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Q. 国際財務報告基準(IFRS)のフレームワークについて教えてください。
A
1. フレームワークとは
IFRSにおけるフレームワークに触れる前に、会計の世界におけるフレームワークについて簡単に説明します。会計の世界におけるフレームワークとは、企業会計の基礎にある前提や概念を体系化したものであり、会計基準の基礎となる概念・考え方を示したものです。フレームワークはまた、将来の会計基準設定に際してその指針たる役割をも担うものです。
一般的にフレームワークでは、(1)財務報告の目的や特性、(2)財務報告の構成要素やその認識・測定、(3)表示と開示といったことが規定されています。これをさらに細かく見ると、発生主義会計や継続企業の前提、資産や負債の定義といったことが示されています。
このように、フレームワークは会計基準全体の基礎となる前提や概念を示すものであるため、この内容は当該会計基準全体の基礎をなす諸概念を記述するものであるといえます。その一方で、フレームワークはその性質上、市場環境や経済的環境の変化に常に対応し、必要に応じ柔軟に見直されるべき性質のものであるということもいえます。
2. IFRS、米国基準、および日本基準のフレームワーク
IFRSに係るフレームワークとしては、「財務報告に関する概念フレームワーク」があります。米国基準においては、米国財務会計基準審議会(FASB)が一連の「概念書」を発行しています。
IFRSの「財務報告に関する概念フレームワーク」もFASBの「概念書」も、利害関係者に有用な意思決定情報を提供することを財務報告の目的としています。また、継続企業の前提に立脚した発生主義会計の採用など、その考え方の基礎的な部分や根本的な発想は共通しています。これは日本において企業会計の世界に身をおく私たちにとっても特に目新しいものではありません。ただし、ここで留意しなければいけないのは、IFRSの「財務報告に関する概念フレームワーク」とFASBの「概念書」は、それぞれの会計基準における位置付けがまったく異なっているということです。
IFRSの枠組みにおいては、ある事象や取引に対する会計基準が存在しない場合には、その事象や取引の会計処理を検討するにあたり、類似の事項や関連する事項を扱ったIFRSの要求事項がなければ、「財務報告に関する概念フレームワーク」における財務諸表項目の定義、認識規準および測定概念を考慮すべきものとされています(IAS第8号「会計方針、会計上の見積りの変更及び誤謬」第10項および第11項)。一方、米国基準の枠組みにおいては、FASBの「概念書」は会計基準の階層において「その他の会計に関する文書」のカテゴリーに分類されており、財務諸表を作成するにあたって検討が要求される会計基準ではないという位置付けとなっています(ASC(The FASB Accounting Standards Codification)105-10-16-1)。
日本においては、昭和24年に経済安定本部企業会計制度対策調査会が中間報告として公表した「企業会計原則」(最終改正は企業会計審議会により昭和57年)が、日本の企業会計の全体的な枠組みを規定するものであると漠然と理解されてきたところがありますが、その内容は上記のようなフレームワークというよりはむしろ、「企業会計の実務の中に慣習として発達したもののなかから、一般に公正妥当と認められたところを要約したもの」(「企業会計原則の設定について」より)となっています。しかし、会計基準の複雑化や国際的な会計基準のコンバージェンスの流れの中で、日本においても概念フレームワークの必要性が求められ、2006年12月、企業会計基準委員会が「討議資料 財務会計の概念フレームワーク」を公表しています。ただし、これは、次に説明するように、国際会計基準審議会(IASB)とFASBとの間で共通の「概念フレームワーク」を開発するための共同プロジェクトが進行中であったため、正式な形ではなく、討議資料という位置付けとなっていました。
3. IASBとFASBが公表した「概念フレームワーク」草案
IASBとFASBはIFRSと米国基準のコンバージェンス活動を進めていましたが、この活動はフレームワークにも及んでいました。つまり、両審議会のコンバージェンスの究極の目的は世界的に利用可能な高品質で単一の会計基準の作成にあったわけですが、この目標を達成するためには、両審議会が会計基準の基礎にある概念や前提を規定したものであるフレームワークを共有することが不可欠であったためです。具体的にはIASBとFASBの共同プロジェクトとして進められている「概念フレームワーク」プロジェクトは、下表に記載した8つのフェーズに分けて実施されました。
