Q. 投資不動産の会計処理について、IFRSの特徴は何ですか。日本にはこのような基準はあるのですか。
A
1. 「投資不動産」の範囲
不動産を含む有形固定資産の会計処理については、国際財務報告基準(IFRS)では、IAS第16号「有形固定資産」で取り扱われていますが、投資不動産についてはIAS第40号「投資不動産」において特別な取り扱いが規定されています。ここでいう投資不動産とは、賃貸収益もしくは資本増価またはその両方を目的として保有する不動産をいい、リースの借手が保有する使用権資産を含みます。また、投資不動産は、企業によって保有されるその他の資産とはかなりの程度独立したキャッシュ・フローを生み出すものとされています。したがって、物品の製造あるいは販売またはサービスの提供、あるいは経営管理目的のために使用される自己使用の不動産、通常の営業過程において販売目的で保有される不動産以外の不動産ということになります。
投資不動産の対象として、具体的には、以下の例が挙げられています。
投資不動産の例
(1) 通常の営業過程における短期間の販売ではなく、長期的な資本増価のために保有される土地
(2) 将来の用途を現時点では未定のまま保有する土地
(3)企業が保有し、オペレーティング・リースにより、リースされている建物(または企業が保有している建物に係る使用権資産)
(4) 現在は借手がないが、オペレーティング・リースにより、リースするために保有している建物
(5) 将来、投資不動産として利用するために建設中または開発中の不動産
ただし、以下は投資不動産ではないものとして例示されています。
投資不動産に含まれない例
(1) 通常の営業過程における販売のため保有している、またはそのような販売を目的として建設中、もしくは開発中の不動産
(2) 自己使用不動産(自己使用不動産として将来使用するために保有する不動産、将来開発した後に自己使用不動産として使用するために保有する不動産、従業員が占有している不動産、処分予定の自己使用不動産など)
(3) ファイナンス・リースにより他の企業にリースされる不動産
一般的には、賃貸目的で保有するオフィスビル等は投資不動産に該当し、IAS第40号が適用されることになります。しかし、自社で所有し運営するホテル等は、顧客に対するサービスが取引の全体のなかで重要な割合を占めるため、自己使用不動産と判断されます。そのため、IAS第40号の対象とはなりません。
2. 「投資不動産」の会計処理
IAS第40号において、所有している投資不動産は、当初認識時点ではその取得原価によって測定され、取引コストも 含められます。投資不動産がリースの借手が保有する使用権資産の場合は、IFRS第16号にしたがって測定されることになります。
しかし、当初の認識後においては、企業は「公正価値モデル」もしくは「原価モデル」のどちらかを会計方針として選択し、適用したいずれかの会計方針を、投資不動産の全てに適用しなくてはなりません。ここで「公正価値」とは、測定日時点で市場参加者間の秩序ある取引において資産を売却するために受け取るであろう価格または負債を移転するために支払うであろう価格をいいます。日本における不動産取引においてこれに該当するものは不動産鑑定士による鑑定評価額、近傍類地における直近の取引価額等があると考えられます。
企業が「公正価値モデル」を選択した場合には、原則として、所有する全ての投資不動産を公正価値で評価しなくてはなりません。公正価値の変動から生ずる利得または損失は、発生した期の純損益に含められます。
一方、「原価モデル」を選択した場合には、売却目的保有の要件を満たしIFRS第5号「売却目的で保有する非流動資産及び非継続事業」にしたがって測定される資産やリースの借手が保有する使用権資産を除き、所有する投資不動産の全てをIAS第16号「有形固定資産」に従って、取得原価から減価償却累計額および減損損失累計額を控除した価額で測定しなければなりません。しかし、「原価モデル」を採用した場合にも、投資不動産の公正価値を注記する必要があります。
IAS第40号においては、一度、選択適用した後のモデルの変更については、その変更が企業の財務諸表に、取引、その他の事象または状況をより適切に表示する結果をもたらす場合にのみ行わなければなりません。一般に「公正価値モデル」から「原価モデル」への変更がより適切な表示をもたらす可能性は非常に低いとされています。
IFRSにおける投資不動産の会計処理をまとめると、下記の図表のとおりになります。
【図表】 投資不動産の会計処理
認識時の測定 | 取得原価 (IAS第40号第20,29A項) |
認識後の測定および評価 | 取得原価から減価償却累計額および減損損失累計額を控除した価額 (IAS第40号第56項) | 公正価値により評価し、差額は損益計上 (IAS第40号第33項) |
3. 日本基準での取り扱い
投資不動産については、企業会計審議会が「固定資産の減損に係る会計基準の設定に関する意見書」(2002年08月09日)において検討を行ったものの、他の固定資産と同様に処理をすることが適当であるとしたため、IAS第40号における「原価モデル」と同様に、取得原価から減価償却累計額および減損損失累計額を控除した価額で測定されます。
その後、2008年11月に企業会計基準委員会より、「賃貸等不動産の時価等の開示に関する会計基準」(企業会計基準第20号)および「賃貸等不動産の時価等の開示に関する会計基準の適用指針」(企業会計基準適用指針第23号)が公表され、賃貸等不動産の時価等については、財務諸表の注記事項として開示することが定められています。
「賃貸等不動産」とは、棚卸資産に分類されている不動産以外のものであって、賃貸収益またはキャピタル・ゲインの獲得を目的として保有されている不動産をいうと定義されています。したがって、物品の製造や販売、サービスの提供、経営管理に使用されている場合は賃貸等不動産には含まれません。
賃貸等不動産には、次の不動産が含まれます。
(1) 貸借対照表において投資不動産として区分されている不動産
(2) 将来の使用が見込まれていない遊休不動産
(3) 上記以外で賃貸されている不動産
なお、将来において賃貸等不動産として使用される予定で開発中の不動産や継続して賃貸等不動産として使用される予定で再開発中の不動産も含まれます。
また、物品の製造や販売、サービスの提供、経営管理に使用されている部分と賃貸等不動産として使用される部分で構成される不動産については、賃貸等不動産として使用される部分が、賃貸等不動産に含まれます。
賃貸等不動産を保有している場合は、次の事項を注記することとされていますが、賃貸等不動産の総額に重要性が乏しい場合は注記を省略することができます。
(1) 賃貸等不動産の概要
(2) 賃貸等不動産の貸借対照表計上額および期中における主な変動
(3) 賃貸等不動産の当期末における時価及びその算定方法
(4) 賃貸等不動産に関する損益
なお、2019年7月に「時価の算定に関する会計基準」等が公表され、2021年4月1日以後開始する連結会計年度及び事業年度の期首から適用が予定されています(早期適用可)が、賃貸等不動産については、同基準の範囲に含めないこととされています。
*このQ&Aは、『週刊 経営財務』 2863号(2008年03月31日)にあらた監査法人 企業会計研究会として掲載した内容に一部加筆・修正を行ったものです(2019年12月31日時点の最新情報)。発行所である税務研究会の許可を得て、PwCあらた有限責任監査法人がウェブサイトに掲載しているものですので、他への転載・転用はご遠慮ください。