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要点
  • 国際会計基準審議会(IASB)は、事業の取得の業績についての報告および減損テストの有効性や複雑性に関する投資家の懸念に対処するため、IFRS第3号「企業結合」およびIAS第36号「資産の減損」を修正する提案のパッケージを公表しました。
  • 本提案は、重要性がある企業結合と戦略的な企業結合およびのれんを含む資金生成単位(CGU)について、新たな開示要求を導入しています 。
  • 本提案は、企業がCGUにのれんをどのように配分するかを明確にすることによってシールディングを減らすこと、および使用価値(VIU)の算定における特定の側面を変更することによって複雑性を低減することを目的としています。

論点
IASBは、取得に関する報告についてステークホルダーから以下のフィードバックを受けました。
  • 投資家は、多くの場合において、取得および取得後の業績に関する十分で適時な情報が不足しており、代理の情報としてのれんの減損に頼らざるを得ない。
  • 企業は、取得に関する情報、特に、競争上の地位を損なう可能性のある商業的機密情報の提供におけるリスクとコストについて懸念している。
  • のれんを含むCGUの減損テストは、複雑で時間とコストを要する。
  • のれんを評価する現行のレベルの影響(すなわち「シールディング」)と経営者の過度の楽観性により、減損損失の認識が「too little, too late(少なすぎ、遅すぎ)」となることがある。
2024年3月、IASBは、IFRS第3号およびIAS第36号を修正する提案のパッケージを含む「公開草案:企業結合-開示、のれん及び減損」を公表しました。本公開草案は、企業が投資家に提供する取得に関する情報を拡充することにより、ステークホルダーの懸念に対処することを目的としています。
IASBは、現在、2024年7月15日をコメント期限として本公開草案に対するフィードバックを求めています。
PwCの所見
PwCは、財務諸表全体の有用性を高めるために、企業が取得の業績について提供する情報を改善するという全体的な目的を支持します。また、PwCは、減損テストの複雑性の低減および減損損失の認識が遅すぎるという懸念に対処するという目的も支持しています。
IASBの提案に関するPwCの見解について、詳しくはPwCのコメントレターをご参照ください。
誰がどのような影響を受けるか
IFRS第3号の修正
IFRS第3号の変更案は、重要性のある企業結合を行う企業に影響を与えます。中でも、より大幅な開示提案については、財務諸表作成者のコストを抑える観点から、戦略的な取得(企業結合)のみに適用されます。
IASBの提案では、戦略的な取得(すなわち、投資家の関心が最も高い重大な取得)を、重要性がある事業の取得の一部分として特定しています。これらの戦略的な取得は、取得日および将来の事業年度の両方において、強化された開示要求の対象となります。戦略的な取得とは、以下の閾値のいずれかを満たす取得です。
  • 定量的閾値-被取得企業の収益、営業利益および資産のうちのいずれか1つが、取得企業の対応する金額の10%以上である
  • 定性的閾値-取得の結果として、取得企業が新たに大規模な事業分野または営業地域に参入する
IASBが提案する主要な新しい開示要求は、以下の図に示されるとおりです(IASB「投資家の観点(2024年3月)-取得の業績」より抜粋)。
PwCの所見
重要性があるが戦略的でない取得
経営者は、開示要求を満たすためには、通常、期待されるシナジーおよび潜在力を分析し定量化するための追加の相当な労力およびコストをかける必要があると、PwCは考えています。PwCは、重要性があるが戦略的でない企業結合に関して、この追加的なコストはシナジーの開示による便益を上回ると考えます。
IASBは、定量的情報の代わりに、それほどコストをかけずに依然として投資家に便益をもたらすような定性的情報の要求を検討することが考えられると、PwCは考えています。
戦略的な取得
PwCは、企業の目的、目標およびシナジーに関する情報は、適切に作成および保証されれば、経営者により大きな説明責任を課すことになり、投資家にとって有益になると考えています。しかし、この情報が財務諸表に含まれているため(例えば、監査の対象であるため)、利用者は、目標に確実性や達成可能性があると想定する可能性があり、期待ギャップを生じさせます。
さらに、PwCは、戦略的な取得の識別に関する10%の閾値は低いと考えます。多くの主要な資本市場の規制当局は、重大な企業結合に関して追加開示を決定するための類似指標への閾値として20%-25%を適用しています。いかなる定量的な閾値も恣意的とはなりますが、主要な資本市場規制当局との整合的な対応により、戦略的とみなされる取得の数の減少と資本市場の要件との整合性の上昇が生じることから、全体的な負担が軽減されることになります。
