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日本基準トピックス 第446号
主旨
  • 2022年3月25日、金融庁は「有価証券報告書の作成・提出に際しての留意すべき事項及び有価証券報告書レビューの実施について(令和4年度)」を公表しました。
  • 2022年3月期以降の事業年度に係る有価証券報告書を作成・提出する際の留意事項として、以下が挙げられています。
    • 新たに適用となる開示制度に係る留意すべき事項
      • 「収益認識に関する会計基準」の公表を踏まえた財務諸表等規則等の改正
      • 「時価の算定に関する会計基準」、「棚卸資産の評価に関する会計基準」の改正、および「金融商品に関する会計基準」の改正(以下、「時価の算定に関する会計基準等」)の公表を踏まえた財務諸表等規則等の改正
    • 有価証券報告書レビューの審査結果および審査結果を踏まえた留意すべき事項
  • 2022年3月期以降の事業年度に係る有価証券報告書レビューについて、以下の内容で実施するとされています。
    • 法令改正関係審査
    • 重点テーマ審査
      • 「収益認識に関する会計基準」
    • 情報等活用審査
  • 原文については、金融庁のウェブサイトをご覧ください。
有価証券報告書の作成・提出に際しての留意事項(2022年3月期以降)
2022年3月期以降の事業年度に係る有価証券報告書の作成・提出に際しての留意事項は以下のとおりです。
1.新たに適用となる開示制度に係る留意すべき事項
2022年3月期以降に適用される開示制度に係る公表・改正のうち、主なものは以下のとおりです。
  • 「収益認識に関する会計基準」の公表を踏まえた財務諸表等規則等の改正
  • 「時価の算定に関する会計基準」、「棚卸資産の評価に関する会計基準」の改正、および「金融商品に関する会計基準」の改正(以下、「時価の算定に関する会計基準等」)の公表を踏まえた財務諸表等規則等の改正
2.有価証券報告書レビューの審査結果及び審査結果を踏まえた留意すべき事項
2021年度有価証券報告書レビューの審査結果が公表されています。審査の結果、改善の余地があると考えられる事項が識別され、これを踏まえて記載にあたって留意すべき事項が示されています。なお、IFRS第15号「顧客との契約から生じる収益」については、「収益認識に関する会計基準」の適用会社にも参考になると考えられることから、充実した開示を検討する上で本審査結果を活用することが期待されています。
(1)法令改正関係審査
(a)会計上の見積りの開示に関する会計基準
2021年3月期より適用となった「会計上の見積りの開示に関する会計基準」に関して、審査が行われました。審査の結果、全体として大きな課題等は識別されなかったとの結果が示されています。以下の留意すべき事項に注意し、今後も引き続き、投資家に有用な情報開示となるよう開示の充実が期待されています。
<留意すべき事項>
項目の識別について
開示すべき重要な会計上の見積り項目の識別は、翌年度の財務諸表に重要な影響を及ぼすリスクか否かについて、影響の金額的大きさ及びその発生可能性に関する企業自身の適切な総合的判断が求められる。開示すべき会計上の見積り項目に漏れ等がないように慎重な判断を期待する。
具体的な内容等の開示について
開示すべき具体的な内容や記載方法(定量的情報若しくは定性的情報、又はこれらの組み合わせ)については、開示目的に照らした企業自身による適切な判断が求められる。投資家がリスクの内容を十分理解できるように具体的な内容等の開示がなされることを期待する。
(b)会計方針の開示、会計上の変更及び誤謬の訂正に関する会計基準の改正
2021年3月期より適用となった「会計方針の開示、会計上の変更及び誤謬の訂正に関する会計基準」の改正に関して、注記項目の開示漏れ等の有無について審査が行われました。審査の結果、全体として大きな課題等は識別されなかったとの結果が示されています。以下の留意すべき事項に注意し、今後も引き続き、投資家に有用な情報開示となるよう開示の充実が期待されています。
<留意すべき事項>
重要な会計方針として記載すべき項目の見直しの要否を定期的に検討することに留意する。例えば、以下のような場合には特に留意が必要である。
  • 関連する会計基準等が存在しない新たな取引や経済事象が出現した場合
  • 業界特有の会計処理方針等、該当する事項はあるものの、重要性が乏しいために省略していたが、経営環境やビジネスの変化等により当該事項の重要性が増加した場合
(c)過年度の審査結果のフォローアップ
