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要点
国際財務報告基準(IFRS)第16号「リース」は、多くの領域において、企業の会計処理および財務報告に影響を及ぼします。本In briefは、医薬・ライフサイエンス(PLS)業界における、製造委託契約について潜在的な組込リースを評価する際の重要な検討事項を取り上げています。新たなリース基準では、借手がほぼすべてのリースについて貸借対照表上に資産および負債を計上することを要求しています。また、この要求事項は、他の契約に組み込まれているリースにも適用されます。組込リースを識別するために、企業は、供給契約、データセンター契約、アウトソーシング契約および製造委託契約など、通常はリースと考えられていない契約についても検討する必要があります。本In briefでは、組込リースを含む可能性のある契約の一例として、最後の製造委託契約に焦点を当てています。契約が組込リースを含んでいるかどうかの決定には、多くの場合において、重要な判断を伴う詳細な分析を行う必要があります。

論点
製造委託契約は、多様な形態を取る可能性があります。医薬・ライフサイエンス(PLS)業界においては、通常、これらの契約は、製薬会社が製品の製造を、製造受託会社(CMO)に委託する仕組みになっています。
新たなリース基準の一般原則は、(1)契約に明示的または黙示的に特定された資産が存在し、かつ(2)顧客が使用期間にわたり特定された資産を支配する場合には、契約にリースが含まれるというものです。
1. 特定された資産
製造委託契約は、契約に明記されている有形資産を含む可能性があります。例えば、機械類、生産ライン、および/または、施設内の専用スペースなどが挙げられます。資産が契約に明記されていない場合でも、資産(機械類や生産ラインなど)が利用可能となった時点で、有形資産が黙示的に特定される場合もあります。ただし、この場合は、供給者が契約に基づく義務を履行するための代替資産を有していないことが前提となります。
資産が明示的または黙示的に特定されている場合、供給者(すなわち、製造受託会社)による入替えの権利の有無を評価する必要があります。入替えの権利が実質的である場合には、資産が特定されている場合であっても、顧客(すなわち、製薬会社)が特定された資産を使用する権利を有しておらず、したがってリースは存在しません。供給者が資産を入れ替える権利が実質的であるとみなされるのは、 (1) 供給者が、使用期間全体を通じて代替資産に入れ替える実質上の能力を有しており、かつ、(2)供給者が資産を入れ替える権利の行使により経済的に便益を得ることとなる、という両方の条件が満たされる場合のみです。この評価は、契約締結日に存在する事実および状況が基礎となり、その時点で行います。
以下の要因は、契約が実質的な入替えの権利を含んでおらず、したがって特定された資産の使用を含んでいることを示す可能性のある例です。
  • 契約上の取決めにより、製造受託会社が特定された資産を入れ替えることが妨げられている。
  • 契約上の取決めにより、製造受託会社が特定された資産を入れ替えることは認められている。しかし、製薬会社は、当該製薬会社の製品に高度に特殊化された生産ラインを設計している。
  • 代替的な機械類または生産ラインは、供給者にとって容易に利用可能ではない、または、合理的な期間内に別の企業から調達できない、もしくは入替えに関連した経済的便益を上回るコストをかけなければ調達できない。
  • 製造過程を別の生産ラインまたは機械類に移動するためのコストが、関連した経済的便益を上回る。例えば、製造過程が高度に特殊化されている、複雑である、または温度制御されている場合は、これに該当する可能性が高い。製薬会社は、各製造委託契約についてこれらの条件や類似の条件を慎重に評価しなければならない。生産ラインの修理やアップデートの間に、代替資産を一時的に使用できる供給者の能力は、実質的な入替えの権利を表わさない。
製薬会社が実質的な入替えの権利の有無を容易に判断できない場合は、入替えの権利は存在しないものと仮定されます。
2. 使用期間にわたり特定された資産の使用を支配する権利
製薬会社は、契約が資産を明示的または黙示的に特定していると結論づけた場合、次に、使用期間にわたり当該資産の使用を支配しているかどうかを評価しなければなりません。製薬会社は、使用期間全体にわたり、(1)特定された資産の使用から経済的便益のほとんどすべてを得る権利、および、(2)特定された資産の使用を指図する権利を有しているのかどうかを評価しなければなりません。契約がリースを含むためには、両方の要件を満たさなければなりません。以下は、製薬会社が資産を支配しているかどうかを決定するために考慮すべき要因の一部です。
  • 注文書が作成される頻度と時期。これが、関連する機械類または生産ラインがアウトプットを生産するかどうか、いつ生産するかを実質的に決定する場合、顧客(すなわち、製薬会社)が、関連する特定された資産の使用を指図する権利を実質的に有することを示す可能性がある。
  • 業務上の意思決定における製薬会社の役割。製薬会社が特定の作業指示を決定できる場合、または業務上の意思決定を承認しなければならない場合、それは、顧客が資産の使用を指図する権利を有する指標となる可能性がある。
  • 製造受託会社が製品を他の顧客に販売する権利および能力を有しているかどうか。製造受託会社が製品を製薬会社以外の誰か(例えば、共同パートナー)に販売できる場合、それは、(製薬会社ではなく)製造受託会社が当該資産の使用を指図する権利を有していることの指標となる可能性がある。
設例 #1
