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これまでソフトウェア業界は、国際財務報告基準(IFRS)第15号の適用によって、より大きな影響を受ける業界のひとつであると理解されてきました。これは、特にライセンス収益に関するIFRSに基づく現行ガイダンスが限定されており、多くの企業が、今では廃止されている業種別の米国会計基準(US GAAP)に基づき、過去に会計方針を策定しようとしてきたためです。 ソフトウェアの収益認識に関するIn depth 2017-13では、IFRS第15号の導入の結果として生じた主要な変更点のいくつかを説明しています。 ソフトウェア業界におけるIFRS第15号の導入は、予想どおり困難を伴うものであることが明らかになってきました。経営者は、収益認識のパターンに重要な変更がない場合であっても、多くの新たな判断と見積りを行う必要があるといえます。ソフトウェア業界に影響を与える最も重要な変更の1つとして、ソフトウェアが引き渡され支配が顧客に移転する場合に、より多くの収益が早く認識されることがあります。
本In briefは、ソフトウェア業界がIFRS第15号の導入段階で直面する主要な判断の一部について、追加的な見解を提供するものです。 |
ライセンスが別個のものであるか否かの決定
ソフトウェアのライセンスは、通常、契約後のカスタマー・サポート(「PCS」)としても知られているアップデートを含む束で販売されます。PCSは一定の期間にわたって引き渡されますが、ソフトウェアは別個の「使用権」に関するライセンスであり、収益はライセンスが移転された一時点で認識されるのが一般的です。しかし、ライセンスとアップデートが単一の履行義務に結合しているような限定的な状況がある可能性があります。
ライセンスとアップデートが独立した履行義務であるか否かの決定には判断が必要となります。一般的に、アップデートはソフトウェアの有効性を向上させます。しかし、ライセンスと結合しているアップデートは、ソフトウェアの機能性を根本的に変化させるか、またはソフトウェアの機能性に不可欠であるはずです。以下のような、いくつかの要因の組み合わせを検討する必要があります。
- ソフトウェアの性質-アップデートなしで単独で機能可能なソフトウェアは、アップデートから独立した履行義務である可能性が高いです。限定的ではありますが、ソフトウェアの機能やソフトウェアが作動している業種によっては、アップデートがライセンスから便益を得る顧客の能力に不可欠な場合がある可能性があります。
- アップデートの重要性-ソフトウェアの機能を変化させるアップデートは、そのようなアップデートがライセンスを大幅に改変することを示している可能性があります。これは、ソフトウェアに対する重要なアップデートに該当する可能性があります。しかし、この要因については、そのようなアップデートがソフトウェアの機能に不可欠かどうかを決定するために、アップデートの性質や頻度に関する他の指標も併せて考慮する必要があります。
- アップデートの頻度および検収-頻繁に行われるアップデートは、そのアップデートがソフトウェアの動作に不可欠であることを示している可能性があります。ただし、経営者は、頻度だけでなく、顧客がアップデートを検収したかどうかも考慮すべきです。アップデートが利用可能であるが使用されていない場合は、ソフトウェアはアップデートなしでも機能していることを示す可能性があります。
ライセンスとアップデートが結合している場合は、通常、一定の期間にわたって引き渡される履行義務となります。IFRS第15号の設例55は、このアプローチの例示を提供しています。別個に認識されるべきPCSパッケージの一部として含まれる他の履行義務が存在している可能性があります。しかし、それらは一定の期間にわたって、そして、ソフトウェアとアップデートが結合したサービスと同様の期間にわたって引き渡されます。実務上、取引価格の配分は収益認識の時期と金額に重要な影響を与えることにはなりません。
セットアップサービスおよび統合サービス
ソフトウェアに関する契約には、多くの場合、データ変換、ソフトウェアの設計または開発、およびカスタマイズなどの導入サポートを提供する約束が含まれています。企業は、そのようなサービスを独立した履行義務として会計処理するかどうか、およびいつ収益を認識すべきか(すなわち、サービスが完了した一時点か、またはサービスが履行されるにつれて一定期間にわたってか)を決定するために、判断を用いる必要があります。IFRS第15号の設例11は、「使用権」に関するライセンスであるソフトウェアの観点から、この判断の例示を提供しています。
サース(SAAS)(訳者註:ネットワーク等を通じて顧客が必要な機能を必要な分だけサービスとして利用できるソフトウェア)契約でのソフトウェアにも、多くの場合、導入サービスが含まれています。顧客がサース契約の内容について別個のサービスを受けていると結論づけることは、より困難となる可能性があります。このサービスには、顧客のシステムにベンダーのソフトウェアとの互換性をもたせてサービスを提供可能にする設定が含まれている場合があります。顧客がベンダーのソフトウェアの支配を獲得することはないことから、導入に関連したサービスを顧客が受け取ると同時に消費することを証明するのは困難です。これは、ベンダーの活動によって何も顧客に移転されないため、それらのサービスは独立した履行義務を表わしていないことの指標となる可能性があります。しかし、導入サービスが他のサービス(別の供給者によって提供されるソフトウェアなど)と一緒に使用できる独立した便益を顧客に提供する状況が存在する可能性があります。その場合には、このサービスは独立した履行義務を表します。
