Q. IFRSにおける期中財務報告について教えてください。また、日本の基準とは何か違いがあるのですか。
A
IAS第34号「期中財務報告」では、国際財務報告基準(IFRS)に準拠して期中財務報告を作成する場合に従うべき、開示項目を含む最小限の内容を定め、かつ採用すべき認識および測定の原則を規定しています。
開示について、年度の財務諸表と同様の方法によるほか、要約方式によることが認められています。年度と同一の認識および測定の原則を適用しなければなりませんが、見積りの方法をより多く使用できる場合等が例示されています。
1. 範囲
IAS第34号が規定する「期中財務報告」は、事業年度よりも短い財務報告の期間にかかる財務報告を意味します。したがって、半期(6カ月)であっても、四半期(3カ月)であっても、IAS第34号が適用されます。
IAS第34号ではどのような企業がどのような場合に期中財務報告を行うべきか、は定めておらず、これを政府、証券監督当局、証券取引所等の各種機関によって決定される制度に委ねており、その上でIFRSに準拠した期中財務報告を行う場合にはIAS第34号を適用することを求めています。ただし、特に上場企業は、少なくとも事業年度の上半期末現在の期中財務報告書を提供すること、および期中財務報告書を期中報告期間の末日後60日以内に入手可能とすることを奨励しています(IAS第34号第1項)。
2. 開示
(1) 年度と同様の財務諸表または要約財務諸表
IAS第34号では、期中財務報告書は、年度の財務諸表と同様の「完全な1組の財務諸表(IAS第1号に規定)」、または一定の簡略化がなされた「1組の要約財務諸表(IAS第34号に規定)」のいずれかを含むものとしています。企業はいずれかの方法を選択して期中財務報告書を作成します(IAS第34号第6項および第7項)。
(2) 要約財務諸表の構成
「1組の要約財務諸表」による場合、IAS第34号は、開示すべき最小限の項目を定めており、少なくとも以下の項目を含みます(IAS第34号第8項)。
- 要約財政状態計算書
- 純損益及びその他の包括利益を表示する要約計算書
- 要約持分変動計算書
- 要約キャッシュ・フロー計算書
- 精選された説明的注記
要約財務諸表の内容は、少なくとも直近の年度の財務諸表の各見出しおよび小計を含むことが要求されています。したがって、たとえば財政状態計算書であれば最低限、流動資産、固定資産等の区分および小計を記載すれば足りると考えられますが、実務上は年度の財務諸表とほぼ同様の表示項目によることが一般的です。
(3) 精選された説明的注記
IAS第34号では、期中財務報告の利用者は年次財務諸表を入手しうることを前提に、直近の年次報告期間の末日後の財政状態の変動および業績を理解する上で重要な事象と取引について説明を行うべきという観点から、以下の最低限開示すべき注記事項を定めています。これらの情報は、通常は期首からの累計ベースで報告します(IAS第34号第16A項)。
- 期中財務諸表において直近の年次財務諸表と同じ会計方針と計算方法が採用されている旨、変更している場合にはその変更の内容と影響の説明
- 期中の営業活動の季節性又は循環性についての説明的コメント
- 資産、負債、資本、純利益又はキャッシュ・フローに影響を与える事項で、その性質、規模、又は頻度からみて異例な事項の内容と金額
- 当事業年度の過去の期中報告期間に報告された金額の見積りの変更又は過去の事業年度に報告された金額の見積りの変更の内容と金額
- 負債証券及び持分証券の発行、買戻し、及び償還
- 普通株式とその他の株式の各々に対する配当金(合計額又は1株当たりの金額)
- セグメント情報(年次財務諸表で必要な場合のみ)
- 当期中報告期間にかかる期中財務諸表に反映されていない期中報告期間後の事象
- 企業結合、子会社及び長期投資に対する支配の獲得または喪失、リストラクチャリング、ならびに非継続事業など、期中報告期間における企業の構成の変化の影響
- 金融商品について、IFRS第13号「公正価値測定」及びIFRS第7号「金融商品:開示」で要求される開示の一部
- 投資企業となった企業または投資企業ではなくなった企業について、IFRS第12号「他の企業への関与の開示」で要求される開示の一部
- 顧客との契約から生じる収益の分解
(4) 対象期間
期中財務報告は、以下の期間を対象として比較形式で開示することが求められています。
たとえば四半期開示を行う場合、包括利益計算書のみ当該四半期(3カ月)と累計(たとえば第2四半期であれば6カ月)を併記することが求められています(IAS第34号第20項)。
