日本基準トピックス 第450号
主旨
- 2022年10月28日、企業会計基準委員会(以下、「ASBJ」とする)は、企業会計基準第27号「法人税、住民税及び事業税等に関する会計基準」(以下、「法人税等会計基準」とする)、企業会計基準第25号「包括利益の表示に関する会計基準」(以下、「包括利益会計基準」とする)および企業会計基準適用指針第28号「税効果会計に係る会計基準の適用指針」(以下、「税効果適用指針」とする)(以下、合わせて「本会計基準等」とする)の改正基準を公表しました。
- 本会計基準等の改正は、以下の会計処理および開示の取扱いを定めることを目的としています。
- その他の包括利益に対して課税される場合の法人税等の計上区分
- グループ法人税制が適用される場合の子会社株式等 1の売却に係る税効果
- 原文については、ASBJのウェブサイトをご覧ください。
- なお、本会計基準等は、日本公認会計士協会(以下、「JICPA」とする)の実務指針等にも影響するため、2022年10月28日、JICPAより、実務指針等の改正が公表されています。実務指針等の改正の原文については、JICPAのウェブサイトをご覧ください。
- また、本会計基準等の改正基準の公表により他の会計基準等の修正も行われています。
経緯
ASBJは、2018年2月に企業会計基準第28号「『税効果会計に係る会計基準』の一部改正」等を公表し、JICPAにおける税効果会計に関する実務指針のASBJへの移管を完了しましたが、その審議の過程で識別されていた以下の論点について改めて検討を行ってきました。
- その他の包括利益に対して課税される場合の法人税等の計上区分
- グループ法人税制が適用される場合の子会社株式等の売却に係る税効果
ASBJは、審議に基づき2022年3月30日に本会計基準等の改正を提案する公開草案を公表し、広くコメント募集を行った後、ASBJに寄せられたコメントを検討し、公開草案の修正を行ったうえで、改正基準を公表しました。
本会計基準等の改正基準の公表理由
1、その他の包括利益に対して課税される場合の法人税等の計上区分
その他の包括利益に計上された取引または事象(以下、「取引等」とする)が課税所得計算上の益金または損金に算入され、法人税、住民税および事業税等(以下、「法人税等」とする)が課される場合があります。改正前の企業会計基準第27号「法人税、住民税及び事業税等に関する会計基準」では、当事業年度の所得等に対する法人税等は、法令に従い算定した額を損益に計上することとしていたため、取引等についてはその他の包括利益に計上される一方で、これに対して課される法人税等は損益に計上されることとなり、税引前当期純利益と税金費用の対応関係が図られていないという意見がありました。そこで、その他の包括利益に対して課される法人税等のほか、株主資本に対して課される法人税等も含めて、その計上区分についての見直しが行われました。
本会計基準等の改正により、以下のような取引等に影響((1)から(4)はその他の包括利益に対して課税される場合、(5)は株主資本に対して課税される場合)があると想定されています。
(1)グループ通算制度(従来の連結納税制度を含む)の開始時または加入時に、会計上、評価・換算差額等またはその他の包括利益累計額が計上されている資産または負債に対して、税務上、時価評価が行われ、課税所得計算に含まれる場合
(2)非適格組織再編成において、会計上、評価・換算差額等またはその他の包括利益累計額が計上されている資産または負債に対して、税務上、時価評価が行われ、課税所得計算に含まれる場合
(3)投資をしている在外子会社の持分に対してヘッジ会計を適用している場合などにおいて、税務上は当該ヘッジ会計が認められず、課税される場合
(4)退職給付について確定給付制度を採用しており、連結財務諸表上、未認識数理計算上の差異等をその他の包括利益累計額として計上している場合において、確定給付企業年金に係る規約に基づいて支出した掛金等の額が、税務上、支出の時点で損金の額に算入される場合
(5)子会社に対する投資の追加取得や子会社の時価発行増資等に伴い生じた親会社の持分変動による差額に係る連結財務諸表固有の一時差異について、資本剰余金を相手勘定として繰延税金資産または繰延税金負債を計上しており、その後、当該子会社に対する投資を売却した場合 2
