日本基準トピックス 第413号
主旨
- 2020年11月27日、法務省は、「会社法施行規則等の一部を改正する省令」(令和2年法務省令第52号)(以下、「本省令」とする)を公布しました。
- 本省令は、2019年12月11日に公布された「会社法の一部を改正する法律(令和元年法律第70号)」(以下、「改正会社法」とする)を踏まえ、関連する法務省関係政令および会社法施行規則等を改正するものです。 こちらの日本基準トピックスでは、会社法施行規則および会社計算規則の改正を中心に解説します。
- 本省令は、改正会社法の施行の日から施行されます。
会社法施行規則の改正
1. 経緯
改正会社法が、2019年12月4日に成立し、同月11日に公布されました。改正会社法は、会社をめぐる社会経済情勢の変化に鑑み、各種の対応を企図しています。具体的には、以下の内容を含んだ改正です。
- 株主総会資料の電子提供制度(株主総会資料をウェブサイトに掲載し、株主に対してそのアドレス等を書面で通知)の創設
- 株主提案権の濫用的な行使を制限するために株主が同一の株主総会で提案できる議案の数を10までに制限
- 取締役の報酬に関する規定の整備(以下を含む)
- 上場会社等の取締役会は、定款の定めや株主総会の決議により取締役の個人別の報酬等の内容が具体的に定められない場合には、その内容についての決定方針を定めなければならない。
- 取締役の報酬等として当該株式会社の株式または新株予約権を付与しようとする場合には、定款または株主総会の決議により、当該株式または新株予約権の数の上限等を定めなければならない。
- 上場会社が取締役の報酬等として株式の発行等をする場合には、金銭の払込み等を要しないことができる。
- 役員等がその職務の執行に関して責任追及を受けるなどして生じた費用等を株式会社が補償する補償契約や、役員等のために締結される保険契約(D&O保険)に関する規定の整備
- 上場会社等における社外取締役の設置の義務付け
- 社債管理補助者制度の創設
- 株式会社が他の株式会社を子会社化する場合の株式交付制度の創設
改正会社法に対応して、2020年11月27日に本省令が公布されました。
2. 改正内容
こちらの日本基準トピックスでは、(1)株主総会参考書類等、(2)事業報告および(3)株主総会資料の電子提供制度の改正について解説します。
(1) 株主総会参考書類に関する規定の改正
(ア)役員等の選任に関する議案に関する規定の改正
株主総会参考書類における役員等候補者に関する記載事項として、以下の見直しが行われています。
- 改正会社法による補償契約および役員等賠償責任保険契約に関する規定の新設に伴い、取締役、会計参与、監査役または会計監査人の選任に関する議案を提出する場合、株主総会参考資料に、補償契約や役員等賠償責任保険契約の内容の概要を記載
(会社法施行規則第74条第1項第5号・第6号、第74条の3第1項第7号・第8号、第75条第5号・第6号、第76条第1項第7号・第8号、第77条第6号・第7号) - 上場子会社における少数株主保護の議論等を踏まえ、役員(取締役および監査役)候補者と親会社等の関係に関する記載事項の対象期間を過去10年間に拡充(従来は過去5年間)
(会社法施行規則第74条第3項第3号・第4項第7号ロハ、第74条の3第3項第3号・第4項第7号ロハ、第76条第3項第3号・第4項第6号ロハ) - 社外取締役の活用に関する議論等を踏まえ、社外取締役候補者に期待される役割を記載(会社法施行規則第74条第4項第3号、第74条の3第4項第3号)
(イ)社外取締役の設置が相当でない理由に関する規定の削除等
改正会社法により一定の株式会社は社外取締役の設置が義務付けられるため、改正前の会社法施行規則で定められていた社外取締役となる見込みである者を候補者とする取締役の選任議案を当該株主総会に提出しないときは、株主総会参考書類に社外取締役の設置が相当でない理由を記載する規定(改正前会社法施行規則74条の2)は削除されています。
(ウ)株式交付計画の承認に関する議案に関する規定の新設
改正会社法による株式交付制度の新設に伴い、取締役が株式交付計画の承認に関する議案を株主総会に提出する場合における株主総会参考書類に記載すべき事項を定める規定(会社法施行規則第91の2)が新設されています。
(2) 事業報告に関する規定の改正
株式会社の事業報告について、以下の見直しが行われています。なお、特段の記載がない場合は公開会社を対象としています。
(ア)株式会社の現況に関する事項
- 上場子会社における少数株主保護の議論等を踏まえ、当該株式会社に親会社がある場合において、当該親会社との間に当該株式会社の重要な財務および事業の方針に関する契約等が存在するときは、その内容の概要を記載(会社法施行規則第120条第1項第7号)