純損益及びその他の包括利益 計算書 |
- 当該期中報告期間
- 当該事業年度の期首からの累計期間
- 直近事業年度の対応する期中報告期間
- 直近事業年度の対応する期首からの累計期間
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持分変動計算書 |
- 当該事業年度の期首からの累計期間
- 直近事業年度の対応する期首からの累計期間
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キャッシュ・フロー計算書 |
- 当該事業年度の期首からの累計期間
- 直近事業年度の対応する期首からの累計期間
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(5) 今後の動向
国際会計基準審議会(以下、IASB)は、情報(特に、財務業績に関する情報)が財務諸表において伝達される方法の改善を図るために、2019年12月17日に公開草案「全般的な表示及び開示」(以下、公開草案)を公表しました。公開草案は、財務業績計算書における新たな3つの小計の表示(営業損益、営業損益並びに不可分な(integral)関連会社及び共同支配企業から生じる収益/費用、財務及び法人所得税前損益)の導入を提案していますが、適用初年度の期中財務報告書における要約財務諸表の見出し及び小計については、直近の年次財務諸表に掲記された見出し及び小計の使用を求めるIAS第34号第10項を適用せず、本公開草案の定めに基づき表示することを提案しています。また、期中財務諸表における開示項目に、通例でない項目の開示及び経営者業績指標(「非GAAP」指標)の開示を導入することも提案しています。
3. 認識および測定
(1) 概要
IAS第34号では、年次と同一の会計方針を適用することが求められています。資産、負債、収益、および費用は、すべて年度と同一の原則により認識します(IAS第34号第28項および第29項)。
期中報告期間の税金費用については、年間の見積利益総額に適用される税率、すなわち見積平均年次実効税率を用いるとされています。このことは、年次の財務諸表で適用される会計上の認識と測定の原則と同じ会計上の認識と測定の原則を適用するという基本的概念に一致するものとして位置付けられています。見積平均年次実効税率は実務的な範囲内で租税区域および利益の種類ごとに算定されます。(IAS第34号第30項(c)、付録B 第B12項、第B13項および第B14項)。
(2) 累計を基準とした測定
IAS第34号では、企業の報告の頻度(年次、半期、または四半期)によって年次の経営成績の測定が左右されてはならず、測定は年初からの累計を基準として行わなければならないとされています。(IAS第34号第28項)
(3) より多くの見積りの使用等
前述のとおり、IAS第34号では、期中財務報告では資産、負債、収益、および費用は、すべて年次と同一の原則により認識することが求められていますが、その原則の範囲内において、見積りの方法を多く使用できる場合などが例示されています(IAS第34号付録BおよびC)。以下にその一部を示します。
税金費用 | 個別の租税区域ごとの所得の額に個別の税率を使用する場合に近い合理的な近似値となるものであれば、各租税区域全体または各種利益全体でその事業年度全体の予想加重平均税率を使用することが認められている。 |
年金 | 年金コストの計算は、直近の数理評価からの推計によって信頼できる測定が得られることが多いため、前事業年度末の数値を用いて期間計算される(ただし重要な市場変動や重要な一時的な事象がある場合は修正が必要)。 |
資産の減損 | 期中報告日における減損テスト、認識、及び戻入規準を事業年度末と同じように適用することがIAS第34号では要求されているが、期中報告期間の末日で詳細な減損の計算を必ず行う必要があるという意味ではなく、むしろ、直前の事業年度以降の重要な減損の兆候を検討し、そのような計算が必要となるかを決定するとされている。 |
棚卸資産 | 全数量の棚卸および評価の手続は期中報告日では必要ないかもしれない。期中報告日では、売上マージンに基づいて見積りを行えば十分な場合がある。 |
再評価及び公正価値 | IAS第16号「有形固定資産」に従い公正価値による再評価モデルを選択する場合や、IAS第40号「投資不動産」に従い投資不動産を公正価値評価する場合において、年次では資格を有する専門家の評価に依拠するが、期中報告日では依拠しないこともありうる。 |