事実:顧客Aは、医療機器およびディスポーザブル(使い捨て)製品(以下まとめて、「製品」)を製造するために製造受託会社と契約を締結します。顧客Aはその後、「製品」を外部の顧客に販売します。製造受託会社は、複数の生産ラインを有しており、複数の顧客の注文を履行するためにその生産ラインを使用します。この契約は、製造受託会社が顧客Aの注文を履行するためにどの生産ラインを使用するかを選択することを認めています。「製品」の生産が生産ラインで開始された後であっても、他の生産ラインは利用可能であるため、製造受託会社は、最小限の移動コストで、容易に別の生産ラインに変更することができます。顧客Aは、法的に拘束力のある注文書を四半期ごとに製造受託会社に提出しており、また、契約により、法的に拘束力のない年次製造予測を提出することが要求されています。「製品」は汎用品であり、また、容易に保管することができます。製造受託会社は、生産に使用する原材料の選定を含め、業務プロセスに対して完全な裁量権を有しています。
質問:この契約はリースを含んでいますか。
考察:この契約は、IFRS第16号に基づくリースを含んでいる可能性は低いといえます。資産(すなわち生産ライン)の使用は、契約に黙示的に含まれていますが、(製造受託会社が入替えから経済的便益を得ることができると想定して)実質的な入替えの権利が存在しているため、特定された資産は存在しない可能性が高いといえます。さらに、仮に実質的な入替えの権利がないとしても、製造受託会社は、業務プロセスを変更し、アウトプットの生産時期を決定する権利を有しているため、リースが存在する可能性は低いといえます。
設例 #2
事実:事実は設例#1と同じであるとします。ただし、これらの「製品」専用の生産ラインが存在しており、製造受託会社は契約上、他の生産ラインを使用することはできません。「製品」は高度に特殊化されており、また、注文書が非常に頻繁に提出されることにより、アウトプットを生産するかどうか、いつ、どれだけ生産するかを実質的に決定しています。さらに、主要な業務上の意思決定はルール化されており、業務上の手続きの変更は顧客Aの承認を受けなければなりません。
質問:この契約は、リースを含んでいますか。
考察:この契約は、IFRS第16号に基づくリースを含んでいる可能性が高いといえます。特定された資産は、契約に明示されており(すなわち生産ライン)、入れ替える権利は存在しません。専用の生産ラインがあり、顧客Aの注文書によって、アウトプットが専用生産ラインで生産されるかどうか、いつ、どれだけ生産されるかが実質的に決定されるため、顧客Aは生産ラインの使用を意思決定する権利を実質的に支配しているようにみえます。製造受託会社は、顧客Aによる事前の承認がなければ、原材料/部品の種類、全体的な生産プロセス、およびアウトプットに関連するその他の意思決定を含め、業務上の指図を変更する権利を有していません。また、顧客Aは、生産ラインの使用による経済的便益のほぼすべてを有しています。
変動リース料を含むリース契約
リース(組込リースを含む)が識別された後は、その会計処理は、リース料が固定か変動かに影響を受けます。リースの下で要求される固定リース料は、稼働能力を保証するための年間固定リース料または月間固定リース料(リース契約では「キャパシティ・フィー」と呼ばれることが多い)などの多くの形態をとる可能性があります。企業は、すべての固定リース料が識別されていることを確認するために、リース契約を注意深くレビューする必要があります。変動リース料とは、原資産を使用する権利に対して、借手が貸手に行う支払のうち、開始日後に発生する事実または状況の変化(時の経過を除く)により変動する部分のことです。指数またはレートに基づいて変動するリース料は、リース開始日の指数またはレートを用いて当初に測定しなければなりません。その他の変動リース料は、リース料の当初の会計処理に影響しません(当該リース料が、実質上の固定リース料である場合を除く)。すなわち、これは、リース開始時の当初のリース負債および使用権(ROU)資産の価値に含まれないことを意味します。
規定
リース料の種類
影響
契約上、単位当たり価格が規定されているが、最低数量がない場合
変動リース料
リース負債および使用権資産の当初測定に含まれないが、開示される。
契約上、単位当たり価格が規定されており、最低数量が存在する場合
最低リース料が固定されている。
リース構成部分に配分される最低リース料は、リース負債および使用権資産の当初測定に含まれる。リース構成部分に配分された最低リース料を上回る部分は開示される。
設例 #3
事実:製薬会社は、製造受託会社である供給者と、製剤の製造に関する2年間の製造委託契約を締結します。製薬会社は、生産ラインについて組込リースがあると結論付けています。製薬会社は、製造された製剤の1回分につき供給者に手数料を支払います。契約書には、製薬会社が、契約により、製剤を購入することを要求されている毎月の最低数量が定められています。製薬会社は、契約期間中、契約に定められている数量を変更することはできません。
質問:IFRS第16号に基づき、製薬会社はこの組込リースをどのように会計処理すべきでしょうか。
考察:製薬会社は、2年間の使用期間中、最低数量を購入することが要求されています。その結果、対価の合計額は変動しますが、最低数量によって対価の最低額は固定されます。最初に(製薬会社が、非リース構成部分をリース構成部分から区分せずに会計処理する選択を行わないことを前提として)、製薬会社は、リース開始時に独立価格の比率に基づき、固定された対価を、リースされた生産ライン(リース構成部分)と製剤(非リース構成部分)に配分しなければなりません。その後、製薬会社は、リース構成部分に配分した金額の現在価値で、使用権資産とリース負債を貸借対照表に計上します。
設例 #4
事実:契約が月間最低数量を含まないことを除き、事実は説例#3と同じであると仮定します。
質問:IFRS第16号に基づき、製薬会社はこの組込リースをどのように会計処理すべきでしょうか。
考察:この製造委託契約は組込リースを含んでいますが、対価はすべて変動です。変動対価は、当初の使用権資産およびリース負債の金額から除外されるため、この契約には当初のリース負債は存在しません。その代わりに、製薬会社は2年間にわたって、組み込まれたリース構成部分について変動リース料を費用計上することになります。新たなリース基準の下では、製薬会社は、非リース構成部分をリース構成部分から区分せずに、製剤の生産時/引渡時に、製剤全体のコストをリース費用として扱うことも選択できます。
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