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国際会計基準審議会(IASB)は、2020年5月14日に、以下の複数の狭い範囲の修正を公表しました。
- 国際会計基準(IAS)第16号「有形固定資産」の修正 「意図した使用の前の収入」
- IAS第37号「引当金、偶発負債及び偶発資産」の修正 「不利な契約-契約履行のコスト」
- 国際財務報告基準(IFRS)第3号「企業結合」の修正 「概念フレームワークへの参照」
- IFRS第1号「国際財務報告基準の初度適用」、IFRS第9号「金融商品」、IFRS第16号「リース」およびIAS第41号「農業」に影響を与えるIFRS基準の年次改善2018-2020年
すべての修正は2022年1月1日に発効します。
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論点
修正の概要は以下のとおりです。
IAS第16号「有形固定資産」の修正 「意図した使用の前の収入」
IAS第16号は、資産を経営者が意図した方法で稼働可能にするために必要な場所および状態に置くことに直接起因するコストを、当該資産の取得原価に含めることを要求しています。そのようなコストの例には、資産が正常に機能するかどうかの試運転のコストがあります。
IAS第16号の修正では、企業が、意図した使用のために資産を準備している間に生産された物品の販売による収入(例えば、機械が正常に機能しているかどうかの試運転時に生産された見本品の販売による収入)を、有形固定資産の取得原価から控除することを禁止しています。本修正により、このような見本品の販売による収入は、その生産コストとともに純損益に認識することになります。企業は、その生産コストを測定するために、IAS第2号「棚卸資産」を適用します。その生産コストには試運転の資産の減価償却費を含めません。試運転の資産は意図した方法で使用可能となる前の状態にあるためです。
また、本修正は、企業が資産の技術的および物理的な性能を評価する際を、「当該資産が正常に機能しているかどうかの試運転をしている」と明確にしています。この評価には、当該資産の財務業績は関係ありません。したがって、資産は、経営者が意図した方法で使用可能となれば、経営者が期待するレベルの運転性能を達成する前に、減価償却される可能性があります。
本修正は、企業に対し、企業の通常の活動のアウトプットでない生産項目に関連する収入および費用の額を区分して開示することを要求しています。また企業は、その収入が含まれる包括利益計算書の勘定科目を開示しなければなりません。
本修正は、有形固定資産を意図した使用のために必要な場所および状態に置く一環として生産および販売を行っている企業、また、経営者がこれまで、資産が使用可能かどうかの評価において、資産の運転性能を考慮していた企業(例えば、鉱業の企業)に重要な影響を与える可能性があります。経営者は、販売した項目のコストを追跡するプロセスやこれまでより早い段階で意図した方法で使用可能であるとして資産を会計処理するプロセスを導入する必要があるかもしれません。
IAS第37号「引当金、偶発負債及び偶発資産」の修正 「不利な契約-契約履行のコスト」
IAS第37号では、「不利な契約とは、契約による義務を履行するための不可避的なコストが、当該契約により受け取ると見込まれる経済的便益を上回る契約」と定義されています。不可避的なコストとは、契約から解放されるための最小の正味コストを反映するもので、それは契約履行のためのコストと契約不履行により発生する補償または違約金のいずれか低い方です。本修正は、「契約履行のコスト」の意味を明確にしています。
本修正は、契約履行の直接コストは以下で構成されると説明しています。
- 契約履行の増分コスト(例えば、直接労務費や直接原材料費)
- 契約履行に直接関連するその他のコストの配賦(例えば、契約の履行に使用される有形固定資産に係る減価償却費の配賦)。
また、本修正は、不利な契約に対する別個の引当金を設定する前に、企業は、当該契約に専用の資産のみではなく、契約履行に使用されたすべての資産に関して発生した減損を認識することを明確にしています。
これまで一部の企業は契約履行のためのコストに増分コストのみを含めていたことから、本修正により、認識する不利な契約の引当金が増える可能性があります。
IFRS第3号「企業結合」の修正 「概念フレームワークへの参照」
