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国際会計基準(IAS)第32号に関連するIFRS解釈指針委員会で却下された論点の実務上の影響について、PwCアカウンティング・コンサルティング・サービスのHelen Wiseが検討します。
今あなたは何かの答えを探していますか。

もしかしたらそれはすでに専門家によって検討済みかもしれません。
IFRS解釈指針委員会(IFRS IC)(以下、「IC」)は、定期会議において、場合によっては20件にものぼる様々な論点を定期的に検討しています。議論された論点のうち、解釈指針が作成されるのは、ごく一部に限られます。多くの論点は却下されますが、改善や狭い範囲の修正となるものもあります。アジェンダに取り上げられなかった論点は「IFRICリジェクション(ICに却下された論点)」となり、これらは会計業界においては「非IFRIC(not an IFRIC)」もしくはNIFRICsとして知られています。NIFRICsは(2002年以降)成文化されており、国際会計基準審議会(IASB)の発行する基準書の「グリーンブック」に掲載されていますが、厳密には、権威のある会計基準書等に該当しません。このシリーズ記事では、ICによって「却下された」論点について知っておくべきことを取り上げます。
今回はIAS第32号「金融商品 表示」を扱います。
IAS第32号「金融商品:表示」
IAS第32号「金融商品:表示」は、最も複雑な基準の1つであり、ICの会議において頻繁に議論されてきました。今号の記事では、IAS第32号に関するICによって却下された論点(NFRICs)を補足して説明します。
IAS第32号は、企業によって発行された金融商品が資本性金融商品なのか金融負債なのかの分類方法を規定しています。金融商品が当初認識時に資本性金融商品に分類された場合、その後の再測定は要求されません。金融商品が金融負債に分類された場合には、IAS第39号「金融商品:認識及び測定」を適用する必要があります。
国際会計基準審議会(IASB)はIAS第32号の複雑性を認識しており、「資本の特徴を有する金融商品(Financial Instruments with Characteristics of Equity (FICE))」プロジェクトに着手しました。このプロジェクトは、2017年中にディスカッション・ペーパーを公表する見込みです。
IAS第32号は、発行済みの金融商品の負債または資本の分類以外にも多くの領域をカバーしています。しかし、この記事では、分類の質問に関連するNIFRICsのみを扱っています。以下では、ICによって却下された論点に含まれる重要な領域の一部を示しています。
契約上の義務か経済的な強制か
IAS第32号は、企業に「契約の実質」を検討することを要求しています。2006年11月、2013年9月、2014年1月に行われたIC会議の議論により、この原則が明確化されました。負債は、単に過去の実務慣行または支払いが行われるという見込みによってではなく、契約上の義務によって生じます。例えば、配当が自由裁量で支払われる可能性が高い場合があります。しかし、配当の支払いを強制する契約上の義務が存在しない場合、この「経済的な強制」は分類の評価から除外しなければなりません。
契約条件は、一部のケースにおいて、間接的な義務を生じさせます。企業が非金融的義務を決済することによってでしか現金での決済を回避できない場合には、当該金融商品は金融負債です。例えば、企業が現金の支払いを回避しようとする場合、企業は債務の決済として建物を引き渡さなければならないでしょう。各法域の制定法により設定された義務は金融負債ではありません。契約の中にそのような要求事項が含まれている場合には、慎重な検討が必要になります。
2014年1月のICリジェクションは、金融商品を分類する際に、実質的ではない決済条項について考慮しないことを明確化しました。
固定対固定
IAS第32号には、企業自身の株式で決済される契約に関するガイダンスが含まれています。固定額の現金またはその他の金融資産と固定数の企業自身の資本性金融商品との交換により決済される契約は、通常、資本に分類されます(「固定対固定」)。
ICは、固定対固定要件についてより詳しいガイダンスの策定を求める多くの要望を受け取りました。
最初の要望は、株式数が固定で、負債が外貨建てである場合の金融商品に関するものでした(2005年6月/9月)。
ICは、そのような金融商品は外国為替エクスポージャーによる変動可能性のために固定対固定要件を満たさないことに留意しました。
次の質問は、子会社が転換社債を発行し、固定数の親会社の株式で決済される場合について提起されました。親会社の機能通貨は子会社の機能通貨と異なります。提起された質問は、固定対固定要件が満たされるかどうかを決定する際に、どちらの機能通貨を検討すべきかについてでした。ICはこの論点に関してガイダンスを提供しませんでした。
IASBはその後、外国為替による変動可能性がある場合、極めて特定の条件の下で資本への分類を認める修正を公表しました。この結果、多くの外貨建ての株主割当発行が資本取引に分類されます。
2010年1月に、ICは、固定対固定要件は転換社債の場合にどのように解釈すべきかについて明確化を求める要望を受けました。転換社債は、株式分割、配当の支払、または株式が時価を下回る価格で発行されるなど、特定の事象が発生した場合に、転換価格を調整する条項を付けていることがよくあります。このような条項は変動可能性をもたらすため、固定対固定要件が満たされなくなる可能性があります。ICは、実務上の多様性が生じていることを認めながらも、FICEプロジェクトがこれらの論点に取り組む予定であることを理由にガイダンスを提供しませんでした。
