日本基準トピックス 第423号
主旨
- 日本経済団体連合会(以下、「経団連」という)は、2021年3月9日に「会社法施行規則及び会社計算規則による株式会社の各種書類のひな型(改訂版)」(以下、「本ひな型」という)を公表しています。
- 本ひな型は、「会社法の一部を改正する法律(令和元年法律第70号)」(以下、「改正会社法」という)の公布に伴う会社法施行規則および会社計算規則の改正、ならびに企業会計基準第30号「時価の算定に関する会計基準」(以下、「時価算定会計基準」という)、企業会計基準第29号「収益認識に関する会計基準」(以下、「収益認識会計基準」という)および企業会計基準第31号「会計上の見積りの開示に関する会計基準」(以下、「見積開示基準」という)等の公表に伴う会社計算規則の改正を受けて、所要の修正が行われています。
こちらの日本基準トピックスでは、計算書類および連結計算書類のひな型の修正を中心に解説します。事業報告のひな型の修正については、
日本基準トピックス第424号をご参照ください。
・原文については、
経団連のウェブサイトをご覧ください。
経緯
経団連は、2007年2月9日に、会社法施行を契機に旧商法の下でのいわゆる「経団連ひな型」を全面的に刷新した「会社法施行規則及び会社計算規則による株式会社の各種書類のひな型」を公表しました。その後も、規則等の改正にあわせて、随時、改訂されています。
今般、改正会社法の公布に伴い会社法施行規則および会社計算規則が改正されたこと、また、時価算定会計基準、収益認識会計基準、見積開示基準等の公表に伴い会社計算規則が改正されたことから、所要の修正が行われました。
なお、本ひな型は、経済界全体としての統一的なフォームを定めたものではないとされています。したがって、各企業においては、それぞれの事情に応じて、本ひな型を参考資料のひとつとして活用し、創意工夫を凝らした適切な開示により株主・債権者等への説明責任を果たし、もって企業価値向上に繋げることが期待されています。
本ひな型における主な修正
1.計算書類および連結計算書類の本表
計算書類および連結計算書類の本表については、主に以下の修正がなされています。
・「契約資産」、「契約負債」の表示科目の追加
収益認識会計基準の公表に伴う会社計算規則の改正により、本ひな型の貸借対照表および連結貸借対照表では「契約資産」および「契約負債」の表示科目が追加されています。これに関して記載上の注意では、原則と して、契約資産、契約負債、または顧客との契約から生じた債権を適切な科目を用いて貸借対照表に表示すること、また区分して表示しない場合は各科目の残高を注記することが示されています(会社計算規則第3条、第116条)。
一方、本ひな型の損益計算書および連結損益計算書では、特段の科目は追加されていませんが、記載上の注意では、顧客との契約から生じる収益は、適切な科目をもって損益計算書に表示すること、また、原則として、それ以外の収益と区分して損益計算書に表示するか、区分して表示しない場合には顧客との契約から生じる収益の額を注記することが示されています(会社計算規則第3条、第88条第1項第1号、第116条)。
・「株式引受権」の表示科目の追加
改正会社法の公布に伴う会社計算規則の改正により、本ひな型の貸借対照表および連結貸借対照表では、純資産の部に「株式引受権」の科目が追加されています。これに伴い、株主資本等変動計算書および連結株主資本等変動計算書においても「株式引受権」の科目が追加されています(会社計算規則第76条第1項第1号ハおよび第2号ハ、第96条第2項第1号ハおよび第2号ハ)。
・繰延税金資産・負債の表示区分の修正
企業会計基準第28号「税効果会計に係る会計基準」(以下、「税効果会計基準」という)の改正に伴う会社計算規則の改正により、本ひな型の貸借対照表および連結貸借対照表では、繰延税金資産は「投資その他の資産」として、繰延税金負債は「固定負債」として区分して表示されています(会社計算規則第74条第3項第4号ホ、第75条第2項第2号ホ、および第83条)。
2.個別注記表および連結注記表
個別注記表および連結注記表については、主に以下の修正がなされています。
(1)「重要な会計方針に係る事項に関する注記」、「連結計算書類の作成のための基本となる重要な事項に関する注記」の修正
・「収益及び費用の計上基準」の修正
・「その他計算書類作成のための基本となる重要な事項」、「その他連結計算書類作成のための基本となる重要な事項」の修正
(2)「収益認識に関する注記」の新設
(3)「会計上の見積りに関する注記」の新設
(4)「株主資本等変動計算書に関する注記」、「連結株主資本等変動計算書に関する注記」の修正
(5)「金融商品に関する注記」の修正
(6)「その他の注記」の修正
具体的な修正内容は以下のとおりです。
(1)「重要な会計方針に係る事項に関する注記」、「連結計算書類の作成のための基本となる重要な事項に関する注記」への修正
