規則案とは大幅に異なっています。
厳しい気象現象およびその他の自然現象からの影響について、(1)資産計上したコストおよび手数料、ならびに(2)発生時に費用処理した支出および損失に関して、個別の開示が要求されます。これらの金額に関連する回収(保険金受領等)も開示しなければなりません。
資産計上したコストおよび手数料の開示は、影響額の合計の絶対値が関連する事業年度末の株主資本または欠損の絶対値の1%以上である場合にのみ要求され、50万ドルの最低基準額(de minimis threshold)が適用されます。支出および損失の開示は、影響額の合計が、関連する事業年度の税引前利益または損失の絶対値の1%以上である場合に要求され、10万ドルの最低基準額が適用されます。
本規則は、厳しい気象現象またはその他の自然現象が、支出、損失、資産計上されたコスト、手数料または回収の重大な発生要因である場合、その全額を開示に含める必要があり、その金額が財務諸表のどこに表示されているかを個別に開示する必要があることを明確にしています。
また、カーボンオフセットや再生可能エネルギークレジット(REC)に関連して費用処理した金額や資産計上した金額または発生した損失が、気候関連の目標や目的の達成計画における重要性のある構成要素である場合、それらについて財務諸表において追加の定量的な開示が要求されます。最後に、本規則は、 (1)厳しい気候現象およびその他の自然現象、または(2)開示された目標または移行計画に重要性のある影響を受けた財務上の見積りや仮定に関する定性的な開示を要求しています。
XBRL(拡張可能ビジネス・レポーティング言語)
新規則では、大規模早期提出会社および早期提出会社(EGCおよびSRC以外)については2026年度より、それ以外のすべての企業については2027年度より、インラインXBRLを使用した情報のタグ付けを要求しています。
次のステップ
最も早い発効日は、2025年度の情報について2026年における報告から開始され、小規模の会社や温室効果ガス排出の開示については追加の延期があります。しかし、要求される情報量を考えれば、登録企業は早期に準備を開始すべきです。
最初の法令遵守日は、登録企業の事業年度の開始年(FYB)に基づいており、特定の規定や提出企業の種類によって、以下のように異なります。
(1)本表で使用される「FYB」とは、記載された暦年に始まる事業年度を指します。例えば、12月決算の米国内大規模早期提出企業は2025年12月31日期末のForm 10-Kにおいて開示を含めることになります。過年度に関する情報は、SEC提出書類において過去に開示された範囲でのみ要求されます。
(2)発生した重要性のある支出の定性的および定量的な影響ならびに特定の財務上の見積りと仮定に与える重要性のある影響に関連して、3つの特定のRegulation S-K開示(Item1502(d)(2)、Item1502(e)(2)、およびItem1504(c)(2))があります。その発効日はこの表に記載の1年後になります。
本最終規則は、気候変動の影響について企業が要求される開示の内容と範囲の劇的な変化を求めています。これらの追加的な開示情報の収集と報告には、登録企業のシステム、プロセスおよび統制を大幅に変えることが必要になる可能性があります。それらを効果的に導入するためには、財務、財務報告、法務、IRその他の部門横断的な協調が要求されます。
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1 SEC、投資家のための気候関連開示の強化および標準化、805ページ
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