Q. IFRSにおける財務諸表はどのように作成されますか。
A
1. IFRSにおける財務諸表の体系
国際財務報告基準(IFRS)では、IAS第1号「財務諸表の表示」により、IFRSに準拠した財務諸表における全般的な要求事項、その構成におけるガイダンス、およびその内容についての最低限の要求事項が規定されています。IFRSにおける完全な1組の財務諸表は、当期および前期に関する比較情報についての、以下の計算書から構成されます(IAS第1号第10項)。
- 財政状態計算書
- 純損益およびその他の包括利益計算書(包括利益計算書)(*)
- 持分変動計算書
- キャッシュ・フロー計算書
- 重要な会計方針及びその他の説明的情報で構成される注記
- (会計方針の遡及適用、財務諸表項目の遡及的修正再表示、又は財務諸表項目の組替を行った場合) 比較対象期間のうち最も早い年度の期首時点の財政状態計算書
なお、各計算書について、上記以外の名称を使用することが可能です。
(*) ただし、2計算書方式(包括利益計算書を当期純損益とその他の包括利益に分割し、当期純損益を表示する損益計算書と、当期純損益から始まってその他の包括利益を表示する包括利益計算書の2つを作成する方式)も認められる。
2. 財務諸表の一般的特性
(1) IFRSへの準拠性
IFRSにおける財務諸表の適正な表示は、IFRSに準拠し、また必要な場合には追加的な開示を行うことによって作成されると考えられています。そのため、国際会計基準審議会(以下、IASB)の概念フレームワークの資産、負債、収益、費用の定義や認識要件に従った会計処理が求められています(IAS第1号第15項)。
また、この他、財務諸表の適正な表示のために以下の事項も必要であるとされています(IAS第1号第17項)。
1) IAS第8号「会計方針、会計上の見積りの変更及び誤謬」に従った会計方針の選択と適用
2) 会計方針を含む情報の表示方法における「目的適合性」、「信頼性」、「比較可能性」、「理解可能性」についての検討
3) IFRSの特定の規定に準拠するだけでは不十分な場合の追加的開示
(2) 継続企業の前提
財務諸表を作成する場合、経営者は、企業が継続企業として存続する能力を評価し、特別な場合を除き、継続企業の前提により財務諸表を作成しなければなりません。
仮に、経営者が、企業の継続企業としての存続能力に対して重大な疑義を生じさせるような事象又は状況に関する重要な不確実性を発見した場合には、その不確実性を開示する必要があります(IAS第1号第25項)。
(3) 発生主義会計の適用
企業はキャッシュ・フロー情報を除き、発生主義会計により財務諸表を作成しなければなりません。この際、概念フレームワークの定義及び認識要件を満たした場合に、資産、負債、資本、収益及び費用が認識されます(IAS第1号第27項、第28項)。
(4) 重要性と合算
類似した項目の分類に重要性がある場合には、財務諸表上でそれぞれを区別して表示しなければなりません。また、性質又は機能に類似性がない項目については、重要性がない場合を除いて、区別して表示しなければなりません(IAS第1号第29項)。
(5) 相殺の禁止
資産と負債、収益と費用は、IFRSによって要求または許容されていない限り、相殺してはなりません(IAS第1号第32項)。
(6) 報告の頻度
企業は、完全な1組の財務諸表(比較情報を含む)を、少なくとも年に1回は報告しなければなりません。期末日が変更される場合には、以下の事項を開示しなければなりません(IAS第1号第36項)。
- 1年よりも長い期間又は短い期間が使用されている理由
- 財務諸表の比較数値が完全に比較可能とはならない旨
(7) 比較情報
当期の財務諸表において報告される金額的情報については、特別な場合を除き、前期に係る比較情報を開示しなければなりません。また、当期の財務諸表の理解に役立つ場合には、説明的・記述的な情報に関する比較情報も含めなければなりません(IAS第1号第38項)。
(8) 表示の継続性
財務諸表上の項目の表示及び分類については、以下の場合を除いて、ある期から次の期へと継続して適用しなければなりません(IAS第1号第45項)。
- 企業の事業内容の重大な変化又は財務諸表の表示の再検討により、IAS第8号の会計方針の選択と適用の要件について別の表示や分類がより適切であることが明らかな場合