2019年1月に施行された「企業内容等の開示に関する内閣府令の一部を改正する内閣府令」に基づく改正内容に関連して、2019年度および2020年度の審査において、一部の提出会社で当該改正に関する記載内容に改善の余地がある事項が識別されています。識別された事項について、2021年度の審査において改善状況を確認するフォローアップが行われました。フォローアップの結果、改善の余地がある事項、または、投資家が期待する好開示と乖離がある事項が見受けられたとして、以下の項目について留意すべき事項や投資家が期待する好開示のポイントが示されています。
・「役員の報酬等」に関する留意事項
・「株式等の保有状況」に関する留意事項
<「役員の報酬等」に関する主な留意すべき事項>
  • 当事業年度における役員の報酬を決定する過程で、取締役会等において、いつ、どのような内容の審議を行って決定したか、具体的に活動内容を記載することに留意する。
  • 取締役会の決議によって決定の全部又は一部を取締役(例えば、代表取締役等)に再一任している場合も、取締役会の活動内容(例えば、再一任に関する審議を行った取締役会の審議内容及び開催時期等や再一任を受けた取締役により決定された内容について取締役会で審議を行っている場合にはその審議内容及び開催時期等)を記載することに留意する。
<「株式等の保有状況」に関する主な投資家が期待する好開示のポイント(例)>
  • 保有方針に関して、保有先企業のノウハウ・ライセンスの利用等、経営戦略上どのように活用し得るかについて具体的に記載することを期待する。また、保有の上限を設定して記載することや売却の方針等がある場合は当該方針を記載すること等を期待する。
  • 保有の合理性を検証する方法に関して、純投資のように時価(含み益)や配当金によるリターンを評価するのではなく、事業投資と同様、事業の収益獲得への貢献度合いについて具体的に記載することを期待する。
  • 個別銘柄の保有の適否に関する取締役会等における検証の内容に関して、取締役会等の具体的な開催日時や議題等を記載する。
  • 定量的な保有効果を記載する。定量的な保有効果の記載が困難な場合、どのような観点で定量的な測定が困難だったかを具体的に記載する。
(2)重点テーマ審査
(a)新型コロナウイルス感染症に関する開示
審査対象として選定された提出会社の有価証券報告書の非財務情報および財務情報に記載される新型コロナウイルス感染症に関する開示内容について、審査が行われました。
審査の結果、改善の余地があると考えられる事項が識別されたとして、全般的な留意事項として以下の点が示されています。
<全般的な留意事項>
経営者の視点による充実した開示
新型コロナウイルス感染症の影響により経営の不確実性が高まる中、経営者の視点による充実した開示を行うことは、投資家の投資判断にとって重要と考えられる。しかしながら、取締役会や経営会議等において議論された新型コロナウイルス感染症に関する経営環境、経営方針、経営リスク等の内容について、十分に開示されていない事例が見受けられた。経営者の視点による充実した開示が行われることを期待する。
セグメントごとの開示
新型コロナウイルス感染症の影響は、通常、セグメントごと(事業、地域等)に異なることが考えられる。セグメントごとの違い(あるいは、違いが少ない場合にはその内容も含む)について、十分に開示されていない事例が見受けられた。セグメントごとの情報に関して、経営者の視点による深度ある開示を行うことを期待する。
一貫性のある開示
新型コロナウイルス感染症に関する開示は、通常、有価証券報告書の非財務情報及び財務情報の複数の箇所にまたがる。それぞれの箇所で記載されている内容の関係性が不明瞭な事例が見受けられた。それぞれの開示項目の目的に照らし、投資家にわかりやすく、首尾一貫した開示を行うことを期待する。
また、個別の留意事項として、以下の各項目の開示等について、改善の余地があると考えられる事項が識別されており、それぞれ改善の方向性が示されています。
(ア)経営方針、経営環境及び対処すべき課題等
(イ)事業等のリスク
(ウ)経営者による財政状態、経営成績及びCF等の分析
(エ)会計上の見積りの開示に関する会計基準に基づく注記
<「(ア)経営方針、経営環境及び対処すべき課題等」に関する改善の方向性>
  • 新型コロナウイルス感染症の影響を踏まえた経営者の経営方針・経営戦略等に関して、A事業とB事業それぞれの影響や経営戦略等を記載するなど、セグメントごとに、より具体的に記載する。
  • 新型コロナウイルス感染症の流行に伴う経営環境等への影響を踏まえ、経営方針・経営戦略等を見直した場合にはその内容、また、見直す必要がないと判断した場合でも、その結論に至った判断の背景等を開示することが望まれる。
<「(イ)事業等のリスク」に関する改善の方向性>