独立販売価格の見積り
ソフトウェア契約において、企業は複数の別個の財またはサービス(例えば、ライセンスやアップデート)を単一のパッケージとして一緒に提供する場合が多くあります。その場合は、それらの別個の財またはサービスの独立販売価格の比率に基づいて取引価格を配分する必要があります。多くの場合、独立販売価格は直接的に観察可能でないため、見積りを行わなければなりません。IFRS第15号では、特定の見積方法を規定していませんが、配分は、別個の財またはサービスが独立して販売された場合の価格を忠実に表すものでなければなりません。
独立販売価格を見積る最も適切なアプローチは、観察可能な販売価格帯に関する情報を含む、事実と状況に応じて異なります。PwCの見解では、独立販売価格を決定する際には、一定の価格帯を用いることが認められると考えられます。ただし、類似する顧客に対して独立して価格が設定されているかのように、この価格帯が別個の財またはサービスそれぞれの合理的な価格設定を反映していることが条件となります。
企業は、一般的に、ソフトウェアとPCSのみをパッケージとして販売している、またはメンテナンスのみを契約更新として独立して販売しています。IFRS第15号は、限定的な状況においてのみ、残余アプローチの使用を認めています。企業は、一定の要件を満たし、その結果がソフトウェアを独立して販売する場合の価格を忠実に表す場合、ソフトウェアに配分すべき金額を決定するために更新された価格を使用することがあります。例えば、企業が顧客に対して、ライセンス供与されたソフトウェアとそのメンテナンスをC1.1百万で販売しているとします。また、C1百万でPCSを定期的に販売し、C0.5百万からC5百万の価格帯でソフトウェアを単独でライセンス供与していると仮定します。残余アプローチを適用し、C0.1百万をソフトウェアに配分することは適切ではないでしょう。この場合、残余アプローチでは、ソフトウェアのライセンスに名目上の販売価格の配分を行うことになり、独立販売価格を忠実に反映しないためです。
契約期間および解約ペナルティー
契約期間とは、契約の当事者が現在の強制可能な権利および義務を有している期間です。契約期間の決定は、ライセンスの開始時に移転されたソフトウェアの会計処理に重大な影響を与える可能性があります。これは、契約期間全体にわたりライセンスに配分される収益の一部が、ライセンスが顧客に移転された時点で認識されるためです。契約期間がさらに短い場合、前倒しで認識される収益の金額が減少することになります。
企業は、契約期間を評価する際に解約条項を考慮する必要があります。企業が数年間の契約を締結するものの、その契約を補償なしで早期に解約することができる場合、その契約は実質的に更新する権利を有する短期の契約である可能性があります。企業の経営者は、契約の更新が他の種類の顧客オプションと類似する重要な権利を提供しているかどうかを判定するために、その更新を評価しなければなりません。これとは対照的に、早期に解約できるものの、実質的な解約ペナルティーの支払を要求する契約は、規定された期間と等しい契約期間を有している可能性が高いといえます。
PwCの見解では、解約ペナルティーは、現金払い(前払で支払われる可能性がある)やベンダーへの資産の移転など、さまざまな形態をとる可能性があると考えます。解約ペナルティーが実質的であるかどうかを判定する際は判断が必要となります。強制可能な権利および義務を生じさせるため、支払を「解約ペナルティー」と表記する必要はありません。顧客が、返還を要求できる権利がなく、ライセンスを獲得するために重要な前払手数料を既に支払っており、そのライセンスに対する権利を放棄することになる場合、実質的な解約ペナルティーが存在する可能性があります。
使用量に基づくロイヤルティと追加的な権利との区別
ソフトウェアのライセンス契約の多くに、ソフトウェアの使用量に連動した変動対価が含まれています。企業は、使用量に基づくロイヤルティ(変動対価の一形態)を表す報酬と、追加の財またはサービスを取得するオプションとを区別する必要があります。使用量に基づくロイヤルティは、使用が発生したとき、または履行義務が充足されたときのいずれか遅い時点で認識されます。追加的な権利を取得するオプションが行使された時点で受け取る手数料は、追加的な権利が移転された時点で認識されます。しかし経営者は、契約の開始時点で、このオプションが重要な権利を提供しているかどうかを評価する必要があるといえます。オプションが重要な権利を提供している場合、取引価格の一部が当該オプションに配分され、収益がオプションの行使または失効までに繰り延べられるため、認識が遅くなる可能性があります。