・「収益及び費用の計上基準」の記載例の修正
収益認識会計基準の公表に伴う会社計算規則の改正により、「収益及び費用の計上基準」には以下の事項を含むとされています(会社計算規則第101条第2項)。
(ア) 当該会社の主要な事業における顧客との契約に基づく主な義務の内容
(イ) (ア)に規定する義務に係る収益を認識する通常の時点
(ウ) (ア)及び(イ)のほか、当該会社が重要な会計方針に含まれると判断したもの
本ひな型では、上記(ア)の「顧客との契約に基づく主な義務の内容」および(イ)の「収益を認識する通常の時点」を含めた注記が記載例として示されています。
また、記載上の注意において以下の2点が示されています。
・上記(ウ)の「重要な会計方針に含まれると判断したもの」(例えば、取引価格に関する情報や履行義務への配分額の算定に関する情報)に関する記載例
・上記(イ)の「収益を認識する通常の時点」は、収益認識会計基準第80-2項(2)における「企業が当該履行義務を充足する通常の時点」と通常同じであると考えられるものの、例えば、企業会計基準適用指針第30号「収益認識に関する会計基準の適用指針」における代替的な取扱い(出荷基準等の取扱い)を適用した場合には両時点が異なる場合があり、その場合は重要な会計方針として「収益を認識する通常の時点」を注記すること(収益認識会計基準第163項)
・「その他計算書類作成のための基本となる重要な事項」、「その他連結計算書類作成のための基本となる重要な事項」の修正
企業会計基準第24号「会計方針の開示、会計上の変更及び誤謬の訂正に関する会計基準」(以下、「会計方針開示基準」という)の改正により、本ひな型の記載上の注意に「関連する会計基準等の定めが明らかでない場合」が追加されました。
具体的には、「関連する会計基準等の定めが明らかでない場合」に採用した会計処理の原則および手続について、当該採用した会計処理の原則および手続が計算書類または連結計算書類を理解するために重要であると考えられる場合には、会社計算規則第101条第1項第5号の「その他計算書類の作成のための基本となる重要な事項」または会社計算規則第102条第1項第5号ニの「その他連結計算書類の作成のための重要な事項」に該当し、その概要を注記する必要があるとしています。
(2)「収益認識に関する注記」の新設
収益認識会計基準の公表に伴う会社計算規則の改正により、「収益認識に関する注記」においては、重要性の乏しいものを除き、状況に応じて以下の事項を記載するとされています(会社計算規則第115条の2第1項)。ただし、連結計算書類の作成義務のある会社(会社法第444条第3項に規定する株式会社)以外の株式会社については、以下の(ア)および(ウ)の事項を省略することができます(会社計算規則第115条の2第1項)。
(ア) 当該事業年度に認識した収益を、収益及びキャッシュ・フローの性質、金額、時期及び不確実性に影響を及ぼす主要な要因に基づいて区分をした場合における当該区分ごとの収益の額その他の事項
(イ) 収益を理解するための基礎となる情報
(ウ) 当該事業年度及び翌事業年度以降の収益の金額を理解するための情報
当該改正に伴い本ひな型に「収益認識に関する注記」が新設され、上記(ア)の「主要な要因に基づいて区分をした場合における当該区分ごとの収益の額その他の事項」および(イ)の「収益を理解するための基礎となる情報」を含めた注記が記載例として示されています。
また、記載上の注意において以下の4点が示されています。
・上記(ウ)の「当事業年度及び翌事業年度以降の収益の金額を理解するための情報」に関する記載例
・会社計算規則の用語の解釈は一般に公正妥当と認められる企業会計の基準をしん酌しなければならないとされており(会社計算規則第3条)、収益認識に関する注記の要否およびその内容は収益認識会計基準で定める開示目的に照らして判断する。また、収益認識会計基準において具体的に規定された事項であっても、各社の実情を踏まえ、計算書類もしくは連結計算書類に注記を要しないと合理的に判断される場合には注記しないことも許容される(「会社計算規則の一部を改正する省令案」に関する意見募集の結果について 第3 意見の概要及び意見に対する当省の考え方)。
・「収益認識に関する注記」に掲げる事項が前述の「収益及び費用の計上基準」で注記すべき事項と同一である場合は、当該「収益認識に関する注記」の注記を省略することができる(会社計算規則第115条の2第2項)。
・連結計算書類を作成する株式会社は、個別注記表において上記(イ)の「収益を理解するための基礎となる情報」のみの記載とすることができる(会社計算規則第115条の2第3項)。また、当該事項について連結注記表と個別注記表で注記すべき事項が同一である場合は、個別注記表にその旨を記載し当該注記を省略することができる(会社計算規則第115条の2第4項)。