商業的機密情報の開示に関する企業の懸念に対処するため、IASBは、特定の状況において、企業に対してこの情報の一部の開示を免除することを提案しました(上記*を参照)。提案された免除は、取得企業の取得日における主要目的の達成が著しく損なわれることとなる情報の開示に適用されます。
PwCの所見
PwCは、提案された免除は判断を要する性質があると考えます。PwCは一般的には判断の適用に賛成していますが、より多くの適用ガイダンスがない場合、実務にばらつきが生じるリスクがあることを懸念します。PwCは、IFRS®会計基準に基づいて現在適用され十分に理解されている免除の慣行と整合させるために、IAS第37号の「極めて稀な」という文言をIFRS第3号に含めることを提案します。また、免除を適用できない例の網羅的でないリストに加えて、免除を適用できる例を含めることも有益であると考えます。
IAS第36号の修正
IASBは、のれんの減損テストが取得の業績評価の代理情報としてしばしば使用されているというステークホルダーからのフィードバックを検討し、現在の減損テストに代わる様々な代替案について検討しました。IASBは、IFRS第3号に関する提案は取得の業績に関連する情報ニーズに対応したものと考えているため、IAS第36号への修正案は限定的です。したがって、本修正案は、現行の減損テストのモデルの有効性と複雑性に関するステークホルダーの懸念に対処することを目的としています。
本修正案には以下が含まれています。
  • のれんを配分する単位を事業セグメントレベル(すなわち、企業がのれんを配分できる最大のレベル)とすることはデフォルトではないと述べることにより、企業がのれんをCGUに配分する方法を明確化する。
  • のれんを含んだCGUがどの報告セグメントに含められているかの開示を要求する。
  • 以下により、VIUの算定方法を修正する。
    • まだ確約していない将来のリストラクチャリングから生じるキャッシュ・フローまたは資産の拡張から生じるキャッシュ・フローに対する制限を削除する。
    • VIUを税引前ベースで計算する要求事項を削除し、税引後ベースで計算することを認める。
PwCの所見
現在の提案がIAS第36号の要求事項の変更ではなく明確化であると見えるため、実務の変更をもたらしシールディングを減らすことにはならないと、PwCは考えます。PwCは、コメントレターの中で、より効果的にシールディングの問題に対処するための2つの代替的な解決策を提案しています。 本提案を変更しない場合は、IASBは、本提案が既存の要求事項の明確化を意図したものか、それとも既存の要求事項の修正を意図したものかを説明する必要があります。それらが明確化を意図したものである場合、実務の変化は生じない可能性が高いでしょう。IASBが実務を変えることを望んでいるのであれば、IASBは、本提案が現行の要求事項に対する修正であることを明確にし、適切な経過措置を含める必要があります。
さらに、PwCは、経営者の過度な楽観性が、減損テストが有効ではないことの主要因の1つであることに必ずしも同意しません。IAS第36号は、経営者によって作成されるキャッシュ・フロー予測が、合理的で裏付け可能な仮定および取締役に承認された予算に基づくことを要求しています。PwCは、既存の要求事項は一般的に適切に適用されていると考えており、大き過ぎるレベルでの減損テストが減損テストが有効ではないことおよびシールディングの原因であると考えています。また、PwCは、のれんが帰属するセグメントの開示が経営者の過度の楽観性に重大な影響を与えることにも同意しません。
PwCは、税引後の割引率の使用を認めるIASBの提案を支持します。しかし、PwCは、適用のばらつきを避けるため、VIUの算定における繰延税金残高の取扱いにつき、より多くのガイダンスが必要であると考えます。さらに、本提案によりVIUと処分コスト控除後の公正価値(FVLCD)モデルとの差異が少なくなるため、ステークホルダーが残りの差異を理解することが重要であると考えており、「結論の根拠」で差異の説明を提供することを提言します。
IAS第36号に対する変更案は、のれんを含むCGUを有するすべての企業に影響を与えます。また、VIUの計算方法の修正案は、IAS第36号を適用する全ての資産の減損テストに影響を与えます。
次のステップ
IASBは、本公開草案における提案に関するコメントレターおよびその他のフィードバックを検討し、修正案を公表するかどうかを決定する予定です。
IASBの提案に関するPwCの見解について、詳しくはPwCのコメントレターをご参照ください。
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