使用量に基づくロイヤルティと追加の財またはサービスを獲得するオプションとを区別するためには、判断が必要となる可能性があります。ライセンサーが、追加的な権利を提供せずに、顧客がすでに権利を有しているソフトウェアの使用量に基づき追加の対価に対する権利を有している場合、そのような対価は、通常、使用量に基づくロイヤルティとして取扱います。一方、ライセンサーが、顧客がこれまで支配していなかった追加的な権利を、増分の対価と交換に提供する場合、顧客は、追加の権利を獲得するオプションを行使している可能性が高いといえます。
手数料の資産計上と償却
IFRS第15号は、ほとんどの状況において、契約を獲得するための増分コスト(例えば、販売手数料)を資産計上することを企業に求めています。当該資産については、減損の評価が行われ、関連するサービスの移転と整合して規則的に償却されます。償却期間の決定は、必ずしも契約期間の長さを反映していないため、複雑となる可能性があります。特に、更新が予想される場合、償却期間に予想される更新を含めなければなりません。ただし、企業が更新に見合ったコストを負担する場合は除きます。
契約更新のために発生したコストが、当初の契約で発生したコストに「見合う」コストであるかどうかを評価するには、判断が必要となる可能性があります。この評価は、当初の契約および契約更新を獲得するために必要となった労力のレベルに基づく必要はありません。代わりに、通常、契約当初の手数料と更新手数料がそれぞれの契約上の価値に合理的に比例しているかどうかに基づくべきです。
更新手数料は支払われるものの、契約当初の手数料に見合うものではない場合、契約当初の手数料は当初の契約期間よりも長い期間にわたって償却しなければなりません。企業は、当初の手数料を顧客の平均期間にわたって償却し、発生時に更新手数料を費用計上することがあります。また、当初の手数料を2つの構成単位に分割する場合もあります。1つは更新手数料に見合った金額を反映し、残りは顧客の見積期間にわたって償却される前払手数料として処理されます。資産に関連するサービスの移転パターンと整合的である場合には、その他のアプローチも認められる可能性があります。例えば、期間限定ライセンスが存在し、収益の大部分が前倒しで認識される場合、手数料の前払いと同様の割合を認識することが適切である可能性があります。
契約の識別
従前の収益基準は、契約の識別に関する明示的なガイダンスを提供していませんでした。しかし、IFRS第15号を適用する上では、契約の識別は重要なステップです。これにより、企業は契約に関する考え方を変えることになる可能性があります。例えば、ある企業は、署名された法的な合意書が整う前に(これまでは、この時点で契約が存在するとは考えられていなかった)、契約は存在すると結論づける可能性があります。これは、会計上の結論および残存する履行義務に関する開示に影響を及ぼす可能性があります。
契約は、書面や口頭、または企業の取引慣行によって含意されることがあります。一般に、法的に強制可能な権利および義務を創出する契約は、契約の定義を満たします。契約の当事者は、当該契約の権利および義務(例えば、オプションまたは値引きを顧客に提供すること)の条件(例えば、契約期間)を変更するか、または追加する、あるいは合意の内容を変更するような契約の修正もしくは「付随契約」を締結する場合があります。これらの項目はすべて収益の認識に影響を与えるため、修正を含め契約全体を理解することが、会計上の結論にとって非常に重要です。上記の「契約期間」に関する解説をご参照ください。
本人か代理人かの検討
ソフトウェア企業は、顧客に対する特定の財またはサービスの提供に寄与する、複数の関連性のない当事者を含んでいる契約を締結する場合が多くあります。例えばソフトウェア企業は、自社の財またはサービスに加えて、第三者のソフトウェア、ハードウェア、サービスを販売する可能性があります。経営者は、顧客に約束した特定の財またはサービスそれぞれについて、企業が本人または代理人のどちらに該当するかを検討する必要があります。これにより、収益を総額で表示するか(本人として行動する場合)、または純額で表示するか(代理人として行動する場合)を決定することになります。
ソフトウェア契約では、多くの場合、まだ請求されていない契約に基づく財またはサービス(例えば、将来の保守期間)が存在する可能性があります。IFRS第15号では、これらの開示に加えて、未収収益および繰延収益(契約負債および契約資産)の内容、ならびにサービスが履行された期間、または履行予定の期間に関する説明の開示が要求されています。
国際会計基準(IAS)第1号では、重要な判断および見積りに関して一定の情報を開示することを企業に求めています。経営者は、IFRS第15号を適用する際に行った判断および見積りは、従前の会計基準と同様の会計処理をもたらすと結論付けるかもしれませんが、その思考プロセスは異なる可能性があります。これは、開示される判断および見積りが異なることを意味する可能性があります。企業は、IFRS第15号の適用を反映するために、重要な判断および見積りについての会計方針および開示を更新することが肝要です。
また、IFRS第15号は適用される重要な判断に関連して、IAS第1号を補完する多くの新たな開示を要求しています。そのような開示には、IFRS第15号の適用に際して行われた判断、すなわち顧客との契約から生じる収益の金額および時期の決定、特に、履行義務の充足時期、ならびに取引価格および履行義務への配分に重要な影響を与えている判断の開示が含まれます。
IFRS第15号は、2018年1月1日以後に開始する事業年度に適用されます。