- IFRSが表示の変更を求めている場合
3. 財務諸表の構成及び内容
(1) 財政状態計算書
IAS第1号第54項において、以下の金額を表す項目を掲記ことが求められています。
- 有形固定資産
- 投資不動産
- 無形資産
- 金融資産
- 持分法で会計処理されている投資
- IAS第41号「農業」の範囲に含まれる生物資産
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- 棚卸資産
- 売掛金及びその他の債権
- 現金及び現金同等物
- 売却目的保有に分類される資産と、売却目的保有に分類される処分グループに含まれる資産との合計額
- 買掛金及びその他の未払金
- 引当金
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- 金融負債
- 当期税金に係る資産及び負債
- 繰延税金資産及び負債
- 売却目的保有に分類される処分グループに含まれる負債
- 非支配持分
- 親会社の所有者に帰属する発行済資本金及び剰余金
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流動性に基づく表示の方が、信頼性があって目的適合性のより高い情報を提供する場合を除き、財政状態計算書では流動資産と非流動資産、流動負債と非流動負債を、別々の区分として表示しなければなりません(IAS第1号第60項)。
(2) 純損益およびその他の包括利益計算書(包括利益計算書)
純損益およびその他の包括利益計算書(包括利益計算書)においては、純損益の部及びその他の包括利益の部に加えて、
- 純損益
- その他の包括利益の合計額
- 当期の包括利益(純利益とその他の包括利益の合計額)
を表示することが求められます。ただし、2計算書方式による場合には、包括利益を表示する計算書において純損益の部を表示しません(IAS第1号第81A項)。当期の純損益及び包括利益は、非支配持分に帰属する金額と、親会社の所有者に帰属する金額とを区分して表示します(IAS第1号第81B項)。
純損益の部には、当該期間に係る、収益、財務費用、持分法で会計処理されている関連会社及び共同支配企業の純損益に対する持分、税金費用、非継続事業からの当期純利益(損失)などの金額を表す科目を含めなければなりません(IAS第1号第82項)。
純損益の部では、費用を機能別または性質別に表示します。機能別に表示を行う場合には、減価償却費、償却費、従業員給付費用などの費用の内容に関して、財務諸表の注記において追加して性質別の費用を開示することが要求されます(IAS第1号第99項、第102項~第104項)。
その他の包括利益の部では、以下の金額に係る項目の表示が求められます(IAS第1号第82A項)
(a) その他の包括利益の項目((b)を除く)を性質別に分類し、他のIFRSに従って以下にグループ分けしたもの。
(i) その後に純損益に振り替えられることのないもの
(ii) その後に特定の条件を満たした時に純損益に振り替えられるもの。
(b) 持分法を用いて会計処理する関連会社及び共同支配企業のその他の包括利益に対する持分を、他のIFRSに従って以下の項目に区分したもの。
(i) その後に純損益に振り替えられることのないもの
(ii) その後に特定の条件を満たした時に純損益に振り替えられるもの
なお、企業はこれらその他の包括利益について、関連する税効果考慮後の純額か、関連する法人所得税の合計額を別個に示した上での税効果考慮前の金額のいずれかにより、表示することができる(IAS第1号第91項)。また、その他の包括利益の内訳項目に係る組替調整額は開示しなければならない(IAS第1号第92項)。
(3) 持分変動計算書
持分変動計算書においては、当期の包括利益合計(親会社の所有者に帰属する額と、非支配持分に帰属する額を区別する)、IAS第8号に従って遡及適用又は遡及的修正再表示を行った場合の影響額、および資本の各内訳項目について期首と期末の帳簿価額の調整表(純損益、その他の包括利益、所有者としての立場での所有者との取引による変動を区別して開示)を含めなければなりません(IAS第1号第106項)。
