概要
2024年4月12日、上海証券取引所(SSE)、深圳証券取引所(SZSE)および北京証券取引所(BSE)は、それぞれ、「上場企業自主規制ガイドライン-サステナビリティ報告(試案)」(以下「ガイドライン」という)を公表しました。本ガイドラインは、2024年5月1日より発効し、2025年12月31日に終了する事業年度に適用されます。2024年12月31日に終了する事業年度については早期適用が推奨されています。
どのような企業が適用範囲に含まれるか
本ガイドラインの報告義務の範囲に含まれる企業は、公開草案で提案された企業と同じです(表1)。合計で約450社が範囲に含まれることになります。範囲に含まれないその他の上場企業には、任意開示が推奨されています。
表1:開示の範囲
SSE | 上場企業の自主規制に関する上海証券取引所ガイドライン No.14-サステナビリティ報告(試案)」 | SSE180指数またはSTAR50指数を構成する企業、または中国本土と海外の市場に同時に上場している企業に対して開示を義務付ける |
SZSE | 深圳証券取引所の上場企業のための自主規制ガイドライン No.17-サステナビリティ報告(試行的適用) | SZSE100指数またはChiNext指数を構成する企業、または中国本土と海外の市場に同時に上場している企業に対して開示を義務付ける |
BSE | 北京証券取引所の上場企業のための継続的監視ガイドライン No.11-サステナビリティ報告(試行的適用) | 上場企業の任意開示を推奨する1 |
新たに公表されたガイドラインのハイライト
ダブルマテリアリティ
本ガイドラインは、ダブルマテリアリティの原則を採用しています。第1章「総則」では、ガイドラインの各トピックが、財務的マテリアリティ(financial materiality)および(または)インパクトマテリアリティ(impact materiality)のいずれを有しているかを判断することが企業に求められています。本ガイドラインでは、財務的マテリアリティは発生の可能性および企業に対するインパクトの程度に焦点を当て、インパクトマテリアリティは企業の意思決定から生じるインパクトの規模、範囲および回復の不可能性に基づくことを明確にしています。また、どのようにマテリアリティ評価を行ったのかについても開示しなければなりません。本ガイドラインに明記されているトピックのうち、財務的マテリアリティもインパクトマテリアリティも有していないと企業が考えるトピックについては、その理由も開示しなければなりません。
財務的マテリアリティを有すると予想されるトピックは、4つの柱の開示フレームワーク(詳細については後述)に基づいて情報を開示しなければなりません。インパクトマテリアリティのみを有するトピックについて、企業は、本ガイドラインに含まれる特定の規定に従って開示しなければなりません。
その他の国際的な開示フレームワークまたは基準書で用いられるフレームワークと同様の4つの柱の開示フレームワークの使用
本ガイドラインの第2章は、開示フレームワークを定義しており、企業は、(1)ガバナンス、(2)戦略、(3)インパクト(影響)、リスクと機会の管理、(4)指標と目標という4つの柱に従って、財務的マテリアリティを有するトピックを分析および開示しなければならないと規定しています。企業は、サステナビリティ関連のリスクと機会が、自社のビジネスモデル、主な仕入先およびその他のステークホルダーに与える影響、また、これらのリスクと機会によって主に影響を受ける地理的な場所、施設または資産の種類を開示することが推奨されています。また、将来のインパクトに関する予測も開示しなければなりません。
トピックは様々なESGの側面にまたがる幅広い事項をカバー
本ガイドラインは、環境に関する8項目、社会に関する9項目、サステナビリティ関連のガバナンスに関する4項目を含む、合計21の環境・社会・ガバナンス(ESG)トピックを取り上げています(別表「ガイドラインのトピックの索引」を参照)。
別表:ガイドラインのトピックの索引
サステナビリティ関連のガバナンス | 18 | デューデリジェンス |
多くの社会的トピックには現代中国特有の要素が含まれる
本ガイドラインの社会的側面における多くのトピックは、「美しい中国」や「共栄」構想を含む、現代中国の主要な優先事項を示しています。第4章の「社会的開示」の各セクションでは、農村の活性化、イノベーション主導の開発、科学技術の倫理、仕入先、顧客から従業員に至るまでをカバーする開示要求事項が規定されています。
