Q. 有形固定資産の会計処理、特に減損処理について、IFRSと日本の基準ではどのような違いがありますか。
A
有形固定資産の会計は、IFRS(国際財務報告基準)ではIAS第16号「有形固定資産」で規定されています。また、減損会計に関しては、IAS第36号「資産の減損」で規定されています。一方で、日本基準においては、有形固定資産に関する包括的な会計基準は存在せず、減損会計は「固定資産の減損に係る会計基準」および同適用指針に従って処理されますが、減損会計以外の有形固定資産の会計の基本的な考え方や取り扱いについては、企業会計原則や連続意見書に従うことになります。
1. IAS第16号と日本の有形固定資産会計の相違点
(1) 測定基準
日本基準における有形固定資産の測定は、取得時点では取得原価によって行われ、取得後の測定は、取得原価から減価償却累計額および減損損失累計額を控除して実施されますが、IAS第16号では、日本基準同様の原価モデルの測定のほかに、公正価値が信頼性をもって測定できる場合には、公正価値による再評価モデルが認められています。
測定基準として再評価モデルを選択した場合には、資産取得後、定期的に公正価値による再評価を行い、結果として、資産の帳簿価額が増加する場合の評価差額は再評価剰余金として資本(その他の包括利益)に、資産の帳簿価額が減少する場合の評価差額は純損益に計上されます。
(2) 減価償却方法の変更および耐用年数の変更
a) 減価償却方法の変更
IFRSでは、減価償却方法の変更は、IAS第8号で規定する見積りの変更として取り扱われます。一方、日本基準では、減価償却方法の変更は、会計方針の変更として取り扱われます。ただし、2009年12月に公表された「会計上の変更及び誤謬の訂正に関する会計基準」により、会計上の見積りの変更と区別することが困難な場合に該当し、会計上の見積りの変更と同様に遡及適用は求められないこととされています。
b) 耐用年数の変更
IFRSでは、耐用年数の変更は見積りの変更として取り扱われます。すなわち、従来の減価償却計算で引き継がれた未償却残高を、変更後の耐用年数により当期以降の残存期間にわたって配分します。日本基準においても、同様に処理することになります。
2. IAS第36号と「固定資産の減損に係る会計基準」の相違点
有形固定資産について、他の資産または資産グループから概ね独立したキャッシュ・インフローを生み出す最小単位として資産をグループ化し、特定の資産または資産グループについて減損の兆候が認められた場合に減損の有無を判定し(減損の認識)、計上すべき減損額を測定するという大きな考え方は、日本基準もIFRSも同じですが、主に以下の相違点があります。
資産の減損に関する日本基準との主な相違点
減損テストの頻度 | 減損の兆候がある場合に減損テストを実施。 | のれん、耐用年数を確定できない無形資産または未だ使用可能ではない無形資産は、毎期減損テストを実施。 その他の有形固定資産・無形資産は、減損の兆候がある場合に減損テストを実施。 |
減損テスト | 割引前将来キャッシュ・フロー総額が帳簿価額を下回っている場合に減損を認識し、帳簿価額と回収可能価額との差額を算定して減損損失とする。 (2ステップ方式)
| 回収可能価額が帳簿価額を下回っている場合に、その差額を減損損失とする。 (1ステップ方式)
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使用価値見積りのための将来キャッシュ・フロー見積期間 | 取締役会などの承認を得た中長期計画の前提となった数値を基礎とし、中長期計画の見積期間を超える期間は、一定または逓減する成長率を使用する。 | 経営者が承認した予算・予測に基づくキャッシュ・フロー予測の対象期間は、原則として最長5年。経営者の予算、予測に基づく期間より後の予測は原則として一定または逓減的な成長率を使用する(通常、企業の属する産業や対象資産の市場等における長期的な平均成長率を超過してはならない)。 |
将来キャッシュ・フローの見積りの妥当性の検証 | 明確な規定はない。 | 過去の実際のキャッシュ・フローと過去のキャッシュ・フロー予測との比較分析が必要。 |
減損損失の計上 | 当期の損益に計上。 | 原価モデルで測定している資産の場合は、損益に計上。再評価モデルを採用している資産の場合は、再評価剰余金をまず減少させ、残りを損益に計上。 |
減損の戻入れ | 認められない。 | 過去に認識した減損損失がもはや存在しないか、または減少している場合、戻入れが必要(ただし、のれんを除く)。 |