また、持分変動計算書または注記のいずれかにおいて、その他の包括利益の各項目別の分析、ならびに配当額及び1株当たりの配当金額の表示が求められます(IAS第1号第106A項、第107項)。
(4) キャッシュ・フロー計算書
キャッシュ・フロー計算書については、IAS第7号「キャッシュ・フロー計算書」に従い、期中のキャッシュ・フローを営業、投資および財務の諸活動に区分した上で、表示することになります。
(5) 注記事項
注記として以下の事項を含めなければならないものとされています(IAS第1号第112項、第117項、第122項、第125項)。
(a) 重要な会計方針(財務諸表を作成する際に使用した測定基礎、財務諸表の理解に目的適合性のある使用したその他の会計方針)
(b) 会計方針を適用する過程で行った判断のうち、財務諸表に計上されている金額に最も重要な影響を与えているもの。
(c) 報告期間の末日において、将来に関して行う仮定及び見積りの不確実性の発生要因のうち、翌事業年度中に資産及び負債の帳簿価額に重要性のある修正を生じる重要なリスクがあるものに関する情報(その内容、報告期間の期末日時点の帳簿価額)。
(d) IFRSで要求している情報のうち、財務諸表のどこにも表示されていないもの。
(e) 財務諸表のどこにも表示されていないが、財務諸表の理解に目的適合性のある情報。
また、実務上可能な限り、財務諸表本表と注記における関連情報の相互参照を含め、注記を体系的な方法で記載しなければならないとされています(IAS第1号第113項)。
4. IASB公開草案「全般的な表示及び開示」
IASBは、情報(特に、財務業績に関する情報)が財務諸表において伝達される方法の改善を図るために、2019年12月17日に公開草案「全般的な表示及び開示」(以下、公開草案)を公表しました。IASBは、基本財務諸表プロジェクト及び「財務報告におけるコミュニケーションの改善」に関する作業の一環として公開草案を開発しました。公開草案に対するコメントの募集期限は、2020年6月30日です。
公開草案では、次の4つの主要なトピックを扱っています。
1) 財務業績計算書における新たな3つの小計の表示(営業損益、営業損益並びに不可分な(integral)関連会社及び共同支配企業から生じる収益/費用、財務及び法人所得税前損益)
2) 情報の分解表示の改善(営業区分に分類される費用の分析、通例でない(unusual)収益及び費用の開示、集約及び分解表示の原則の適用等)
3) 経営者業績指標(「非GAAP」指標)の開示
4) キャッシュ・フロー計算書の限定的な改善
5.日本基準との比較
日本基準においては、財務諸表等規則や連結財務諸表規則などにより、我が国において一般に公正妥当と認められる企業会計の基準(日本基準)に準拠した財務諸表において従うべき財務諸表の形式や表示科目ならびに注記での開示要求について、具体的で詳細な規定が定められています。
日本基準においても、連結財務諸表には「包括利益の表示に関する会計基準」が適用され、IFRSとのコンバージェンスが図られた結果、連結財務諸表を構成する計算書としては、連結貸借対照表、連結損益計算書、連結包括利益計算書、連結株主資本等変動計算書、連結キャッシュ・フロー計算書、連結附属明細表があり、そのほか注記事項が定められています。IFRSと同様に、損益計算書と包括利益計算書の2計算書方式に代えて、損益および包括利益計算書の1計算書方式によることも可能です。
各計算書においては、IFRSと比較して表示様式や科目について詳細な規定が定められています。中でも、日本基準における損益計算書では、売上総利益・営業利益・経常利益・税引前当期純利益・当期純利益をそれぞれ段階利益として表示することが求められており、通常の取引以外の原因に基づいて発生した一部の臨時的な利益または損失に対応する「特別損益」の区分が明示的に設けられていることが大きな特徴と言えます。
*このQ&Aは、『週刊 経営財務』 2853号(2008年01月21日)にあらた監査法人 企業会計研究会として掲載した内容に一部加筆・修正を行ったものです(2019年12月31日時点の最新情報)。発行所である税務研究会の許可を得て、PwCあらた有限責任監査法人がウェブサイトに掲載しているものですので、他への転載・転用はご遠慮ください。