第三者の監査人または保証提供者に関する規定
企業が特定の情報を監査または保証するために第三者サービス提供者を雇用する場合、これらのサービス提供者は、独立性と専門性を証明しなければなりません。サービス提供者がこうした資質を示す要件を満たしているかどうかは、監査報告書や保証報告書に明確に記載しなければなりません。
報告のタイミングに関する要求事項と比較情報の開示免除
本ガイドラインは、2025年12月31日に終了する事業年度から適用されます。サステナビリティ報告書は、年度末から4か月以内、そして年次財務報告書と同時に公表することが義務付けられています。すなわち、本ガイドラインの適用対象となる上場企業は、2026年4月30日までに2025年度のサステナビリティ報告書を公表しなければなりません。ただし、企業が希望する場合、2024年度末に本ガイドラインを早期適用することは認められます。報告期間および連結の範囲(報告の境界)は、年次財務報告書と一致していなければなりません。
また、報告初年度に関連する指標の前年度からの変化を開示できない企業に対して、本ガイドラインは比較情報の開示の免除を提供しています。
本ガイドラインとIFRS S2号との間の気候関連の開示要求事項の重大な差異
本ガイドラインに含まれている気候関連の開示要求事項は、一部の差異はあるものの、国際サステナビリティ基準審議会(ISSB)のIFRS S2号「気候関連開示」(IFRS S2号)と非常によく似ています。ダブルマテリアリティを遵守するために、本ガイドラインでは「インパクト」分析が追加的に要求されています。本ガイドラインの第3章セクション1とIFRS S2号における気候関連の開示要求事項のその他の差異の概要は以下の表のとおりです。
気候レジリエンスの評価 | 任意の要求事項として含まれている(ただし、能力を有する企業には開示を奨励している)。 | 気候レジリエンス評価の実施と、それぞれの状況に見合った方法論(気候シナリオ分析を含む)の使用を明示的に要求している。 |
気候関連のリスクと機会の現在および予想される財務的影響 | 今期と翌期の報告期間の影響のみが強制的な要求事項である。定性的情報すら開示できない企業は、近い将来の開示実現に向けた行動計画を公表しなければならない。 短期、中期および長期的な時間軸での予想される影響の開示が推奨される。 | 強制的な要求事項(現在と、短期、中期および長期にわたる予想される影響)である。 |
スコープ1およびスコープ2排出量の開示が要求されるが、スコープ3排出量の開示は奨励されるのみ。 7種類のGHGが含まれる。開示は、地理的地域、排出源などに分類することができる。 | スコープ1、スコープ2、スコープ3の排出量の開示が要求され、スコープ3については一定の経過措置がある。商業銀行、保険会社および資産運用会社には、スコープ3に含まれる「カテゴリー15 投資」の開示が要求される。 7種類のGHGが含まれる。スコープ1およびスコープ2は、(1)連結会計グループ、(2)その他の投資先企業に区分する。 |
特定の測定方法を指定または参照していない。 | 法域の当局がその他の基準を要求していない限り、「温室効果ガスプロトコルの企業算定及び報告基準(2004 年)」の使用が要求される。 |
指標と目標 |
規制されたカーボン市場に参加し、カーボンクレジットを使用する企業は、以下を開示しなければならない。
- カーボンクレジットを使用する企業は、使用したカーボンクレジットの源泉と量を開示しなければならない。
- カーボン排出量取引に参加する企業は、報告期間内に、決済が完了したかどうか、および是正措置を講じるよう命じられたかどうか、または政府機関による正式な調査が行われているかどうかを開示しなければならない。
| 様々な気候関連指標が列挙されており、カーボンクレジットの使用者は以下を開示しなければならない。
- 気候関連の移行リスク—気候関連の移行リスクに対して脆弱な資産または事業活動の金額および割合
- 気候関連の物理的リスク—気候関連の物理的リスクに対して脆弱な資産または事業活動の金額と割合
- 気候関連の機会-気候関連の機会に整合する資産または事業活動の金額と割合
- 資本配分-気候関連のリスクと機会に投下された資本支出、ファイナンスまたは投資の額
- ネットGHG排出目標を達成するために、GHG排出をオフセットすることを目的としたカーボンクレジットの計画された使用
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1 革新的SMEsの開発ステージの性質を考慮