(1) 減損の認識および測定
日本基準では、減損の兆候のある資産又は資産グループについて、その帳簿価額と割引前将来キャッシュ・フローを比較して減損損失を認識するかどうかの判定を行い、減損損失を認識する場合には、帳簿価額と回収可能価額の差額を算定して減損損失とするという2ステップの手続をとります。一方、IAS第36号では対象資産又は資産グループの帳簿価額を、その回収可能価額と直接比較することによって減損の有無を判定し、その差額として減損損失を計算します。また、日本基準とIFRSのどちらも回収可能価額は、正味売却価額(処分コスト控除後の公正価値)と使用価値(割引後将来キャッシュ・フロー)のいずれか高い方と定義されています。
したがって、日本基準において割引前将来キャッシュ・フローとの比較の結果、減損が認識されなかった資産又は資産グループについても、その回収可能価額が帳簿価額を下回る場合には、IAS第36号では減損が認識されるというケースも考えられます。
【例】A社のA製品製造のための製造設備の将来キャッシュ・フローの見積もり
割引後CF(3%)(=使用価値) | 200 | 194 | 188 |
割引後CF(3%)(=使用価値) | 183 | 177 | 942 |
上記において、当該製造設備の帳簿価額が1,000であった場合には、日本基準では減損は認識されませんが、IAS第36号では減損が認識され、58の減損損失の計上が必要となります。
(2) 減損損失の戻し入れ
日本基準では、一度計上した減損損失を戻し入れることは認められません。一方、IAS第36号では、減損の原因となった事実が、将来のある時点において存在しなくなった場合、または減少した場合には、過去に計上した減損損失の戻し入れが必要になります。減損損失の戻し入れには、対象資産について減損を最後に認識した時点以降、回収可能価額の算定に使用された見積りに変更があったという事実が必要になります。その場合には、戻し入れ後の帳簿価額は、過年度において当該資産について認識された減損損失がなかったとした場合の帳簿価額(減価償却控除後)を限度として、変更された見積りに基づく回収可能価額まで、資産の帳簿価額を引き上げ、その調整額は減損損失の戻し入れとして、その期の収益に計上します。
【IFRSの会計処理の例】
B社においてX1年1月1日に取得したB製品製造のための機械装置(取得価額:2,000万円、残存価額:ゼロ、耐用年数:10年、減価償却方法:定額法)について、5年が経過したX5年12月31日(減価償却後の帳簿価額:1,000万円)に、500万円の減損損失を計上し、減損後の帳簿価額は500万円となった。回収可能価額は将来キャッシュ・フローの見積りによる使用価値500万円を使用した。その後B製品の市場が拡大し、1年後のX6年12月31日時点で将来キャッシュ・フローを見積り直したところ、使用価値が1,000万円に増加した。
【X5年12月31日の処理】 (単位:万円)
(借方) 減価償却費 | 200(※1) | (貸方) 減価償却累計額 | 200 |
(借方) 減損損失 | 500(※2) | (貸方) 機械装置 | 500(※3) |
(※1) 取得価額 2,000万円 ÷ 耐用年数 10年=200万円
(※2) 帳簿価額 1,000万円 - 回収可能価額 500万円=500万円
(※3) 直接控除方式を採用
【X6年12月31日の処理】 (単位:万円)
(借方) 減価償却費 | 100(※4) | (貸方) 減価償却累計額 | 100 |
(借方) 機械装置 | 400 | (貸方) 減損損失戻入益 | 400(※5) |
(※4) 減損後帳簿価額 500万円 ÷ 残存耐用年数 5年=100万円
(※5) 戻し入れ後の帳簿価額は、回収可能価額(a)と減損損失がなかったとした場合の帳簿価額(b)の低い方を上限とする
(a) 回収可能価額 1,000万円
(b) 減損損失がなかったとした場合の帳簿価額800万円(=1,000万円-減価償却費200万円)
(a)>(b)なので、戻入額は(b)の800万円-現在の帳簿価額400万円=400万円
*このQ&Aは、『週刊 経営財務』 2859号(2008年03月03日)にあらた監査法人 企業会計研究会として掲載した内容に一部加筆・修正を行ったものです(2019年12月31日時点の最新情報)。発行所である税務研究会の許可を得て、PwCあらた有限責任監査法人がウェブサイトに掲載しているものですので、他への転載・転用はご遠慮ください。