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要点
米国証券取引委員会(SEC)、公開企業会計監視委員会(PCAOB)、米国財務会計基準審議会(FASB)、国際会計基準審議会(IASB)およびその他の市場参加者の代表が、今週開催された「SECおよびPCAOBの最新動向に関する2022年度米国公認会計士協会(AICPA)および英国勅許管理会計士協会(CIMA)カンファレンス」に参加しました。発表者は、会計および報告、監査、規制に関するさまざまなホットトピックについて意見を述べました。本資料は、カンファレンスのハイライトを提供します。

最新の動向
「SECおよびPCAOBの最新動向に関する2022年度AICPAおよびCIMAカンファレンス」(本カンファレンス)が12月12日から14日にかけて開催されました。特に、不確実な時代や特殊な取引を行う際の、投資家とのコミュニケーションや品質向上は本カンファレンス全体を通じての共通のテーマでした。
発表者は、財務報告は単なる法令遵守の実践ではなく、コミュニケーションツールであると述べました。財務諸表における判断や見積りに対する不確実性の影響を含む透明性の必要性について、さまざまな発表者が同様の意見を述べました。気候関連開示やサイバーセキュリティに関するSECの提案が複数の参加者によって議論されましたが、公表時期の見込みや当該提案と最終規則の間の変更の可能性についてのアップデートはありませんでした。
品質の向上について、発表者は、厳しい経済環境を考慮すると、財務諸表の作成者、監査人、監査委員会メンバーを含む財務報告のエコシステムは、投資家の意思決定に有用な情報を提供するために、より大きな責任を負っていると強調しました。これには、不正リスクの高まりについての考慮も含まれる可能性があります。
本カンファレンスにおけるその他のトピックとして、複数の参加者が、暗号資産、非GAAP測定値、監査人の独立性、会計専門家の人材確保などのテーマを取り上げました。
会計および報告に関する事項
SECの代表者は、会計および報告に関する以下のトピックについて議論しました。
  • 地政学的環境とマクロ経済状況-SEC主任会計官室(OCA)のPaul Munter主任会計官代理とOCAのスタッフは、この厳しい経済環境を踏まえ、透明性の必要性が高まっていると強調しました。これには、変化や不確実性が財務報告の作成に用いられる仮定や見積りにどのような影響を与えるか、そして、重要性のある事象および不確実性が過去の財務情報の予測値にどの程度の影響を与えるかについての説得力のある開示が含まれます。Munter氏は、証券監督者国際機構(IOSCO)の最近の「経済的不確実性下における財務報告・開示に関する声明」に言及しました。また本カンファレンス全体を通じて、スタッフは、暗号資産市場やロシア政府によるウクライナ侵攻の動向の影響に関するガイダンスなど、SEC企業財務部(Corp Fin)が発行したサンプルレターや開示に関するガイダンスにも言及しました。現在の環境における会計上の検討事項に関する詳細な情報については、PwC米国のIn depth 2022-05 「FAQ on accounting in uncertain economic times」 (英語のみ)をご参照ください。
  • 分解-Munter氏は、財務情報の追加の分解を要請する投資家からのフィードバックについて説明し、FASBのさまざまなプロジェクトでも同様のフィードバックに取り組んでいると述べました。同氏は、費用の追加的な分解、直接法によるキャッシュ・フロー情報(例えば、顧客から回収した現金、従業員に支払った現金、仕入先に支払った現金、原材料に支払った現金)、および事業セグメントの集約を選択しないセグメント情報など、投資家の意思決定に有用な追加情報を任意で提供することを企業に奨励しました。
  • 暗号資産-本カンファレンスの複数のセッションでは、暗号資産取引の特異性および当該取引に関連するリスクや不確実性を強調した議論が行われました。
    暗号資産取引の会計処理
    OCAのスタッフは、SEC登録企業と議論した取引として、暗号資産の保全と暗号資産の貸付という2種類の暗号資産取引を紹介しました。暗号資産の保全に関して、スタッフは、2022年3月に公表されたSEC職員会計公報第121号(SAB121)で示されたガイダンスを示しました。詳細については、PwC米国のIn depth 「SEC職員会計公報第121号(SAB121)および暗号資産の保全に関する考え方」(和訳はこちら)をご参照ください。
