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日本基準トピックス 第441号
主旨
  • 2022年3月15日、企業会計基準委員会(以下、「ASBJ」とする)は、実務対応報告公開草案第63号「電子記録移転有価証券表示権利等の発行及び保有の会計処理及び開示に関する取扱い(案)」(以下、「本公開草案」とする)を公表しました。
  • 本公開草案は、金融商品取引業等に関する内閣府令(以下、「金商業等府令」とする)第1条第4項第17号に規定される「電子記録移転有価証券表示権利等」を発行または保有する場合の会計処理および開示に関する取扱いを明らかにすることを目的としています。
  • 本公開草案についてのコメントの提出期限は、2022年6月8日とされています。
    • 原文については、ASBJのウェブサイトをご覧ください。
経緯
2019年に成立した「情報通信技術の進展に伴う金融取引の多様化に対応するための資金決済に関する法律等の一部を改正する法律」(令和元年法律第28号)により、金融商品取引法が改正され、いわゆる投資性ICO(Initial Coin Offering。企業等がトークン(電子的な記録・記号)を発行して、投資家から資金調達を行う行為の総称)を金融商品取引法により規制することとし、各種規定の整備が行われました。
こうした状況を踏まえ、ASBJは、金商業等府令における電子記録移転有価証券表示権利等の発行・保有等に係る会計上の取扱いについて、検討を重ね、その結果を公開草案として公表しました。
なお、電子記録移転有価証券表示権利等は、今後どのように取引が発展していくかは現時点では予測することが困難であるため、一部の論点については本公開草案では取り扱わず、本公開草案と合わせて別途公表された「資金決済法上の暗号資産又は金融商品取引法上の電子記録移転権利に該当するICOトークンの発行及び保有に係る会計処理に関する論点の整理」の中で関係者からの意見を募集することとし、そこでの要望に基づき別途の対応を図ることの要否を判断することとしています。
範囲
本公開草案では、株式会社が電子記録移転有価証券表示権利等を発行または保有する場合の会計処理および開示を対象とすることを提案しています。
「電子記録移転有価証券表示権利等」とは、金商業等府令第1条第4項第17号に規定される権利をいい、金融商品取引法第2条第2項に規定される有価証券とみなされるもの(以下、「みなし有価証券」とする)のうち、電子情報処理組織を用いて移転することができる財産的価値に表示される場合に該当するものをいいます。
なお、金融商品取引法第2条第2項では、みなし有価証券として、次のものが含まれるとされています。
(1) 次の有価証券 1に表示されるべき権利(有価証券表示権利)のうち、当該権利を表示する当該有価証券が発行されていないもの
・国債証券
・地方債証券
・社債券
・株券または新株予約権証券
・信託法に規定する受益証券発行信託の受益証券
(2) 次に掲げる権利 2
・信託の受益権
・持分会社の社員権
・民法上の任意組合契約に基づく権利、商法上の匿名組合契約に基づく権利、投資事業有限責任組合契約に基づく権利のうち、いわゆる集団投資スキーム持分に該当するもの 3
会計処理
基本的な考え方
電子記録移転有価証券表示権利等は、その定義上、従来のみなし有価証券と権利の内容は同一であると考えられます。すなわち、電子記録移転有価証券表示権利等の発行と従来のみなし有価証券の発行との差は、いわゆるブロックチェーン技術等を用いて発行するか否かのみであると考えられます。
よって、本公開草案では、電子記録移転有価証券表示権利等の発行および保有の会計処理は、基本的に従来のみなし有価証券を発行および保有する場合の会計処理と同様に取り扱うことを提案しています。
発行の会計処理
有価証券を発行した場合、払込金額が負債となるのか株主資本となるのかについての明確な会計基準は存在せず、有価証券の法的形式等を勘案して、実務上の対応が行われていると考えられます。したがって、電子記録移転有価証券表示権利等を発行した場合の払込金額の区分についても、特段の定めを置かないこととしています。この場合、現行の実務を参考にすることが考えられます。
本公開草案では、以下のとおり、電子記録移転有価証券表示権利等の発行に伴う払込金額を負債または株主資本の区分に応じて会計処理を行うことを提案しています。
負債に区分される場合
株主資本に区分される場合
金融負債 4として、企業会計基準第10号「金融商品に関する会計基準」(以下、「金融商品会計基準」とする)第7項の定めに従って発生の認識を行い、その金額は金融商品会計基準第26項の定めに従う。