2、グループ法人税制が適用される場合の子会社株式等の売却に係る税効果
グループ法人税制が適用される場合の子会社株式等の売却に係る税効果の取扱いについて、改正前の企業会計基準適用指針第28号「税効果会計に係る会計基準の適用指針」(以下、「税効果適用指針」とする)では、当該子会社株式等を売却した企業の個別財務諸表において、当該売却損益に係る一時差異に対して繰延税金資産または繰延税金負債が計上されているときは、連結決算手続上、当該一時差異に係る繰延税金資産または繰延税金負債の額は修正しないこととされていました。しかしながら、改正前の税効果適用指針での取扱いは、連結決算手続上、消去される取引に対して税金費用を計上するものであり、税引前当期純利益と税金費用が必ずしも適切に対応していないという意見がありました。こうした意見を踏まえ、検討を行った結果、従来の取扱いの見直しが行われました。
本会計基準等の改正により、以下のような取引等に影響があると想定されています。
- 100%子会社を所有する親会社の連結財務諸表において、その100%子会社同士あるいは当該親会社とその100%子会社との間で、当該親会社あるいはその100%子会社が所有する子会社株式等を売却し、当該売却に伴い生じた売却損益について、グループ法人税制が適用される場合
主な内容
本会計基準等の改正基準における会計処理および開示の取扱いに関する主な内容は、以下のとおりです。
1、その他の包括利益に対して課税される場合の法人税等の計上区分
法人税等の計上区分についての原則 | 当事業年度の所得に対する法人税等を、その発生源泉となる取引等に応じて、損益、株主資本およびその他の包括利益(または評価・換算差額等)に区分して計上する(法人税等会計基準第5項、第5-2項、第8-2項、第29-2項および第29-3項)。 |
複数の区分に関連することにより、株主資本またはその他の包括利益に計上する金額を算定することが困難な場合の取扱い | 例外的な定めとして、課税の対象となった取引等が、損益に加えて、株主資本またはその他の包括利益に関連しており、かつ、株主資本またはその他の包括利益に対して課された法人税等の金額を算定することが困難である場合には、当該税額を損益に計上することができる(法人税等会計基準第5-3項(2))。 なお、当該定めに該当する取引として、本会計基準等の開発時点においては、退職給付に関する取引を想定している(法人税等会計基準第29-6項および第29-7項)。 |
その他の会計処理 |
- 重要性が乏しい場合の取扱い(法人税等会計基準第5-3項(1)および第29-5項)
- 株主資本またはその他の包括利益に計上する金額の算定に関する取扱い(法人税等会計基準第5-4項および第29-8項)
- その他の包括利益の組替調整(リサイクリング)に関する取扱い(法人税等会計基準第5-5項、第29-9項および第29-10項)
- 関連する繰延税金資産または繰延税金負債を計上していた場合の取扱い(税効果適用指針第9項(3)、第30項、第31項および第123項から第124項)
- その他の包括利益の内訳の開示に関する取扱い(包括利益会計基準第8項および第30-2項)
|
2、グループ法人税制が適用される場合の子会社株式等の売却に係る税効果
連結会社間における子会社株式等の売却に伴い生じた売却損益を税務上繰り延べる場合の連結財務諸表における取扱いおよび子会社に対する投資に係る連結財務諸表固有の一時差異の取扱い |
連結会社間における子会社株式等の売却に伴い生じた売却損益について、税務上の要件を満たし課税所得計算において当該売却損益を繰り延べる場合(法人税法第61条の11)、連結財務諸表において以下の処理を行う。
- 子会社株式等を売却した企業の個別財務諸表において、売却損益に係る一時差異に対して繰延税金資産または繰延税金負債が計上されているときは、連結決算手続上、当該一時差異に係る繰延税金資産または繰延税金負債を取り崩す(税効果適用指針第39項、第143項および第143-2項)。
