日本基準トピックス 第433号
主旨
- 2021年9月24日、金融庁は、「財務諸表等の用語、様式及び作成方法に関する規則等の一部を改正する内閣府令」等(以下、「本改正」とする)を公表しました。
- 本改正は、2021年6月17日に企業会計基準委員会(以下、「ASBJ」とする)が、改正企業会計基準適用指針第31号「時価の算定に関する会計基準の適用指針」(以下、「2021年改正時価算定適用指針」とする)を公表したことを踏まえ、財務諸表等の用語、様式及び作成方法に関する規則等について、投資信託等の時価のレベル別開示の導入など所要の改正を行っています。
- 原文については、金融庁のウェブサイトをご覧ください。
経緯
1.「時価の算定に関する会計基準の適用指針」の改正
ASBJは、2019年7月4日に、金融商品の時価に関するガイダンスおよび開示に関して、国際的な会計基準との整合性を図る取組みとして、企業会計基準第30号「時価の算定に関する会計基準」(以下、「時価算定会計基準」とする)および企業会計基準適用指針第31号「時価の算定に関する会計基準の適用指針」(以下、「2019年時価算定適用指針」とする)を公表しました。
2019年時価算定適用指針においては、投資信託の時価の算定に関する検討には、関係者との協議等に一定の期間が必要と考えられるため、時価算定会計基準公表後概ね1年をかけて検討を行うこととし、その後、投資信託に関する取扱いを改正する際に、当該改正に関する適用時期を定めるとしていました。
また、貸借対照表に持分相当額を純額で計上する組合等への出資の時価の注記についても、一定の検討を要するため、上記の投資信託に関する取扱いを改正する際に取扱いを明らかにするとしていました。
上記の経緯を踏まえ、ASBJは、審議を行った結果として、2021年改正時価算定適用指針を2021年6月17日に公表しました。
2.財務諸表等の用語、様式及び作成方法に関する規則等の改正
本改正は、2021年改正時価算定適用指針の公表を踏まえ、財務諸表等の用語、様式及び作成方法に関する規則等について、投資信託等の時価のレベル別開示の導入など所要の改正を行っています。
概要
本改正による、財務諸表等の用語、様式及び作成方法に関する規則等についての改正の概要は、以下の通りです。
1.投資信託等の市場における取引価格や基準価額を時価とする場合
2021年改正時価算定適用指針では、投資信託について、金融商品取引所に上場しており、その市場が主要な市場となる投資信託で、その市場における取引価格がある場合に、当該取引価格を時価とする場合や、市場における取引価格が存在せず、かつ、解約等に関して市場参加者からリスクの対価を求められるほどの重要な制限がない場合に、基準価額を時価とする場合があるとされています。
本改正では、2021年改正時価算定適用指針を踏まえ、以下の通り、投資信託等の市場における取引価格や基準価額を時価とする場合のレベル別開示を改正しています。
(1)金融商品の時価のレベル別開示(表のB)
金融商品の時価のレベル別開示(連結財務諸表規則第15条の5の2第1項第3号ほか)は、2021年4月1日以後開始する連結会計年度および事業年度の期首から適用されていますが、投資信託等(金融商品取引法第2条第1項第10号に掲げる投資信託または外国投資信託の受益証券、第11号に掲げる投資証券または外国投資証券その他これらに準ずる有価証券を含む金融商品)については、経過措置により、当分の間、時価のレベル別開示を省略でき、この場合には、その旨および当該金融商品の(連結)貸借対照表計上額を注記するとされていました(令和2年内閣府令第9号附則第5条第6項ほか)。
本改正では、当該経過措置の適用を終了し、今後は投資信託等の市場における取引価格や基準価額を時価とする場合についても時価のレベル別開示を要求しています。
なお、年度の(連結)財務諸表のほか、四半期(連結)財務諸表および中間(連結)財務諸表においても同様の改正が行われています。四半期の金融商品の時価に関する事項の開示や時価のレベル別開示が、会社の事業の運営において重要なものとなっており、かつ、前事業年度の末日に比して著しい変動が認められるなど一定の場合に限定されている点は、他の金融商品と同様です。
2.投資信託等の基準価額を時価とみなす場合
2021年改正時価算定適用指針では、投資信託について、市場における取引価格が存在せず、かつ、解約等に関して市場参加者からリスクの対価を求められるほどの重要な制限がある場合は、本来は基準価額が時価となるわけではなく何らかの調整が必要になると考えられるものの、適用の困難さを考慮して、一定の要件を満たす場合には、当該基準価額を時価とみなす取扱いを認めています。
本改正では、2021年改正時価算定適用指針を踏まえ、投資信託の基準価額を時価とみなす場合の開示を改正しています。
(1)金融商品の時価に関する事項(表のA)
投資信託等の基準価額を時価とみなす場合は、金融商品の時価に関する事項に当該投資信託等が含まれている旨を注記します。