この決定により実務に進展がありました。特に、調整後も株主と転換社債の保有者の権利の比率が維持される場合、すべての条項や変動可能性が固定対固定の要件を満たさないわけではありません。
また、別の要望として、負債が株式で決済される場合に関する追加のガイダンスを求める要望がICに提起されました(2013年9月、2014年1月および2014年5月)。ICは、これについてさらなるガイダンスを提供せず、FICEプロジェクトにこれらの論点を委ねました。
何が「固定対固定」を構成するのかの決定は、今後も引き続きIAS第32号におけるもっとも困難な領域です。
非支配持分(NCI)が保有する売建プット・オプション
IAS第32号には、企業が自己の株式を購入する義務を有している場合の難解な要求事項が含まれています。金融負債が、償還金額(すなわち、株式の購入価格の合計)の現在価値について認識されます。2006年11月、ICは、当該ガイダンスが、連結財務諸表上で、NCIが売建オプションまたは先渡契約のいずれかにより、親会社に対して子会社持分を購入することを要求できる場合に適用されるのかどうかについて質問を受けました。ICは何度かこの論点を議論し、そのような契約は、支払いがNCIによるオプションの行使を条件としている場合であっても、金融負債として会計処理しなければならないと結論付けました。当該金融負債は、(売建オプションまたは先渡契約の行使価格である)償還金額の現在価値で測定しなければなりません。
ICのこの決定およびそれに続く2012年5月公表の解釈指針案は、その後、大きな議論を引き起こしました。解釈指針案は最終化されておらず。かわりにIASBが、FICEプロジェクトの一環として非支配持分(NCI)の売建プット・オプションに対処する予定です。
2016年5月に、NCIプットが、可変数の親会社の自己株式の引渡しによって決済されるか決済される可能性がある(親会社の選択により)場合についての別の質問が提起されました。ICはガイダンスを提供せず、FICEプロジェクトにこれらの論点を委ねました。
まとめ
IAS第32号は、適用するのが複雑な基準です。このことは、ICに多くの要望が提起されていることで明らかになっています。ICは、多くの最近の論点をFICEプロジェクトに委ねており、目下、IASBによる議論が行われています。2017年後半には、ディスカッション・ペーパーが公表されると見込まれているものの、公開草案および基準の策定には長い時間がかかります。それまで、IAS第32号の多様性および複雑性の問題は残ることになります。
IAS第32号に関するIFRICリジェクションの要旨
トピック
結論の要旨
非償還優先株式の分類
(2004年5月)
この論点は「基本的な」非償還株式は資本に分類すべきか負債に分類すべきかに関するものであった。ICは十分なガイダンスがあると結論づけた。
企業自身の資本性金融商品で決済される外貨建て契約の分類
(2005年6月/9月)
ICは、企業が固定額の外貨と交換に固定数の自らの資本性金融商品を引き渡すことにより決済される契約は、金融負債なのか資本性金融商品なのかについて議論した。ICは、そのような契約は金融負債であると結論づけた。
発行者の親会社の資本性金融商品に交換可能な外貨建て金融商品
(2006年11月)
上記の決定後、子会社が金融商品を発行しており、その金融商品は、固定額の親会社の機能通貨と固定数の親会社の資本性金融商品を交換することにより決済される状況について、ガイダンスを求める要望が提起された。質問は、連結財務諸表上で資本への分類が可能かどうかについてであった。ICは、i)子会社の機能通貨、または、ii)親会社の機能通貨のどちらに基づき評価を行うべきかを検討した。ICは、グループ企業が同一の機能通貨を有していないことに留意した。ICは、質問の範囲は相当狭く、実務上、広い範囲に関連するとは見込まれないと考えた。したがって、この論点はアジェンダに追加されなかった。
金融負債への分類変更をもたらす既存の資本性金融商品の契約条件の変更
(2006年11月)
ICは、資本性金融商品の契約条件に対する修正が金融負債への分類をもたらす状況について検討した。ICは、金融負債は、契約条件の変更時点で認識されなければならないことに留意した。IAS第39号第43項に従い、金融負債は当初認識時に公正価値で測定される。
金融商品の負債または資本への分類
(2006年11月)
ICは、契約上の義務は明示的または間接的に設定される可能性があるが、金融商品の契約条件のみを通じて設定されなければならないことを確認した。経済的な強制は、それ自体では、IAS第32号に従った金融商品の負債への分類をもたらさない。
非支配持分が保有するプット・オプションおよび先渡契約
(2006年11月)
ICは、子会社に対する非支配持分が保有する株式を、親会社が取得する先渡契約/プット・オプション契約を締結している場合の会計処理の明確化を求める要望を受けた。ICは、親会社が非支配持分の保有する株式を購入するために、将来、現金を支払う義務を有している場合には、たとえその現金の支払がオプションの保有者による行使を条件にしている場合であっても、親会社は金融負債を認識しなければならない、と結論づけた。