    暗号資産の貸付について、OCAのスタッフは、基本的な暗号資産の貸付取引の例、および関連する会計処理と開示に関するスタッフの見解について説明しました。この例では、貸手は手数料を得るために暗号資産を貸し付け、借手は売却や担保差し入れを含めて自己のみの裁量で暗号資産を使用する能力を有しています。貸手は、借手から返還されるまで暗号資産の経済的便益を有していないため、貸し付けた暗号資産の認識を中止し、暗号資産を受け取る権利を反映した資産を認識する必要があります。当該資産は、取引開始時およびその後において損益計算書を通じて貸し付けた暗号資産の公正価値で測定され、その結果、初日(Day One)に利得または損失が生じる可能性があります。この利得または損失は、収益ではなくその他の利得または損失として表示しなければなりません。さらに、貸手は借手の信用リスクに晒されているため、貸手は、会計基準コード化体系(ASC)326「信用損失」の原則を用いて信用損失引当金を認識する必要があります。また、関連する開示として、当該契約に関連する主要な条件およびリスクに関する情報を提供しなければなりません。これには、提供された担保の条件、借手が債務不履行に陥った場合の権利、貸手による信用リスクの監視方法が含まれます。また、該当する場合、信用リスクの集中および関連当事者取引についても開示する必要があります。
    その他の暗号資産に関するトピック
    • イニシャル・コイン・オファリング-SEC企業財務部(Corp Fin)主任会計官のLinsday McCord氏は、イニシャル・コイン・オファリングにおける暗号資産の会計処理についての見解を共有し、企業は、保有者の権利および発行者の義務(黙示的である可能性がある)を含め、契約の条件のすべてを考慮した包括的な会計分析を行うべきであると指摘しました。
    • 開示-Corp Finのスタッフは、暗号資産市場の動向に関連してスタッフが発行すると予想されるコメントを扱った、最近公表されたサンプルレターについて言及しました。
    • 監査リスク-OCAのスタッフは、(1)経営者または監査人に専門的なスキルが必要かどうか、(2)資産の不正流用の可能性、(3)経営者による内部統制の無効化の可能性、(4)第三者である受託会社の役割、(5)関連当事者取引についての検討を含む、暗号資産取引に存在する監査リスクについて発言しました。
    • 規制-SECコミッショナーのHester Peirce氏は、発言の中で、暗号資産に関連した将来の規制を期待していると述べました。彼女の見解は、規制は、市場参入に対する障壁を作らずに規制の実効性と均衡を保つ必要があるというものです。
  • 気候関連会計-OCAのスタッフは、発行企業には現在、財務諸表内外の両方で気候関連の財務リスクを考慮する責任があると指摘しました。ESGの影響を受ける主要な会計領域のいくつかは、FASBスタッフの2021年度教育文書の中で示されています。ESG報告に関するより詳しい議論は、本資料の「ESG報告」のセクションをご参照ください。
SECの報告
Corp Fin の担当者は、財務諸表レビューの焦点領域と最近のSECの規則制定を取り上げました。
  • 非GAAP財務指標-SECスタッフは、非GAAP財務指標に関連する法令遵守および開示に関する解釈指針(C&DI)を更新したことを発表しました。McCord氏は、この更新の目的について、パブリックステートメントやコメントレターを通じて示している現在のスタッフの見解を記録に残すことを意図していると述べています。この更新では、主に、「通常かつ反復的な」営業費用に関するガイダンス、非GAAP財務指標の表示や調整、および会計原則を調整して示される指標など、何が「誤解を招く」とみなされるかについてのさらなるガイダンスを提供することに重点が置かれています。また、McCord氏は、誤解を招くことを理由にスタッフが非GAAP財務指標に異議を唱えた場合、次回のファイリングや開示の際にそれらを削除する必要があると指摘しました。すなわち、誤解を招くような非GAAP財務指標には移行期間は存在しないことになります。
  • 経営者による説明と分析(MD&A)の開示-複数の発表者が、MD&Aの開示は、地政学的環境やマクロ経済状況から生じる傾向および不確実性を取り上げるべきであり、その開示の内容は企業への影響の変化に応じて、時の経過とともに進化するはずであると述べました。McCord氏は、異なる要因による影響は、投資家が企業の事業により大きく影響を与える問題を特定できるように、個別に検討すべきであり、企業は変化を引き起こした、または変化に寄与したそれぞれの重要性のある要因を定量化すべきである、と指摘しました。
