Q. IFRSにおける法人所得税の会計処理について教えてください。また、日本の税効果会計基準とは何か違いがありますか。
A
国際財務報告基準(IFRS)には、法人所得税の会計処理を包括的に取扱ったIAS第12号「法人所得税」があります。IAS第12号では、資産負債法(会計上の資産・負債の額と税務上の資産・負債の額との差異から生じる一時差異について税効果を認識する方法)を採用しており、これは、日本の「税効果会計に係る会計基準」に定められている方法、米国の基準とも基本コンセプトは同じです。しかし、いくつかの点で違いがあります。IFRSで規定されている法人所得税の会計処理は多岐にわたりますので、税効果の一般的適用方法など基本的な税効果の会計処理を示し、あわせて日本基準との比較を以下で行います。
1. 税効果の一般的適用方法
IFRSでは、一時差異、つまり資産および負債の会計上の帳簿価額と税務基準額との差額に税効果を認識します。また、税務上の繰越欠損金や繰越税額控除も税効果の適用の対象となります(IAS第12号第15項、第24項、第34項)。
ただし、IFRSでは2つの当初認識の例外が明示されています。すなわち、(1)のれんの当初認識に対する繰延税金負債と、(2)企業結合に該当せず、かつ取引発生時に会計上の利益にも課税所得(税務上の欠損金)のいずれにも影響を与えない取引における資産または負債の当初認識に関連する繰延税金資産または繰延税金負債を認識しないこととされています(IAS第12号第15項、24項)。
日本基準においては、(1)については、IFRSと同様、のれんに係る税効果を認識しません。(2)については、このようなケースが日本の実務で一般的に想定されていないため、一般規定としては取り扱われていません。
2. 子会社等に対する投資に係る税効果の認識
(1) 将来加算一時差異
IFRSでは、親会社等が、子会社、支店、および、関連会社に対する投資や共同支配の取決めに対する持分に係る将来加算一時差異(未分配利益や外国為替換算差額から生じる一時差異)を解消する時期をコントロールすることができ、かつ、予測可能な期間内にはその将来加算一時差異が解消しない可能性が高い場合、子会社等に対する投資または共同支配の取決めに対する持分から発生する将来加算一時差異に対して繰延税金負債を認識しませんが、それ以外の場合には繰延税金負債を認識しなければなりません(IAS第12号第39項)。 子会社への投資、関連会社への投資、共同支配の取決めに対する持分では、投資先へのコントロールの状況が異なるため、以下でそれぞれについての繰延税金負債の認識の取扱いについて説明します。
a) 子会社に対する投資に係る税効果
親会社は、その子会社の配当政策をコントロールしているので、子会社の投資に係る一時差異(外国為替換算差額から生じる一時差異も含む)の解消もコントロールすることができると考えられます。そのため、親会社が予測可能な期間内に利益を配当しない、かつ、売却・清算等を行わないと決定している場合には、親会社は繰延税金負債を認識しないこととなります(IAS第12号第40項)。
b) 関連会社に対する投資に係る税効果
企業は、関連会社をコントロールしておらず、通常は関連会社の配当政策を決定する立場にはありません。そのため、関連会社の利益について予測可能な期間内に配当しないことを要求する合意がない場合、または、売却や清算等を行う可能性が高い場合は、企業は関連会社に対する投資に係る将来加算一時差異について繰延税金負債を認識することになります(IAS第12号第42項)。
c) 共同支配の取決めに対する持分に係る税効果
共同支配の取決めの参加者間の協定では、通常、利益の分配について契約等に定めがあり、当該事項に関する決定にすべての参加者の合意を要するのか、参加者の中のあるグループの合意を要するのかを明示しています。そのため、共同支配を行っている参加者が、共同支配の取決めの利益に対する持分の分配の時期をコントロールでき、予測可能な期間内に利益に対する持分が分配されない、かつ、売却や清算等を行わない可能性が高い場合には、繰延税金負債は認識されません(IAS第12号第43項)。