(2)金融商品の時価のレベル別開示に代えて行う開示(表のC)
投資信託等の基準価額を時価とみなす場合は、当該投資信託等について、金融商品の時価のレベル別開示は不要となりますが、代わりに一定の注記が必要となります。
上記の開示をまとめると、次の表のとおりです。
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次に掲げる事項を注記(連結財務諸表規則第15条の5の2第1項第2号、四半期連結財務諸表規則第15条の2第1項ほか)。
・科目ごとの(連結)貸借対照表計上額、時価およびこれらの差額 ・時価およびこれらの差額に関する説明 (※四半期は不要)
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投資信託等の市場における取引価格や基準価額を時価とする場合
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当該投資信託等について、上記に加えて、次に掲げる事項を注記(連結財務諸表規則第15条の5の2第4項、四半期連結財務諸表規則第15条の2第7項ほか)
・当該投資信託等が含まれている旨 (当該投資信託等の(連結)貸借対照表計上額に重要性が乏しい場合を除く。)
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次に掲げる事項を注記(連結財務諸表規則第15条の5の2第1項第3号、四半期連結財務諸表規則第15条の2第3項ほか)。
・レベル別の金融商品の時価の合計額 ・レベル2またはレベル3の金融商品について評価技法および時価の算定に係るインプットの説明など(※四半期は不要) ・時価で(連結)貸借対照表に計上しているレベル3の金融商品について、観察できない時価の算定に係るインプットに関する定量的情報、期首残高から期末残高への調整表など(※四半期は不要)
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投資信託等の市場における取引価格や基準価額を時価とする場合
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当該投資信託等について、上記の時価のレベル別開示を不要とする代わりに、次に掲げる事項を注記(連結財務諸表規則第15条の5の2第5項、四半期連結財務諸表規則第15条の2第8項ほか)。
(a)金融商品の時価のレベル別開示(連結財務諸表規則第15条の5の2第1項第3号、四半期連結財務諸表規則第15条の2第3項ほか)を記載していない旨 (b)当該投資信託等の(連結)貸借対照表計上額 (c)当該投資信託等の期首残高から期末残高への調整表(*2) (当該投資信託等の(連結)貸借対照表計上額に重要性が乏しい場合を除く。) (※四半期は不要) (d)連結決算日(貸借対照表日)における解約または買戻請求に関する制限の内容ごとの内訳(投資信託等について、信託財産または資産を主として金融商品に対する投資として運用することを目的としている場合に限り(*3)、その投資信託等の(連結)貸借対照表計上額に重要性が乏しい場合を除く。)(※四半期は不要)
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(*1) 投信託等について、市場価格が存在せず、かつ、解約または買戻請求(以下「解約等」という。)に関して市場参加者からリスクの対価を求められるほどの重要な制限があるときであって、投資信託等の基準価額を時価とみなす場合をいい、信託財産または資産を主として金融商品に対する投資として運用することを目的とする投資信託等については、次のいずれかに該当する必要がある(連結財務諸表規則ガイドライン15の5の2、財務諸表等規則ガイドライン8の6の2-4 ほか)。
(i) 当該投資信託等の財務諸表が国際会計基準または米国会計基準に従い作成されている場合
(ii) 当該投資信託等の財務諸表が国際会計基準および米国会計基準以外の会計基準に従い作成され、当該会計基準における時価の算定に関する定めが国際会計基準または米国会計基準と概ね同等であると判断される場合
(iii) 当該投資信託等を構成する個々の信託財産または資産について、一般社団法人投資信託協会が定める「投資信託財産の評価及び計理等に関する規則」に従い評価が行われている場合
(*2) 期首残高から期末残高への調整表は、次に掲げる事項に区分して記載する(連結財務諸表規則ガイドライン15の5の2、財務諸表等規則ガイドライン8の6の2-5ほか)。
(i) 当連結会計年度(当事業年度)の損益に計上した額およびその科目
(ii) 当連結会計年度(当事業年度)のその他の包括利益(評価・換算差額等)に計上した額およびその科目
(iii) 購入、売却および償還のそれぞれの額(ただし、これらの額の純額により記載することができる。)