  • 重要な会計上の見積り-重要な会計上の見積り(CAE)の開示は、特に現在のマクロ経済環境において、見積りの不確実性、およびCAEが財政状態や経営成績に及ぼした、あるいは及ぼす可能性のある影響を理解するための定性的および定量的な情報を提供することにより投資家に情報を提供するという目標に基づいています。McCord氏は、この開示では、CAEとしてそれを特定するだけでなく、見積りがなぜ重要なのかの理由を明確に説明することを期待していると述べました。また、彼女は、潜在的な影響の発生可能性が高まったり影響の規模が増大した場合、感応度分析を含め、分析と関連する開示がより強固になるべきであると述べました。
  • クローバック規則-スタッフは、誤って付与された経営幹部に対するインセンティブ報酬の返還に関する新たな規則について説明し、当該規則は、会計基準の遡及適用またはさらなる区分表示を行う場合を除き、修正再表示(restatement)または修正(revision)(重要性のない任意の修正を含む)によって過年度の財務諸表の金額を調整する場合、特定のSEC提出書類の表紙にその旨を記載することを要求していることを強調しました。しかし、スタッフは、修正再表示が要求されない場合(すなわち、すべての報告期間にとって重要性のない誤謬についての任意の修正の場合)、クローバック規則に基づく返還の分析は要求されないことを明確にしました。詳細については、PwC米国のIn depth「SECが経営幹部に対するインセンティブ報酬のクローバック規則を採択」(英語のみ)をご参照ください。
  • 業績連動役員報酬に関する規則(Pay versus performance rules)-スタッフは、委任状の説明書における役員報酬に関する追加開示を要求する新たな規則について説明しました。McCord氏は、この公正価値の決定は通常、ASC718「株式報酬」の原則に基づいて行うべきであると指摘しつつ、「実際に支払われた報酬」を算定するために株式に基づく報酬の公正価値の継続的な再測定を要求していることを取り上げました。また、役員報酬の開示のための公正価値測定で使用した仮定と、財務諸表目的の付与日の公正価値測定で使用した仮定とを比較して重要性のある差異を開示することが要求されると強調しました。詳しい情報については、PwC米国のIn brief「SECが業績連動役員報酬に関する開示規則を採択」(英語のみ)をご参照ください。
  • セグメント-スタッフは、事業セグメントの特定は、事後の会計処理および報告上の結論に広範囲に影響を与える決定であると、SEC登録企業に注意喚起しました。同スタッフは、SECは決算発表資料、電話などでの決算発表会見、ウェブサイトなど、SEC提出書類以外の情報を考慮するなど、包括的にセグメントをレビューしていることに言及しました。また、スタッフは、単一の事業セグメントを有しているという登録企業の決定にSECが異議を唱えた際の事実パターンの例を示しました。
ESG報告
本カンファレンスでは、複数の発表者がESG報告を取り上げており、その視点はそれぞれの役割に応じて異なりました。
  • SECコミッショナーのPeirce氏は、SECの気候関連開示の規則案、および財務上の重要性だけでなく企業の行動が外部に及ぼす影響(すなわち、「ダブルマテリアリティ」の概念)にも焦点を当てたグローバルの要求事項を組み入れる可能性について懸念を表明しました。
  • 作成者と保証業務提供者のパネルディスカッションでは、ESG情報の提供およびSECの最終規則やその他のグローバルの要求事項に対する準備のためのベストプラクティスが共有されました。
  • 投資家は、ESG情報をどのように利用しているかについての知見を共有し、情報の比較可能性と信頼性を段階的に向上させる取組みに支持を表明しました。彼らは、例えば、GHG排出量に関する最新の情報とともに、脱炭素化のコストに関する情報に関心を示しました。
  • Corp Finのスタッフは、SECの2010年の解釈指針およびSECスタッフが気候変動に関連する開示に関して発行する可能性のあるコメントの例を示す2021年9月のサンプルレターを参照しつつ、気候変動に関連する開示を提供するための既存の要求事項を取り上げました。詳細については、PwC米国のIn the loop「SECスタッフから気候変更に関する質問を受ける前にできること」(英語のみ)をご参照ください。