(イ)株式会社の会社役員に関する事項
- 当該株式会社の役員等賠償責任保険契約に関する事項や当該株式会社が取締役、監査役、執行役、会計参与または会計監査人と締結している補償契約に関する事項を記載
(会社法施行規則第119条第2の2号、第121条第3の2号から第3の4号、第121条の2、第125条第2号から第4号、第126条第7の2号から第7の4号)。 - 取締役、会計参与、監査役または執行役の報酬等に関する記載事項について、業績連動報酬等の額およびその算定方法等、非金銭報酬等の額およびその内容、それら以外の報酬等の額、報酬等についての定款の定めまたは株主総会の決議による定めに関する事項、報酬等の決定方針等を記載(会社法施行規則第121条第4号イロ・第5の2号から第6の3号)
- 事業年度の末日において社外取締役を置いていない一定の株式会社は、社外取締役の設置が相当でない理由を当該事業年度に係る事業報告に記載しなければならないとする規定等(改正前施行規則第124条第2項・第3項)を削除
- 社外取締役が果たすことが期待される役割に関して行った職務の概要を記載(会社法施行規則第124条第4号ホ)
(ウ)株式会社の株式に関する事項
- 当該事業年度中に会社役員に報酬等として付与された株式に関する役員の区分ごとの株式の数および株式を有する者の人数を記載(会社法施行規則第122条第1項第2号)
(エ)株式会社の新株予約権等に関する事項
- 会社役員に報酬等として付与されている新株予約権等に関する記載事項を追加(会社法施行規則第123条第1号)
(3) 株主総会資料の電子提供制度に関する規定の新設および整備
- 改正会社法により新設される株主総会資料の電子提供制度について、電子提供措置をとる方法に関する規定(会社法施行規則第95条の2)、電子提供措置をとる場合における招集の通知の記載事項に関する規定(会社法施行規則第95条の3)および書面交付請求をした株主に対して交付する書面(電子提供措置事項記載書面)における記載を必要としない事項に関する規定(会社法施行規則第95条の4)を新設
- 改正会社法により新設される株主総会資料の電子提供制度について、連結計算書類に係る監査報告または会計監査報告に記載され、または記録された事項に係る情報についての電子提供措置に関する規定を新設(会社計算規則第134条第3項)
3. 施行期日
本省令は、改正会社法の施行の日から施行されます。
なお、改正会社法は、公布の日(2019年12月11日)から1年6月以内の政令で定める日から施行とされており、2021年3月1日から施行することが予定されています。
ただし、株主総会参考書類等の電子提供制度の創設は、改正会社法の公布の日から起算して3年6月を超えない範囲内において政令で定める日から施行(令和元年法律第70号附則1ただし書)とされています。
4. 経過措置
株主総会参考書類および事業報告に関連する経過措置として、主に以下が定められています。
- 施行日前にその末日が到来した事業年度のうち最終の事業年度に係る株式会社の事業報告の記載または記録および施行日以後にその末日が到来する事業年度のうち最初の事業年度に係る株式会社の事業報告における事業年度の末日において社外取締役を置いていない一定の会社における社外取締役の設置が相当でない理由(改正前施行規則第124条第2項)の記載または記録については、なお従前の例によるとされています(会社法施行規則附則第2条第11項)。
- 株主総会参考書類および事業報告における補償契約および役員等賠償責任保険契約に係る記載に関する規定は、施行日後に締結される補償契約および役員等賠償責任保険契約について適用されます(会社法施行規則附則第3条第6項・第10項)。
会社計算規則の改正
1. 経緯
上述のとおり、2019年12月に会社法の改正が成立し、「会社法」(平成17年法律第86号)第202条の2において、金融商品取引法第2条第16項に規定する金融商品取引所に上場されている株式を発行している株式会社が、取締役等の報酬等として株式の発行等を行う場合には、金銭の払込み等を要しないことが新たに定められました。これを受けて、法務省は、取締役等の報酬等として金銭の払込み等を要しないで株式の発行等をする場合の株主資本の変動額に関する規定、また株式引受権に関する規定を新設するほか、所要の規定の整備を行いました。
2. 改正内容
本省令における会社計算規則(平成18年法務省令第13号)の改正により、新規に追加された条文の主な内容は、以下のとおりです。