IASBは、企業結合において資産または負債を構成するものを決定するために2018年の「財務報告に関する概念フレームワーク」を参照するよう、IFRS第3号「企業結合」を更新しました。修正前のIFRS第3号は、2001年の財務報告に関する概念フレームワークを参照していました。
さらに、IASBは、負債および偶発負債についてIFRS第3号に新しい例外規定を追加しました。この例外規定は、IFRS第3号を適用する企業は、一部の負債および偶発負債について、2018年の概念フレームワークではなくIAS第37号「引当金、偶発負債及び偶発資産」またはIFRIC第21号「賦課金」を参照すべきであると明記しています。この新しい例外規定がなければ、企業は、IAS第37号の下では認識されない一部の負債を企業結合において認識していたことになります。そのため、企業は、取得直後にこのような負債の認識を中止し、経済的な利得を描写しない利得を認識しなければなりませんでした。
また、IASBは、取得企業は、IAS第37号で定義されているとおり、取得日に偶発資産を認識すべきでないことを明確にしました。
IFRS基準の年次改善2018-2020年
- 金融負債の認識の中止に関する10%テストに含まれる手数料
IFRS第9号の修正は、金融負債の認識の中止に関する10%テストにどのような手数料を含めるべきかに対処しています。費用または手数料は、第三者または貸手のいずれかに支払われる可能性があります。本修正により、第三者に支払われる費用または手数料は10%テストに含まれません。
IASBは、IFRS第16号に付属する設例13を修正し、賃借設備改良に関しての貸手からの支払の例示を削除しました。修正の理由は、リース・インセンティブの取扱いに関する混乱の可能性を取り除くためです。
IFRS第1号には、子会社が親会社よりも後にIFRSを適用する場合の免除規定があります。子会社は、親会社 のIFRS移行日に基づいて、連結手続および親会社が子会社を取得した企業結合の影響について何も調整が行われなかったとした場合に、親会社の連結財務諸表に含まれていたであろう帳簿価額で資産および負債を測定することができます。
IASBは、このIFRS第1号の免除規定を適用した企業が、換算差額累計額についても、親会社のIFRS移行日に基づき、親会社によって報告された金額を用いて測定することを認めるようにIFRS第1号を修正しました。IFRS第1号の修正では、初度適用企業のコストを削減するために、上記の免除規定を換算差額累計額まで拡大しています。この修正は、IFRS第1号の同じ免除規定を適用する関連会社および共同支配企業にも適用されます。
IASBは、IAS第41号「農業」を適用して公正価値を測定する際に企業は課税のキャッシュ・フローを除外するという要求事項を削除しました。この修正は、税引後ベースでキャッシュ・フローを割引くというIAS第41号における要求事項と整合させることを意図したものです。
適用日
すべての修正は、2022年1月1日に発効し、早期適用が認められます。経過措置は以下のとおりです。
IAS第16号 | 遡及的に適用されますが、企業が本修正を最初に適用する財務諸表に表示する最も古い期間の期首以後に、経営者が意図した方法で稼働可能にするために必要な場所および状態に置かれた有形固定資産項目にのみ適用されます。企業は、本修正の適用開始の累積的影響を、表示する最も古い期間の期首に、利益剰余金(または、適切な場合は、資本のその他の内訳項目)の期首残高に対する修正として認識しなければなりません。 |
IAS第37号 | 企業は、本修正を適用開始する年次報告期間の期首時点において義務のすべてをまだ履行していない契約に対して本修正を適用する必要があります。企業は、比較情報を修正再表示すべきではありません。企業は、本修正を初度適用したことによる累積的影響を、適用開始時の利益剰余金またはその他の資本の構成要素の期首残高に対する調整として認識しなければなりません。 |
IFRS第3号 | 取得日が2022年1月1日以後に開始する最初の年次報告期間の期首以後である企業結合に適用されます。 |
IFRS第9号 | 企業が本修正を最初に適用する年次報告期間の期首以後に条件変更または交換が行われる金融負債に適用されます。 |
IAS第41号 | 2022年1月1日以後に開始する最初の年次報告期間の期首以後の公正価値測定に適用されます。 |