一方、日本基準でも、税効果会計に係る会計基準の適用指針や持分法会計に関する実務指針の中で、同様の考え方を取っていますが、一時差異が配当により解消される場合や投資を売却する場合等に分けて適用上の詳細な規定があります。
(2) 将来減算一時差異
IFRSでは、子会社等に対する投資に係るすべての将来減算一時差異については、その一時差異が予測可能な期間内に解消し、かつ当該一時差異の使用対象となる課税所得が稼得される可能性が高い範囲内で繰延税金資産を認識しなければなりません(IAS第12号第44項)。
一方、日本基準も基本的には同様の考え方によっていますが、適用上の詳細な規定があります。
3. 繰延税金資産の回収可能性の検討
(1) 将来の課税所得の十分性
IFRSでは、すべての一時差異に原則として税効果を認識する方法をとることとされています。ただし、繰延税金資産を認識するには、関連する将来減算一時差異を利用できる課税所得が将来の期間に稼得される可能性が高いことが必須になります。特に税務上の繰越欠損金については、十分な将来加算一時差異の範囲内、または税務上の繰越欠損金の使用対象となる十分な課税所得が稼得されるという他の信頼すべき根拠がある範囲内でのみ認識することになります(IAS第12号第24項、第35項)。
一方、日本基準では、企業会計基準適用指針第26号「繰延税金資産の回収可能性に関する適用指針」(以下「回収可能性適用指針」)により、企業の過去(3年)および当期の課税所得(または税務上の欠損金)の状況等の要件により企業を5つに分類し、分類ごとに繰延税金資産の回収可能性の判断について具体的な指針が示されています。会社がどの分類に該当するかにより、将来の一定期間の一時差異等加減算前課税所得の範囲内でしか繰延税金資産の計上が認められない場合があります。
IFRSではこのような詳細なカテゴリー分類はなく、したがって、回収可能性適用指針で示すような将来の課税所得の見積期間を一定期間とする記載はありませんが、税務上の繰越欠損金の繰越期限内に当該繰越欠損金を使用するのに十分な課税所得を稼得する可能性が高いかどうか等を十分に検討する必要があります。
(2) タックス・プランニングの実行可能性
IFRSでは、繰延税金資産を回収するための課税所得を創出・増加させるようなタックス・プランニングが実行可能であれば、その範囲内で繰延税金資産が認識されることになります(IAS第12号第29項)。日本基準においても原則的にはIFRSと同様ですが、上述のように会社の過去の課税所得(または税務上の欠損金)の状況等の要件により5つに分類するため、タックス・プランニングに基づく資産の含み益等の実現可能性を考慮する上で、企業の分類ごとに詳細な規定が示されています。
4.未実現利益の消去に係る税効果
IFRSでは、連結グループ会社間で資産を売買した場合、連結手続上、消去された未実現利益に関する税効果は、資産負債法に基づき認識されます。すなわち、買い手側が資産を保有しており当該資産に一時差異が発生しているため、買い手側の会社における将来の外部売却時の税率を用いて税効果を計算します。一方、日本基準では、連結グループ会社間の未実現利益は、税務上の課税が先に生じ、その後、会計上の損益認識がなされるため、売り手の個別財務諸表上、当該取引の課税関係は完了しているものと考えます。すなわち、将来の税負担の影響を考慮するというよりは、会計上の利益に対応した税金費用を適切に期間配分するために繰り延べるという考え方をとっているため、例外的に売り手側の会社における未実現利益発生時の税率を用いて税効果を計算することとなります。
5. 繰延税金資産・負債の測定に用いられる税率
IFRSでは、繰延税金資産・負債は報告期間の末日における法定税率または実質的に制定されている税率に基づいて、将来実現、決済される期に適用されると予想される税率で算定することとされており、政府が税率を公表しそれが実質的な制定と同様な効果を持つ場合には、その公表税率を使うこととされています(IAS第12号第47項、第48項)。日本基準では企業会計基準適用指針第28号「税効果会計に係る会計基準の適用指針」において、決算日において国会で成立している法人税法等に規定されている税率によることとされています。したがって、どの時点で成立している税率を用いるかについて、重要な会計基準間差異はありません。