CAQは、2022年6月時点におけるS&P500企業のForm10-K提出書類の気候関連開示のレビューを共有しました。その結果、S&P500企業の大多数がForm 10-Kにおいて気候関連の情報に言及している一方、スコープ1、スコープ2、スコープ3のGHG排出、状況、目的、目標を開示している企業は104社にとどまっていることがわかりました。
SECおよびグローバルの提案の詳細については、PwC米国In the loop「ESG状況を読み解く」(英語のみ)、最終規則の公表前の準備に関する詳細については、PwC米国In the loop「ESG報告:明日のESG開示規則のために今日準備すること」(和訳はこちら)をご一読ください。
サイバーセキュリティ
サイバーセキュリティの専門家たちは、この主要な論点の透明性について発言し、開示は、企業がサイバー攻撃への対応にどのように備えているかを投資家が理解できるようにすべきだと述べ、適切な情報開示と弱点を強調するような過度の情報開示は紙一重であるという認識を示しました。SECは、問題が発生した場合に適時かつ正確な開示が要求されることを明確にしています。SECがこれを重視していることは、最近の法執行措置とサイバーセキュリティに関する開示強化のために最近提案された規則により示されています。SECのサイバーセキュリティに関する提案の詳細については、PwC米国のIn brief「SECがサイバーセキュリティに関する新たな開示要求事項を提案」(和訳はこちら)をご参照ください。
FASBとIASBの基準設定に関するアップデート
透明性というテーマと整合して、Munter氏とOCAのスタッフは、FASBが最近実施した損益計算書の区分表示およびセグメントや法人所得税の開示を強化するプロジェクトを含む、いくつかのプロジェクトでの透明性を高めるための取り組みを評価しました。
IASB議長のAndreas Barckow氏を含む何人かの発表者が、FASBとIASBの両審議会が情報を共有し意見交換を図る方法など、グローバルと米国の会計基準間のコンバージェンスについて議論しました。Munter氏は、このコンバージェンスは現在、基準設定の優先事項ではないと述べましたが、サプライヤーファインナンスの開示プロジェクトなどの最近の基準設定の取り組みによって同様のガイダンスがもたらされたとコメントしました。
FASB議長のRich Jones氏、FASBテクニカルディレクターのHillary Salo氏は、投資家とのアウトリーチを含むFASBのアウトリーチ活動やFASBのテクニカルアジェンダへの影響について説明しました。FASBのアジェンダには、FASBの2021年アジェンダ協議の後に追加された、いくつかの新規プロジェクトが含まれています。特に、FASBは、2023年上半期にパブリックコメント募集のため、法人所得税の開示、区分表示-損益計算書の費用、および暗号資産の会計処理に関する公開草案を公表する予定であると述べました。
SECのエンフォースメントのアップデート
SECの法務執行部の代表者は、過去1年間にSECが提起した事案から生じたテーマについて発言しました。法務執行部は、緊迫感をもって投資家保護に取り組むこと、違法行為者に説明責任を負わせること、そして金融市場における将来の違法行為を抑止することを強調しました。
PCAOBのアップデート
本カンファレンスのパネルディスカッションでは、年初に新たに就任したボードメンバー全員が参加し、PCAOBの戦略計画と基準設定活動について議論されました。また、複数のセッションにおいてPCAOBの代表者は、2021年に検査した監査の不備が増加したことを示すスタッフのSpotlightを指摘し、監査の品質に引き続き重点を置くよう求めました。さらに、PCAOBは、現在、中国と香港のスタッフによって実施されたテストを評価していると述べました。本カンファレンスの翌日、PCAOBは声明を公表し、中国本土と香港に本社を置く公認会計士事務所を検査および調査する完全なアクセスを確保したことを発表しました。
なぜ重要か
本カンファレンスは、規制当局や基準設定主体がその活動を取り上げて、その重点領域を伝えるひとつの機会となっています。企業は、間近に迫っている期末また四半期の財務諸表を作成する際に、これらのテーマを考慮する必要があります。
次のステップ
このカンファレンスのハイライトをお伝えするポッドキャストが、viewpoint.pwc.comあるいはご利用されているポッドキャストでご視聴いただけます。
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