  • 業績への影響だけではなく、例えば、従業員の働き方やサプライチェーンへの影響といった、事業活動に与える影響等も含めて、取締役会や経営会議等における議論の内容等を記載する。
  • リスクが顕在化する可能性の程度や時期、当該リスクが顕在化した場合に経営成績等の状況に与える影響額等、リスクの内容を具体的に記載する。また、定量的な金額等の開示が望ましいが、定量化ができない場合にはその旨を開示し、定量化が可能となった場合において四半期報告書等での適時の開示が望まれる。
  • リスクの対応策については、テレワーク等の事業活動に係る対応策を含め、取締役会や経営会議等における議論の内容等を踏まえ具体的に記載する。
<「(ウ)経営者による財政状態、経営成績及びCF等の分析」に関する改善の方向性>
  • 経営成績等の分析において、 例えば、セグメントごと(事業や地域)の影響、生産・販売に関する影響など適切に区分して記載するなど、より具体的な内容の分析を記載する。
<「(エ)重要な会計上の見積り注記」に関する改善の方向性>
  • 将来の新型コロナウイルス感染症の影響に関する見積りが重要な仮定である場合、新型コロナウイルス感染症に関して、どのような点を主要な仮定としているか(例えば、新型コロナウイルス感染症の収束時期に関する仮定など)について具体的に記載する。
それぞれの詳細は、金融庁のウェブサイトに掲載の別紙1をご覧ください。
(b)IFRS第15号「顧客との契約から生じる収益」
昨年度に引き続き、指定国際会計基準を任意適用する提出会社から審査対象会社が選出され、以下の収益認識に関する表示および開示がIFRS第15号に基づいて適切にされているかについて、審査が行われました。
・収益認識の注記
・重要な会計方針の注記
・連結財務諸表の注記
本年度および昨年度の審査の結果、改善の余地があると考えられる事項が識別されたとして、全般的な留意事項として以下の点が示されています。
<全般的な留意事項>
一貫性のある開示
個々の開示内容は基準に従った開示と考えられる一方、項目間の関係性を読み取れない事例が見られた。個々の開示要求に対する形式的な対応にとどまらず、関連する開示が全体として開示目的を達成するための十分な情報となっているか検討することが求められる。
(改善の余地があると考えられる例)
  • 履行義務に関する情報の説明と収益の分解に関する情報の区分が異なる。
  • 履行義務に関する情報とそれが契約残高に与える影響の関係性が明確ではない。また、どの履行義務と関連する契約残高であるかが明確ではない。
開示の要否の判断
以下の理由等により、基準で求められている開示を省略する事例が見られた。しかし、これらは開示を省略する理由として適切ではないと考えられる。
  • 特殊な履行義務ではないため
  • 業界慣行に従い処理しているため
  • 日本の会計基準による会計処理と差異がないため
  • 非財務情報等において記載しているため
重要性の判断
重要性の判断は開示目的とともに考慮するべきであり、重要性がないとして要求されている開示を省略する際には、その省略によって開示目的の達成に必要な情報の理解も困難になっていないかどうか検討することが求められる。
また、重要性が乏しい事項について、開示されている定量的情報等からその旨を読み取ることができない場合は、重要性が乏しいことが分かるように簡潔な説明を加えることも有用と考えられる。
また、個別の留意事項として、以下の各項目の開示等について、改善の余地があると考えられる事項が識別されており、それぞれ改善の方向性が示されています。
(ア)履行義務 (IFRS第15号第119項)
(イ)履行義務の充足の時期の決定 (IFRS第15号第124項、第125項)
(ウ)契約残高 (IFRS第15号第116項、第117項)
(エ)残存履行義務に配分した取引価格 (IFRS第15号第120項、第122項)
(オ)取引価格および履行義務への配分額の算定 (IFRS第15号第126項)
(カ)収益の分解 (IFRS第15号第114項、第115項)
(キ)重要な判断/見積りを伴う判断 (IAS第1号第122項、第125項)
<「(ア)履行義務」に関する改善の方向性>
  • 主要な履行義務の充足時期につき、企業が移転を約束した財やサービスの内容に基づき企業固有の内容で具体的に説明する。特に、サービスについては履行義務の充足時期についての説明を補足するため、より具体的な説明をする。説明の詳細さについては他の注記(収益の分解等)の内容を考慮して決定する。
  • 通常の支払期限について、会社が一般的であると認識している情報であっても、財務諸表利用者が当該情報を読み取ることが出来るように具体的に説明する。 重大な金融要素や対価の金額の変動性について、重要性がないと判断した場合や該当事項がないと判断した場合でも、その旨を簡潔に開示する。