6. 繰延税金資産・負債の財政状態計算書における流動・非流動区分表示
IFRSでは、繰延税金資産・負債は、財政状態計算書ではすべて非流動資産・負債に分類しなければならないとされています(IAS第1号「財務諸表の表示」第56項)。この点、日本基準においては、繰延税金資産は投資その他の資産の区分に表示し、繰延税金負債は固定負債の区分に表示することとされています(「税効果会計に係る会計基準」の一部改正)。したがって、繰延税金資産・負債の流動・非流動区分について、会計基準間差異はありません。
税効果会計についての現行のIFRSと日本基準の比較
税効果の一般的適用方法 | 資産負債法により一時差異について税効果を認識する。 | 原則として、資産負債法により一時差異について税効果を認識する。 |
子会社等に対する投資に係る税効果の認識(将来加算一時差異) | 子会社:親会社が予測可能な期間内に利益を配当せず、かつ、売却・清算を行わないと決定している場合を除き、原則として繰延税金負債を認識する。 |
子会社:配当受領を解消事由とする子会社の留保利益および売却の税効果に関しては、原則として認識する。 ただし、以下の場合には繰延税金負債を認識しない。
- 子会社の利益を分配しない方針をとっている場合または子会社の利益を配当しないという他の株主等との間に合意がある場合のように配当に係る課税関係が生じない可能性が高い場合。
- 親会社がその投資の売却を親会社自身で決めることができ、かつ、予測可能な将来の期間に、その売却を行う意思がない場合。
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関連会社:利益が予測可能な期間内に配当されないことを要求している合意がある場合を除き、税効果を認識する
共同支配の取決め:取決めにより利益に対する分配の時期がコントロール可能で、予測可能な期間内に利益が分配されない、かつ売却・清算を行わない可能性が高い場合を除き、税効果を認識する。 | 関連会社等:留保利益を半永久的に配当させないという投資会社の方針または株主間協定がある場合を除き、原則として税効果を認識する。 |
子会社等に対する投資に係る税効果の認識(将来減算一時差異) | 一時差異が予測可能な期間内に解消する可能性が高く、かつ当該一時差異の使用対象となる課税所得が稼得される可能性が高い範囲で繰延税金資産を認識する。 | 以下の両方の要件を満たす場合を除き、繰延税金資産を認識しない。 (1) 予測可能な将来の期間に、子会社に対する投資の売却等を行う意思決定又は実施計画が存在するか、または、個別財務諸表において計上した子会社株式の評価損について、税務上の損金に算入されることにより、将来減算一時差異が解消される可能性が高いこと。 (2)連結上生じた将来減算一時差異と個別財務諸表上で計上された一時差異の合計に係る繰延税金資産につき、回収可能性が認められること。 |
繰延税金資産の回収可能性の検討 | 将来の課税所得の十分性。 | 将来の課税所得の十分性。ただし、回収可能性適用指針により企業の分類ごとの具体的な判断指針がある。 |
未実現利益の消去に係る税効果 | 買い手側の将来売却する年度における見込み税率により計算。 | 売り手側の未実現利益が発生した年度の税率により計算。 |
繰延税金資産・負債の測定に用いられる税率 | 資産が実現する期または負債が決済される期に適用されると予想される法定または実質的制定税率。 | 回収または支払が行われると見込まれる期の税率であり、決算日において国会で成立している法人税法等による。 |
*このQ&Aは、『週刊 経営財務』 2869号(2008年05月19日)にあらた監査法人 企業会計研究会として掲載した内容に一部加筆・修正を行ったものです(2019年12月31日時点の最新情報)。発行所である税務研究会の許可を得て、PwCあらた有限責任監査法人がウェブサイトに掲載しているものですので、他への転載・転用はご遠慮ください。