(3)「会計上の見積りに関する注記」の新設
見積開示基準の公表により、本ひな型に「会計上の見積りに関する注記」が追加されました。
本ひな型では、「会計上の見積りの内容に関する理解に資する情報」を注記しない場合の記載例と、「会計上の見積りの内容に関する理解に資する情報」を注記する場合の記載例が示されています。
また、記載上の注意において以下の3点が示されています。
・見積開示基準で要求される注記事項を参考に、各社の実情に応じて必要な記載を行う.(会社計算規則第102条の3の2第1項)。
・注記の要否およびその内容は見積開示基準で定める開示目的に照らして判断する。また、見積開示基準第8項において具体的に例示された事項であっても、各社の実情を踏まえ、計算書類もしくは連結計算書類に注記を要しないと合理的に判断される場合には注記しないことも許容される。
・会計上の見積りの内容に関する理解に資する情報が連結注記表に注記すべき事項と同一である場合において、個別注記表にその旨を注記するときでも、計算書類に計上した項目および計算書類に計上した額について記載する(会社計算規則第102条の3の2第2項)。
(4)「株主資本等変動計算書に関する注記」、「連結株主資本等変動計算に関する注記」の修正
改正会社法の公布に伴う会社計算規則の改正により、本ひな型の記載上の注意に「当該事業年度の末日における株式引受権に係る当該株式会社の株式の数(株式の種類ごと)」が注記項目として追加されました(会社計算規則第105条第4号および第106条第3号)。
(5)「金融商品に関する注記」の修正
時価算定会計基準および企業会計基準適用指針第31号「時価の算定に関する会計基準の適用指針」の公表に伴い、本ひな型の金融商品に関する注記の内容に「金融商品の時価のレベルごとの内訳等に関する事項」が追加されました。
本ひな型では、「金融商品の時価のレベルごとの内訳等に関する事項」を注記しない場合の記載例と、「金融商品の時価のレベルごとの内訳等に関する事項」を注記する場合の記載例が示されています。
また、記載上の注意において以下の3点が示されています。
・連結注記表を作成する株式会社は、個別注記表における注記を要しない(会社計算規則第109条第2項)。また、連結計算書類の作成義務のある会社以外の株式会社は「金融商品の時価の適切な区分ごとの内訳等に関する事項」の記載を省略できる(会社計算規則第109条第1項ただし書き)。
・会社計算規則で記載が求められる「金融商品の時価の適切な区分ごとの内訳等に関する事項」は、企業会計基準適用指針第19号「金融商品の時価等の開示に関する適用指針」(以下、「時価開示適用指針」という)の「金融商品の時価のレベルごとの内訳等に関する事項」と同義であるが、同水準の注記を求めているわけではなく、各社の実情に応じて必要な限度で開示できる。
・時価開示適用指針において注記を求められる事項であったとしても、各社の実情を踏まえ、連結計算書類において当該事項の注記を要しないと合理的に判断される場合には、連結計算書類において当該事項について注記しないことも許容される。
(6)「その他の注記」の修正
本ひな型では、新型コロナウイルス感染症の影響に関する記載例が追加されています。新型コロナウイルス感染症に関して、その他の注記(会社計算規則第116条)として記載するほか、会計上の見積りに関する注記(会社計算規則第102条の3の2)として記載することも考えられるとしています。
本ひな型の修正に関連する会社計算規則の改正に係る適用時期
1.株式引受権に関連する事項
改正会社法の施行の日(2021年3月1日)から適用されます。
2.会計方針および会計上の見積りに関連する事項
2021年3月31日以後に終了する事業年度に係る計算書類および連結計算書類について適用されます。ただし、2020年3月31日以後に終了する事業年度に係る計算書類および連結計算書類について適用することも認められます。
3.収益認識に関連する事項
2021年4月1日以後に開始する事業年度に係る計算書類および連結計算書類について適用されます。ただし、2020年4月1日以後に終了する事業年度に係る計算書類および連結計算書類について適用することも認められます。
4.金融商品に関連する事項
2021年4月1日以後に開始する事業年度に係る計算書類および連結計算書類について適用されます。ただし、2020年3月31日以後に終了する事業年度に係る計算書類および連結計算書類について適用することも認められます。
5.繰延税金資産・負債に関連する事項
2018年4月1日以後に開始する事業年度に係る計算書類および連結計算書類について適用されます。ただし、2018年3月31日以後に終了する事業年度に係る計算書類および連結計算書類について適用することも認められます。
(参考)
会社計算規則の改正内容については、下記をご参考ください。
- 会計方針開示基準、見積開示基準、収益認識会計基準に関連する改正: