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要点
- 2021年10月、130か国以上が、(グローバルの年間連結収入が7億5千万ユーロ以上の)多国籍企業に対するミニマム税制の実施に合意しました。
- 第2の柱は、適用対象となる多国籍企業が15%の最低法人実効税率の税金を支払うことを確実にすることを目指しています。
- 経済協力開発機構(OECD)は、2021年12月に「モデルルール」を公表し、第2の柱の適用に関する重要な情報を提供しました。
- 本モデルルールは、各国のアプローチに基づいて国内法として成立させることになっていますが、OECDは2023年の導入を推奨しており、現在、一部の国では2023年における本ルールの採択が見込まれています。
- 本ルールの適用と適用による影響の決定は非常に複雑となる可能性が高く、実務上、多くの課題を生じさせています。
- 企業は、本ルールの発効に先立ち、開示に及ぼす影響を検討する必要が生じるでしょう。
論点
2021年10月、130か国以上が多国籍企業に対するミニマム課税制度の「第2の柱」の実施に合意しました。2021年12月、OECDは、国際的な法人課税を改革するための「第2の柱」のモデルルール(グローバル税源浸食防止案、いわゆる「GloBE」)を公表しました。本モデルルール適用の範囲に含まれる大規模多国籍企業は、事業を営む国・地域法域ごとにGloBE実効税率を計算することが要求されます。多国籍企業は、各国・地域のGloBE実効税率と15%のミニマム税率との差異について、トップアップ税を支払う義務が生じることになります。その国・地域におけるGloBEトップアップ税の一次的な支払義務は多国籍企業の最終的な親会社が負担します。
これは、各国が企業誘致のために競って法人税率を引き下げ、他の国がそれに対抗するために減税を強いられるような影響を及ぼしている、世界各国の法人税率引き下げ競争の終結を目標としたものです。
GloBEに基づいて計算されるトップアップ税は、超過支払の原因となる低課税地域においてではなく、多国籍企業グループの親会社の所在する国・地域において支払われなければなりません。そのため、第2の柱のルールでは、各国・地域が「課税漏れ」回避のためにGloBEメカニズムに基づく独自の国内ミニマムトップアップ税を導入する可能性をもたらします。GloBE実効税率が現地で15%以上の場合、GloBEトップアップ税は支払われません。
したがって、一部の国は、GloBEルールの発効を見越して国内の税制改革に取り組む可能性があります。新たな現地のミニマム課税制度がGloBEトップアップ税の削減または除去を目的とするものであっても、依然としてGloBEの下での追加的なトップアップ税を支払わなければならない可能性もあります。これは、第2の柱の規定する具体的なルールに従った、現地の実効税率の計算結果によって異なってきます。
第2の柱のルールは、OECDによって合意されたとおり、共通アプローチの一部として実施され、2023年から各国内法に導入されることが意図されています。しかし、各国・地域は、本ルール(の国内法導入)が成立するかどうか、また、いつ成立するかを判断する必要が生じるでしょう。例えば、現在、EUは、2023年12月31日以後に開始する会計期間に適用される発効日を設定して、2023年にEU加盟国で本ルールを実施する計画を有しています。
本ルールの適用と適用による影響の決定は非常に複雑となる可能性が高く、多くの実務上の課題を生じさせています。さらに、国際会計基準(IAS)第12号に基づくトップアップ課税の会計処理方法は明確になっていません。(GloBEと国内のミニマム課税のいずれかにかかわらず)トップアップ税を支払わなければならない企業は、このような追加的な税金が、繰延税金資産や繰延税金負債の認識および測定に影響を与えるかどうかを検討する必要があります。
また、企業は、第2の柱のルールが、開示に及ぼす影響を検討する必要もあるでしょう。開示要求事項は、税率または税法の改正が、財務諸表の発行前に公表または制定されているかによって異なることになります。