フェーズ
内 容
A
(財務報告の)目的と質的特性
B
構成要素と認識
C
測定
D
報告企業
E
表示と開示
F
(概念フレームワークの)目的と位置付け
G
非営利企業への適用
H
その他の検討課題(もし、あれば)
これらのうち、2010年9月にフェーズAの「(財務報告の)目的と質的特性」が完了しました。また、2010年3月にフェーズDの「報告企業」に関する公開草案が公表されましたが、最終化には至りませんでした。その後、2010年11月には、米国基準との他のコンバージェンス・プロジェクトを優先するため、「概念フレームワーク」の共同プロジェクトは中断されました。
4.IASBが2018年3月に公表した「概念フレームワーク」
IASBは2012年12月に公表した、今後の優先事項を示す「アジェンダ協議2011」において、1989年に公表され、2010年に部分的に改訂された「概念フレームワーク」の改訂を完了させることが重要だと認識し、FASBとは別に「概念フレームワーク」プロジェクトを再開し、2018年3月に改訂「財務報告に関する概念フレームワーク」を公表しました。改訂「財務報告に関する概念フレームワーク」で扱っているトピックと主な項目は次のとおりです。
トピック
主な項目
1
一般目的財務報告の目的
  • 一般目的財務報告の目的、有用性及び限界
  • 報告企業の経済的資源、報告企業に対する請求権並びに資源及び請求権の変動に関する情報
  • 企業の経済的資源の使用に関する情報
2
有用な財務情報の質的特性
  • 有用な財務情報の質的特性
  • 有用な財務報告に対するコストの制約
3
財務諸表と報告企業
  • 財務諸表
  • 報告企業
4
財務諸表の構成要素
  • 資産の定義
  • 負債の定義
  • 資産及び負債
  • 持分の定義
  • 収益及び費用の定義
5
認識及び認識の中止
  • 認識プロセス
  • 認識の規準
  • 認識の中止;
6
測定
  • 測定基礎
  • 特定の測定基礎が提供する情報
  • 測定基礎の選択時に考慮すべき諸要因
  • 持分の測定
  • キャッシュ・フローを基礎とした測定技法
7
表示及び開示
  • 伝達ツールとしての表示及び開示
  • 表示及び開示の目的と原則
  • 分類
  • 集約
8
資本及び資本維持の概念
  • 資本の概念
  • 資本維持の概念及び利益の決定
  • 資本維持修正
改訂「財務報告に関する概念フレームワーク」は、会計基準設定主体であるIASB及びIFRS解釈指針委員会に対しては、公表後、即時適用されますが、「財務報告に関するフレームワーク」に基づき会計方針を策定する財務諸表作成者に対しては、2020年1月1日以後開始する事業年度から適用されます。
なお、IASBは、現在、「資本の特徴を有する金融商品」に関するプロジェクトを進めており、このプロジェクトの結果、改訂「財務報告に関する概念フレームワーク」における負債および持分の定義が見直される可能性がありますので、引き続き留意が必要です。
また、改訂「財務諸表に関する概念フレームワーク」の公表に伴い、IASBはIFRS基準から改訂前の「概念フレームワーク」を参照している箇所の更新も行いました。ただし、IFRS第3号「企業結合」については、当該基準において参照している改訂前の「概念フレームワーク」から改訂「財務報告に関する概念フレームワーク」への置き換えを他の変更を加えずに行うと、企業結合の会計処理の要求事項を変更する可能性がありました。そこで、IASBは、この問題に対応するため、IFRS第3号を修正する公開草案を2019年5月に公表し、当該公開草案に対するコメントを踏まえ現在再審議を行っています。
*このQ&Aは、『週刊 経営財務』 2851号(2008年01月07日)にあらた監査法人 企業会計研究会として掲載した内容に一部加筆・修正を行ったものです(2019年12月31日時点の最新情報)。発行所である税務研究会の許可を得て、PwCあらた有限責任監査法人がウェブサイトに掲載しているものですので、他への転載・転用はご遠慮ください。
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