- 購入側の企業による当該子会社株式等の再売却等、法人税法第61条の11に規定されている、課税所得計算上、繰り延べられた損益を計上することとなる事由についての意思決定がなされた時点において、当該取崩額を戻し入れる(税効果適用指針第39項、第143項および第143-2項)。
- 子会社に対する投資に係る連結財務諸表固有の一時差異について、予測可能な将来の期間に子会社株式の売却を行う意思決定または実施計画が存在しても、当該一時差異に係る繰延税金資産または繰延税金負債を計上しない(税効果適用指針第22項、第23項、第105-2項および第106-2項)。
|
連結会社間における子会社株式等の売却に伴い生じた売却損益を税務上繰り延べる場合の個別財務諸表における取扱い | 連結会社間における子会社株式等の売却に伴い生じた売却損益について、税務上の要件を満たし課税所得計算において当該売却損益を繰り延べる場合、当該子会社株式等を売却した企業の個別財務諸表における処理については、税効果適用指針第17項の取扱い(当該売却損益に係る一時差異について、税効果適用指針第8項および第9項に従って繰延税金資産または繰延税金負債を計上する)を見直さない(税効果適用指針第143-2項)。 |
適用時期等
本会計基準等の改正基準は、2024年4月1日以後開始する連結会計年度および事業年度の期首から適用することとし、2023年4月1日以後開始する連結会計年度および事業年度の期首から早期適用することができるとされています。
また、本会計基準等の改正基準の適用初年度においては、会計基準等の改正に伴う会計方針の変更として取り扱い、原則として、新たな会計方針を過去の期間のすべてに遡及適用します。ただし、以下の経過的な取扱いが定められています。
1、その他の包括利益に対して課税される場合の法人税等の計上区分 | 新たな会計方針を遡及適用した場合の適用初年度の累積的影響額を、適用初年度の期首の利益剰余金に加減するとともに、対応する金額を資本剰余金、評価・換算差額等またはその他の包括利益累計額のうち、適切な区分に加減し、当該期首から新たな会計方針を適用することができる。 |
2、グループ法人税制が適用される場合の子会社株式等の売却に係る税効果 | 特段の経過的な取扱いは定められていない(すなわち、遡及適用を行う)。 |
(参考)
本会計基準等の改正基準の公表により改正されたJICPAの実務指針等は以下のとおりです。
- 会計制度委員会報告第4号「外貨建取引等の会計処理に関する実務指針」
- 会計制度委員会報告第7号 「連結財務諸表における資本連結手続に関する実務指針」
- 会計制度委員会報告第9号「持分法会計に関する実務指針 」
- 会計制度委員会報告第14号 「金融商品会計に関する実務指針」
- 会計制度委員会「金融商品会計に関するQ&A」
本会計基準等の改正基準の公表により修正された他の会計基準等は以下のとおりです。
法人税等会計基準 |
- 実務対応報告第42号「グループ通算制度を適用する場合の会計処理及び開示に関する取扱い」第7項および第25項
|
包括利益会計基準 |
- 企業会計基準第5号「貸借対照表の純資産の部の表示に関する会計基準」第8項および第26項
- 企業会計基準第6号「株主資本等変動計算書に関する会計基準」 第13項
- 企業会計基準第10号「金融商品に関する会計基準」 第18項、第32項、第79項、第105項
- 企業会計基準第26号「退職給付に関する会計基準」 第24項、第25項、第27項、第55項
- 企業会計基準適用指針第8号「貸借対照表の純資産の部の表示に関する会計基準等の適用指針」第5項、第14項、第24項
- 企業会計基準適用指針第9号「株主資本等変動計算書に関する会計基準の適用指針」第12項、第21項、設例2、設例3
- 企業会計基準適用指針第25号「退職給付に関する会計基準の適用指針」第33項、開示例1
|
税効果適用指針 |
- 企業会計基準適用指針第26号「繰延税金資産の回収可能性に関する適用指針」 第10項
|
_______________________________________________________________ |
1 子会社株式または関連会社株式
2 株主資本に対して課税される場合については、従来から税効果適用指針等において取扱いが示されているが、この場合のみ、本会計基準等の改正による会計処理による影響がある。