(iv) これまで投資信託等の基準価額を時価とみなしておらず、当連結会計年度(当事業年度)に投資信託等の基準価額を時価とみなすこととした額およびこれまで投資信託等の基準価額を時価とみなしていたものの、当連結会計年度(当事業年度)に投資信託等の基準価額を時価とみなさないこととした額
また、上記(i)の当連結会計年度(当事業年度)の損益に計上した額について、連結決算日(貸借対照表日)において保有する投資信託等の評価損益およびその科目を注記する。
(*3) 信託財産または資産を主として不動産に対する投資として運用することを目的としている投資信託等の場合は不要(時価算定適用指針第49-14項参照)。
なお、年度の(連結)財務諸表のほか、四半期(連結)財務諸表および中間(連結)財務諸表においても同様の改正が行われています。ただし、四半期(連結)財務諸表では、上記Cの投資信託等の基準価額を時価とみなす場合の注記は(a)および(b)のみで、(c)および(d)は求められていません。
3.貸借対照表に持分相当額を純額で計上する組合等への出資の時価の注記に関する取扱い
金融商品の時価に関する事項(連結財務諸表規則第15条の2第1項ほか)の注記に関して、貸借対照表に持分相当額を純額で計上する組合その他これに準ずる事業体(外国におけるこれらに相当するものを含む。)への出資については、経過措置により、当分の間、当該記載を省略でき、この場合には、その旨および当該出資の(連結)貸借対照表計上額を注記するとされていました(令和2年内閣府令第9号附則第5条第6項ほか)。
当該取り扱いは本改正でも実質的に変更されていませんが、財務諸表等規則等の附則における当分の間という経過措置から、本則への位置付けの変更が行われています(連結財務諸表規則第15条の2第3項ほか)。
なお、年度の(連結)財務諸表のほか、四半期(連結)財務諸表および中間(連結)財務諸表においても同様の改正が行われています。
適用時期
本改正の適用時期は、以下の通りです。なお、早期適用については、年度末から早期適用することも可能です。
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2022年4月1日以後開始する事業年度に属する四半期(連結)累計期間等から
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2021年4月1日以後開始する事業年度に属する四半期(連結)累計期間等から
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2022年4月1日以後開始する中間(連結)会計期間から
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2021年4月1日以後開始する中間(連結)会計期間から
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経過措置
本改正の主な経過措置は以下の通りです。
1.適用初年度における投資信託等の注記の省略
(1)四半期(連結)財務諸表の取扱い
本改正の適用初年度における、四半期(連結)財務諸表については、投資信託等の市場における取引価格や基準価額を時価とする場合の時価のレベル別開示(上記概要の表のB)や、投資信託等の基準価額を時価とみなす場合の注記(上記概要の表のC)は、当期と比較情報のいずれも不要とされています。
(2)(連結)財務諸表の取扱い
本改正の適用初年度における、(連結)財務諸表については、投資信託等の市場における取引価格や基準価額を時価とする場合の時価のレベル別開示(上記概要の表のB)や、投資信託等の基準価額を時価とみなす場合の注記(上記概要の表のAおよびC)が当期について求められますが、これらの比較情報は不要とされています。
なお、本改正を2021年4月1日以後開始する事業年度の年度末から早期適用する場合に限り、期首残高から期末残高への調整表(上記概要の表のBおよびCに含まれる)は、当期についても不要とされています。
2.適用初年度における時価の算定方法の変更(会計方針の変更)の注記
本改正の適用初年度において、金融商品の時価の算定方法を変更した場合には、会計基準等の改正等に伴う会計方針の変更に関する注記(連結財務諸表規則第14条の2、財務諸表等規則第8条の3ほか)や、会計上の見積りの変更に関する注記(連結財務諸表規則第14条の6、財務諸表等規則第8条の3の5ほか)は不要ですが、それらの注記に代えて、当該変更の内容を注記しなければなりません。
3.投資信託財産および投資法人の財務諸表の取扱い
投資信託財産の計算に関する規則(平成12年総理府令第133号)の適用を受ける信託財産について作成すべき財務諸表または投資法人の計算に関する規則(平成18年内閣府令第47号)の適用を受ける投資法人が作成すべき財務諸表については、当分の間、金融商品の時価のレベル別開示(財務諸表等規則第8条の6の2第1項第3号ほか)の記載を省略することができます。