(1)取締役等が株式会社に対し割当日後にその職務の執行として募集株式を対価とする役務を提供する場合 (事前交付型の場合)
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割当日において、当該募集に際して処分する自己株式の帳簿価額をその他資本剰余金の額から減ずる(会社計算規則第42条の2第4項)
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当該募集に係る株式の発行により各事業年度の末日または臨時決算日(以下、あわせて「株主資本変動日」という)において増加する資本金および資本準備金の額は、(ア)から(イ)を控除した額に株式発行割合を乗じて得た額(零未満の場合は零)とする(会社計算規則第42条の2第1項、第2項および第3項)
(ア)取締役等が当該株主資本変動日までにその職務の執行として当該株式会社に提供した役務の公正な評価額
(イ)取締役等が当該株主資本変動日の直前の株主資本変動日までにその職務の執行として当該株式会社に提供した役務の公正な評価額
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株主資本変動日において増加するその他資本剰余金の額は、新株の発行により行う場合と同様の計算式による額とする(会社計算規則第42条の2第5項第1号)
計算式により得た額が零未満の場合は当該額に株式発行割合を乗じて得た額をその他利益剰余金とする(会社計算規則第42条の2第5項第2号)
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当該取締役等が当該株式の割当てを受けた際に約したところに従って当該株式を当該株式会社に無償で譲り渡し、当該株式会社がこれを取得するときは、当該自己株式の処分に際して減少した自己株式の額を増加すべき自己株式の額とする(会社計算規則第42条の2第7項)
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(2)取締役等が株式会社に対し割当日前にその職務の執行として募集株式を対価とする役務を提供する場合 (事後交付型の場合)
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当該役務の公正な評価額を増加すべき株式引受権の額とする(会社計算規則第54条の2第1項)
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当該募集に係る株式の発行により増加する資本金および資本準備金の額は、減額する株式引受権の帳簿価額に株式発行割合を乗じて得た額(零未満の場合は零)とする(会社計算規則第42条の3第1項、第2項および第3項)
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減額する株式引受権の帳簿価額と処分する自己株式の帳簿価額との差額をその他資本剰余金とする(会社計算規則第42条の3第4項第1号)
差額が零未満の場合は当該額に株式発行割合を乗じて得た額をその他利益剰余金とする(会社計算規則第42条の4第4項第2号)
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(3)株式引受権に関する規定の新設
(ア)定義
「株式引受権」という用語が新設され、「取締役又は執行役がその職務の執行として株式会社に対して提供した役務の対価として当該株式会社の株式の交付を受けることができる権利(新株予約権を除く。)」という定義が追加されました(会社計算規則第2条第3項第34号)。
(イ)貸借対照表(純資産の部の区分)および株主資本等変動計算書
貸借対照表および連結貸借対照表における純資産の部の区分、株主資本等変動計算書および連結株主資本等変動計算書の区分について、新たに「株式引受権」の項目を追加しました(会社計算規則第76条第1項第1号ハおよび第2号ハ、第96条第2項第1号ハおよび第2号ハ)
(ウ)株主資本等変動計算書に関する注記
株主資本等変動計算書および連結株主資本等変動計算書に関する注記として、当該事業年度または連結会計年度の末日における株式引受権に係る当該株式会社の株式の数(種類株式発行会社にあっては、種類および種類ごとの数)の事項を追加しました(会社計算規則第105条第4号および第106条第3号)
3. 施行期日
本省令は、改正会社法の施行の日から施行されます。
なお、改正会社法は、公布の日(2019年12月11日)から1年6月以内の政令で定める日から施行とされており、2021年3月1日から施行することが予定されています。