連結会社間の調整 | 期中報告日現在の連結財務諸表の作成に際しては、年次ほど詳細な調整は行われないものもありうる。 |
4.日本基準との比較
IAS第34号に対応するものとして、日本では四半期財務諸表と中間財務諸表の2つの制度がありますが、ここでは四半期財務諸表を例にとり説明します。
IAS第34号では、期中財務報告では年次より多くの見積りの使用等が可能である旨が示されていますが、日本基準でも同様の趣旨による簡便的な会計処理が定められており、その例示項目も共通しているものが多くあります。
ただし、日本基準ではこの簡便的な会計処理のほか、四半期特有の会計処理という例外的な会計処理が一部定められています。この四半期特有の会計処理のうち、標準原価計算制度等を採用している場合において、標準原価が年間を基礎に設定するために発生し、操業度等の季節的変動に起因して発生した原価差異で原価計算期間末までにほぼ解消が見込まれるときに、継続適用を条件として原価差異を流動資産または流動負債として繰り延べることは許容されています。しかし、IAS第34号では禁止されています(IAS第34号付録B28項)。また、税金費用の計算は、日本基準では年度決算と同様の方法、すなわち四半期会計期間を一事業年度とみなして法人税等を計算し税効果会計を適用する方法が原則、年間見積実効税率を用いる方法が四半期特有の会計処理となっているのに対し、IAS第34号では年度の税引前当期純利益に対する税効果会計適用後の実効税率を合理的に見積り、税引前四半期純利益に乗じて計算する方法のみが認められています(IAS第34号第30項(c))。
会計基準 | 四半期や中間を含んだ一般的な期中財務報告の基準として定められている。 | 「四半期財務諸表に関する会計基準」および「四半期財務諸表に関する会計基準の適用指針」が定められている。 |
財務諸表の様式 | 年度と同様の基準による財務諸表と要約方式による財務諸表のいずれかを選択する。 要約財務諸表の内容は、少なくとも年度の財務諸表の各見出しおよび小計を含む(ただし要約方式でも年度とほぼ同様の表示項目によることが一般的)。 | 年度の財務諸表に準じるが、財務諸表利用者の判断を誤らせない限り集約して記載することができる(ただし、通常は「四半期連結財務諸表規則」などに従う)。 |
財務諸表の構成 | 財政状態計算書、純損益およびその他の包括利益計算書、持分変動計算書、キャッシュ・フロー計算書。 | 貸借対照表、損益計算書および包括利益計算書、キャッシュ・フロー計算書。 株主資本等変動計算書は要求されていない。また、第1四半期と第3四半期のキャッシュ・フロー計算書は省略を行うことができる。 |
精選された説明的注記(四半期の注記) | 直近の年次の報告期間の末日後の財政状態の変動および業績を理解する上で重要な事象と取引について説明を行うための事項。 (具体的注記項目の定めあり) | 基本的な考え方はIAS第34号に類似。 (具体的注記項目の定めあり) |
会計方針(認識および測定の原則を含む) | 年度と同一。 | 四半期特有の会計処理を除き、原則として年度と同一。ただし、財務諸表利用者の判断を誤らせない限り、簡便的な会計処理によることができる。 |
四半期特有の会計処理 | なし。 (ただし税金費用は年度の見積実効税率により計算する。) |
- 原価差異の繰延処理
- 見積実効税率による税金費用の計算
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簡便的な会計処理/より多くの見積りの使用等 | どちらも同様の趣旨であり、例示されている項目に差はあるが、両者に共通する例示項目としてたとえば以下のものがある。
- 棚卸資産の実地棚卸の省略
- 退職給付費用の前期末数値を基準とした期間計算
- 連結財務諸表における連結会社間残高の調整
- 減損の兆候の判定
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*このQ&Aは、『週刊 経営財務』 2892号(2008年11月03日)にあらた監査法人 企業会計研究会として掲載した内容に一部加筆・修正を行ったものです(2019年12月31日時点の最新情報)。発行所である税務研究会の許可を得て、PwCあらた有限責任監査法人がウェブサイトに掲載しているものですので、他への転載•転用はご遠慮ください。