ICは当該トピックについて複数回議論しており、2012年5月に解釈指針案が公表された。しかし、最終化はなされず、この論点はFICEプロジェクトの一環として対応されることとなった。
プッタブル金融商品および永久金融商品の分類
(2009年3月)
ICは、資本性金融商品への分類に関して、「金融商品は他のすべてのクラスの金融商品に劣後する金融商品のクラスに属しており、同一の特徴を有していなければならない」とするIAS第32号第16A項の要求事項について適用ガイダンスを求める要望を検討した。ICは、ガイダンスを開発するほどの実務上の著しい多様性は見込まれないとして、アジェンダにこの論点を追加しなかった。
「固定対固定」要件の適用
(2010年1月)
固定額の現金またはその他の金融資産と交換で企業自身の固定数の資本性金融商品を受け取るかまたは引き渡すことにより決済される契約は、資本性金融商品であるとみなされる(「固定対固定要件」)。ICは固定対固定要件の適用に関する追加のガイダンスの提供を求める要望を受けた。ICはこの論点をFICEプロジェクトに委ねた。
株主の自由裁量権
(2010年3月)
ICは、優先株式の形式の金融資産が現金を引き渡す契約上の義務を含んでおり、支払いが発行者の株主の最終的な自由裁量で行われる場合、金融負債なのか資本なのかに関してガイダンスを求める要望を受けた。ICは、IASBがFICEプロジェクトの一環としてこの論点に対応するよう推奨した。
発行者に決済の形態を選択する契約上の権利を与えている金融商品の分類
(2013年9月)
ICは、IAS第32号に従って発行者が3つの金融商品をどのように分類することになるのかを明確化するよう要望を受けた。どの金融商品にも満期日はなかったが、各金融商品はいつでも償還できる契約上の権利を保有者に与えていた。保有者の償還請求権は、3つの金融商品のそれぞれについて違っていた。しかし、保有者が償還請求権を行使した場合には、それぞれのケースにおいて、発行者が、当該金融商品の決済を現金または固定数の自身の資本性金融商品で行うことを選択する契約上の権利を有していた。発行者は、3つの金融商品に関して配当の支払を要求されないが、自らの裁量でその選択が可能であった。
ICは、現行のIFRSの要求事項の分析に照らして、解釈指針は必要ないと考え、この論点をアジェンダに追加しないことを決定した。
偶発的な「存続不能」事象の発生時に可変数の株式に強制転換される金融商品の分類
(2014年1月)
ICは、特定の強制転換可能な金融商品を発行者がIAS第32号に従ってどのように分類するかを議論した。この金融商品には明記された満期日がなかったが、発行者がTier 1の自己資本比率に違反した場合(すなわち、「偶発的な存続不能事象」として記述)には、発行者自身の可変数の資本性金融商品に強制的に転換されるものであった。利息は、発行者の裁量による。
ICは、この論点をアジェンダに追加しないことを決定した。ICは、要望書で提起された論点は範囲が広すぎ、ICが効率的な方法で対処することはできないと考えた。
可変数の株式(キャップおよびフロアが付いている)に強制転換される金融商品で、発行者に最大(固定)数の株式の引渡しによって決済するオプションを与えているもの
(2014年1月)
金融商品に含まれている特定の早期決済オプションの実質の評価を、どのように行うことになるのかについての質問がICに提起された。
ICは、発行者が固定数の自己の資本性金融商品の引渡しによって金融商品を決済する契約上の権利を有しているという理由だけでは、発行者は金融商品(またはその構成部分)が資本性金融商品の定義を満たすと仮定することはできないことに留意した。ICは発行者の早期決済のオプションが実質的かどうか(したがって金融商品を分類する方法を決定する際に考慮すべきであるかどうか)の判定には、判断が必要となることに留意した。早期決済オプションが実質的でない場合には、金融商品の分類を決定する際にその条件を考慮しないことになる。
ICは、早期決済オプションが実質的かどうかを判定するためには、発行者は、発行者がオプションを行使するであろうという実際の経済的理由または他の事業上の理由があるかどうかを理解する必要があることに留意した。
可変数の株式(キャップおよびフロアーが付いている)に強制転換される金融商品の会計処理
(2014年5月)
ICは、可変数の自己の資本性金融商品(キャップおよびフロアーが付いている)に強制転換される特定の金融商品の会計処理を、発行者がIAS第32号およびIAS第39号または国際財務報告基準(IFRS)第9号「金融商品」に従ってどのように行うことになるのかを議論した。
ICは、キャップとフロアーは、発行者の持分株式の価格に対応して価値が変動する組込デリバティブ要素であることに留意した。ICは解釈指針が必要ではないと結論付けた。
可変数の親会社株式によって決済される非支配持分に係る売建プット・オプションの会計処理
(2016年5月)
ICは、企業が連結財務諸表において非支配持分に係る売建プット・オプション(NCIプット)をどのように会計処理をするかに関する要望を受けた。NCIプットには行使価格があり、それは可変数の親会社自身の資本性金融商品との交換により決済されるかまたは決済される可能性がある。ICは、現金で決済されるNCIプットに関する論点を過去に議論していたことに着目した。それらの論点はIASBに委ねられ、FICEプロジェクトの一部として検討されている。
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