「公表(announcement)」という用語はIFRSによって定義されていないため、報告企業は、税率または税法の改正がそのテリトリーで発表されたかどうかを決定するために、判断を適用する必要が生じるでしょう。判断を行う際に検討すべき要素には、以下が含まれる可能性があります。
- この税制改正案の特異性
- 公表後の税制改正案に対する変更の過去の実績
- 特定のテリトリーにおける立法プロセス
第2の柱のルールの複雑性により、PwCは、一部の企業では税法公表後の影響の評価に時間がかかると見込んでいます。結果として、経営者は定量化することができず、詳細な影響を開示できない可能性があります。実際に、上述のとおり、IAS第12号に基づくトップアップ税の会計処理は明確になっていません。そのため、現段階では当期税金や繰延税金への影響を定量的に開示できる可能性は低いでしょう。しかし、企業は、例えば、事業の重要性のある部分が、本ルールの影響を受ける可能性の高い、相対的に低い税率の国・地域で営まれている場合には、定性的な情報を提供できる可能性があります。
企業が本ルールの影響の評価中である場合には、その影響について表明することが要求されます。経営者は、第2の柱は重要性のある影響を及ぼさないと表明した場合にはその裏付けが可能である必要が生じるでしょう。
財務諸表の発行の承認前の時点で、現地の国・地域では法改正の公表または制定が行われていない場合、企業は、第2の柱の予想される影響の開示を検討する可能性があります[
IAS第1号第17項(c)]。実際に、OECDによる第2の柱モデルルールの公表後、現地での公表以前に、将来のグループ課税に重要性のある影響が及ぶ可能性の高い企業の一部では、すでに開示を行っています。以下は、現在までにPwCが見てきた開示例の1つです。
「2021年12月、OECDが新たなグローバルミニマム課税の枠組みのモデルルールを公表し、英国はこの枠組みを2023年から実施する意向を表明しています。包括的な枠組みが公表されていますが、当社はその影響の全容を評価するため、法律制定と詳細なガイダンスを待ち構えている状況です。」
実質的な法律制定後の報告日について、企業は、第2の柱が繰延税金資産および繰延税金負債の認識および測定に及ぼす影響を会計処理する必要が生じるでしょう[
IAS第12号第47項]。繰延税金の会計処理に関する詳しいガイダンスはいずれ公表されるでしょう。
第2の柱のルールの現金課税が継続企業の前提に及ぼす影響は、現地の法律の実質的な制定時ではなく、公表時に評価に反映しなければなりません。これは、継続企業の前提の評価は、すべての「予想される」将来のキャッシュ・アウトフローを含み、将来に関するすべての入手可能な情報を検討するためです[
IAS第1号第26項]。
誰にどのような影響があるか
現段階において、影響とは、通常は、開示の問題となります。
第2の柱のルールは、過去4年間のうち少なくとも2年にわたり連結収入が7億5千万ユーロ以上の多国籍企業に適用されます。以下の事業体は除外されており、ルール適用の対象となりません。
- 政府機関
- 国際機関
- 非営利団体
- 多国籍企業グループの最終的な親会社である年金基金または投資ファンド(および、当該事業体の特定の保有ビークル)
しかし、この除外規定は、このような事業体が所有する多国籍企業グループには影響を与えません。グループ全体で連結収入についての閾値を満たす場合には、当該グループはルールの適用範囲に含まれることになります。
適用日
どのような開示が要求または推奨されるかは、企業が事業を営むテリトリーにおいて、第2の柱のルールが公表または制定されたかどうかによって異なります。
財務諸表の発行日時点で法律の公表または制定が行われていない場合、企業は、信頼性と目的適合性のある範囲において、予想される将来の影響について重要性のある開示の提供を検討する可能性があります[
IAS第1号第17項(c)]。
報告期間の末日までに法律が制定または実質的に制定されている場合、企業は、追加のトップアップ税が繰延税金資産および繰延税金負債の認識および測定に及ぼす影響(ある場合)を会計処理する必要が生じるでしょう[
IAS第12号第47項]。