  • 主要な履行義務の内容につき、企業固有の内容を反映して 具体的に説明する。 特に、サービスの提供や一定の期間にわたり充足する履行義務はさまざまな類型の契約が存在すると考えられるため、詳細に説明する。
  • どの履行義務において、企業が代理人として行動しているかを明確に説明する。
<「(イ)履行義務の充足の時期の決定」に関する改善の方向性>
  • 第119項(a) で要求されている事項(企業が履行義務を充足する通常の時点)の開示のみでは、財務諸表利用者は、履行義務の充足の時期を決定する際に用いた判断まで読み取ることができないため、第124項(a)及び(b)並びに第125項で要求されている判断に関する事項について、具体的に説明する。
  • 履行義務の充足の時期を決定する際に用いた判断について理解が深まるように、第119項(a)及び(c)において要求されている履行義務に関する事項の開示を充実する。
<「(ウ)契約残高」に関する改善の方向性>
  • 契約資産や契約負債の残高に加えて、定性的な説明を加えることで、履行義務の充足や通常の支払時期との関係性を明らかにする。
<「(エ)残存履行義務に配分した取引価格」に関する改善の方向性>
  • 残存履行義務に配分した取引価格に関して、企業がいつ収益として認識すると見込んでいるのかについて、定性的情報を使用した方法で説明する場合であっても、収益の金額及び予想される時期に関しての趨勢等を示すことも有用な情報と考えられる。
  • 残存履行義務に配分した取引価格に関する開示に関して要求されている開示項目は、重要性がない、もしくは該当事項がない場合にもその旨を簡潔に開示する。
<「(オ)取引価格および履行義務への配分額の算定」に関する改善の方向性>
  • 変動価格の算定について具体的に記載する。
  • 取引価格の配分が必要な場合においては、約束した財又はサービスの独立販売価格の見積りに関する情報を記載する。
<「(カ)収益の分解」に関する改善の方向性>
  • 収益を、収益及びキャッシュ・フローの性質、金額、時期及び不確実性がどのように経済的要因の影響を受けるのかを描写する区分に適切に分解し、収益の分解情報と収益の分解情報以外の情報(特に履行義務の内容)との関係性を明確にする。
  • 分解した収益の開示と、各報告セグメントについて開示される収益情報(IFRS第8号「事業セグメント」を適用している場合)との間の関係を理解できるようにするための十分な情報を開示する。
  • その他の源泉から生じた収益の額を区分して開示する。その他の源泉から生じた収益の額に重要性がない場合でも、その旨を示す開示又は当該収益の額を開示する。
<「(キ)重要な判断/見積りを伴う判断」に関する改善の方向性>
  • IAS第1号第122項又は第125項に収益認識に関する判断や見積りを伴う判断が該当すると判断した場合、どの領域を指しているか特定できるように具体的に記載する。収益認識に係る会計方針や注記を参照する場合には、項目全体ではなく項目内の参照箇所を特定できるように明瞭に記載する。
それぞれの詳細は、金融庁のウェブサイトに掲載の別紙1をご覧ください。
有価証券報告書レビュー(2022月3月期以降)の実施
金融庁は、各財務局等と連携して、有価証券報告書レビューを実施しています。2022年度の有価証券報告書レビューについては、以下の内容で実施されます。なお、過去の有価証券報告書レビューにおいて、フォローアップが必要と認められた会社についても、別途審査が実施されます。
1.法令改正関係審査
2022年3月期以降の事業年度に係る全ての有価証券報告書提出会社が対象となります。以下の会計基準の改正について、記載内容の審査が行われます。有価証券報告書提出会社は、金融庁ホームページの「調査票」に回答し、所管の財務局等に提出することが要請されています。
  • 「収益認識に関する会計基準」
  • 「時価の算定に関する会計基準等」(「時価の算定に関する会計基準」、「棚卸資産の評価に関する会計基準」の改正、および「金融商品に関する会計基準」の改正)
2.重点テーマ審査
以下のテーマに着目し、審査対象会社が選定されます。審査対象となる会社には、所管の財務局等から個別の質問状を送付するとされています。
  • 「収益認識に関する会計基準」
3.情報等活用審査
適時開示や報道、一般投資家等から提供された情報等を勘案し、審査対象会社が選定されます。審査対象となる会社には、所管の財務局等から個別の質問状を送付するとされています。
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