その内訳項目は企業会計基準第5号「貸借対照表の純資産の部の表示に関する会計基準」第5項および第6項の定めに従い、その金額は、会社法第445条および第446条の定めに従う。
保有の会計処理
金融商品取引法第2条第1項および第2項で定義される金融商品取引法上の有価証券については、金融商品会計基準および日本公認会計士協会 会計制度委員会報告第14号「金融商品会計に関する実務指針」(以下、「金融商品実務指針」とする。また、金融商品会計基準および金融商品実務指針を合わせて、以下「金融商品会計基準等」とする)上、有価証券として取り扱われるものと有価証券として取り扱われないものがあります(金融商品実務指針第8項および第58項)。
本公開草案では、以下のとおり、金融商品会計基準等上の有価証券に該当する場合と該当しない場合に分けて会計処理を行うことを提案しています。
金融商品会計基準等上の有価証券に該当する場合
<発生および消滅の認識>
金融商品会計基準第7項から第9項の定めに従って行う(※)。
ただし、電子記録移転有価証券表示権利等の売買契約について、契約を締結した時点(金融商品実務指針における「約定日」に相当する時点)から電子記録移転有価証券表示権利等が移転した時点までの期間が短期間である場合、契約を締結した時点で買手は電子記録移転有価証券表示権利等の発生を認識し、売手は電子記録移転有価証券表示権利等の消滅を認識する。なお、短期間かどうかは、我が国の上場株式における受渡しに係る通常の期間と概ね同期間かそれより短い期間であるかどうかに基づいて判断することが考えられる。
※金融資産の発生の認識について、金融商品会計基準においては、金融資産の契約上の権利を生じさせる契約を締結したときは、原則として、当該金融資産の発生を認識しなければならないとされている(金融商品会計基準第7項)。また、金融資産の消滅の認識について、金融商品会計基準においては、金融資産の契約上の権利を行使したとき、権利を喪失したときまたは権利に対する支配が他に移転したときは、当該金融資産の消滅を認識しなければならないとされており(金融商品会計基準第8項)、金融資産の契約上の権利に対する支配の他への移転の要件が定められている(金融商品会計基準第9項)。
<貸借対照表価額の算定および評価差額>
金融商品会計基準第15項から第22項および金融商品実務指針の定めに従って行う。
金融商品会計基準等上の有価証券に該当しない場合
一部の信託受益権については、金融商品取引法上の有価証券に該当するものの、金融商品会計基準等上、有価証券として取り扱われない場合がある。これらの会計処理については、金融商品実務指針および実務対応報告第23号「信託の会計処理に関する実務上の取扱い」(以下、「信託報告」とする)の定めがある。電子記録移転有価証券表示権利等に該当する前述の信託受益権を保有する場合の会計処理についても、金融商品実務指針および信託報告の定めに従う。
ただし、金融商品会計基準等上の有価証券に該当しない電子記録移転有価証券表示権利等のうち、金融商品実務指針および信託報告の定めに基づき、結果的に有価証券とみなして、または、有価証券に準じて取り扱うこととされているものについての発生の認識(信託設定時を除く)および消滅の認識は、上記の金融商品会計基準等上の有価証券に該当する場合の定めに従って行う。
開示
表示
本公開草案では、電子記録移転有価証券表示権利等を発行または保有する場合の表示方法は、みなし有価証券が電子記録移転有価証券表示権利等に該当しない場合に求められる表示方法と同様とすることを提案しています。
注記事項
本公開草案では、電子記録移転有価証券表示権利等を発行または保有する場合の注記事項は、みなし有価証券が電子記録移転有価証券表示権利等に該当しない場合に求められる注記事項と同様とすることを提案しています。
適用時期
本公開草案では、2023年4月1日以後開始する事業年度の期首から適用すること、ただし、公表日以後終了する事業年度および四半期会計期間から適用できることを提案しています。
_______________________________________________________________
1 一部の有価証券のみ記載している。
2 一部の権利のみ記載している。
3 金融商品取引法第2条第2項第5号の要件を満たすものがみなし有価証券に含まれる。
4 金融負債とは、支払手形、買掛金、借入金および社債等の金銭債務ならびにデリバティブ取引により生じる正味の債務等をいう。
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