日本基準トピックス 第426号
主旨
- 2021年3月26日、企業会計基準委員会(以下「ASBJ」とする)は、改正企業会計基準適用指針第30号「収益認識に関する会計基準の適用指針」(以下「改正適用指針」とする)を公表しました。
- ASBJは、我が国における収益認識に関する包括的な会計基準として、企業会計基準第29号「収益認識に関する会計基準」(以下「会計基準」とする)および企業会計基準適用指針第30号「収益認識に関する会計基準の適用指針」(以下「適用指針」とする)を2018年3月30日に公表し、2020年3月31日に改正しました。
- 会計基準では、会計基準における定めが明確であるものの、これに従った処理を行うことが実務上著しく困難な状況が市場関係者により識別され、その旨がASBJに提起された場合には、公開の審議により、別途の対応を図ることの要否をASBJにおいて判断することとされています。
- 当該別途の対応に関して、2020年8月17日に電気事業連合会より、また2020年10月16日に一般社団法人日本ガス協会より、決算月に実施した検針の日から決算日までに生じた収益を見積ることが実務的に困難であるとの理由で、検針日基準を認める代替的な取扱いを設けることについての要望がASBJに寄せられました。
- ASBJは、当該別途の対応について審議を行った結果、検針日基準を認めた場合、財務諸表間の比較可能性を大きく損なわせないとは認められないため、検針日基準は代替的な取扱いとして認められないとの結論に至りました。
- しかし、電気事業およびガス事業においては、決算月に実施した検針の日から決算日までに生じた収益を見積る際に、当該見積りの適切性を評価することが困難であるとの財務諸表作成者および監査人からの意見があったため、電気事業およびガス事業における収益認識について、代替的な取扱いとして特定の見積方法が認められることとなりました。
- 原文については、ASBJのウェブサイトをご覧ください。
経緯
ASBJは、わが国における収益認識に関する包括的な会計基準として、上記に示した会計基準および適用指針を2018年3月30日に公表し、2020年3月31日に改正しました。
会計基準では、「会計基準における定めが明確であるものの、これに従った処理を行うことが実務上著しく困難な状況が市場関係者により識別され、その旨がASBJに提起された場合には、公開の審議により、別途の対応を図ることの要否をASBJにおいて判断すること」とされています(会計基準第96項)。
ASBJは、当該「別途の対応」に関して2020年8月17日に電気事業連合会より、また2020年10月16日に一般社団法人日本ガス協会より、それぞれ提起を受け、電気事業およびガス事業における毎月の計量により確認した使用量に基づく収益認識について、別途の対応を図ることの要否等について審議を行ってきました。
ASBJは、審議に基づき、2020年12月25日に適用指針の改正を提案する公開草案を公表し、広くコメント募集を行った後、ASBJに寄せられたコメントを検討し、今般、改正適用指針を公表しました。
主な内容
改正適用指針の主な内容は、以下のとおりです。
電気事業連合会および一般社団法人日本ガス協会からの提起の内容
改正適用指針の公表時点においては、電気事業およびガス事業において、毎月、月末以外の日に実施する検針(分散検針)による顧客の使用量に基づき収益計上が行われる実務(いわゆる検針日基準)が見られるとされています。これについて、会計基準では、「企業は約束した財またはサービスを顧客に移転することにより履行義務を充足した時に、または充足するにつれて収益を認識する」こととされているため(会計基準第35項)、決算月に実施した検針の日から決算日までに生じた収益を見積ることが必要になります。しかし、電気事業およびガス事業から、この対応が実務的に困難であるとの理由により、検針日基準を認める代替的な取扱いを設けることについて要望が寄せられました(改正適用指針第176-2項)。
検針日基準を認める代替的な取扱いを設けなかった理由
適用指針では、これまで我が国で行われてきた実務等に配慮し、財務諸表間の比較可能性を大きく損なわせない範囲で、IFRS第15号「顧客との契約から生じる収益」における取扱いとは別に、個別項目に対する重要性の記載等の代替的な取扱いが定められています(適用指針第164項)。
ASBJは、審議の結果、検針日基準による収益認識を認めた場合、財務諸表間の比較可能性を大きく損なわせないとは認められないと判断し、会計基準の定めどおり、決算月に実施した検針の日から決算日までに生じた収益を見積ることが必要として、検針日基準を認める代替的な取扱いを設けないとの結論に至りました(改正適用指針第176-3項)。
特定の見積方法を認める代替的な取扱いによる対応
企業は、上記の会計基準第35項に基づき、決算月に実施した検針の日から決算日までに生じた収益を見積る必要があります。ただし、当該見積りについて、決算日時点での販売量実績が入手できないため、見積りと実績を事後的に照合する形で見積りの合理性を検証することができないなど、適切性を評価することが困難であるとの意見が財務諸表作成者および監査人から寄せられました(改正適用指針第176-3項)。
そのため、決算月に実施した検針の日から決算日までに生じた収益の見積方法について、財務諸表間の比較可能性を大きく損なわせない範囲で代替的な取扱いを定めることとされました(改正適用指針第176-3項)。
電気事業およびガス事業における決算月に実施した検針の日から決算日までに生じた収益の見積りは、通常、同種の契約をまとめた上で、使用量または単価(もしくはその両方)を見積って行われるものと考えられます。改正適用指針では、代替的な取扱いとして、以下のように、使用量および単価に関する特定の見積方法を認めることが定められています(改正適用指針第103‐2項、第176-4項)。
なお、当該見積方法を定めることにより、見積りの適切性の評価における財務諸表作成者および監査人の負担が軽減されると考えられています(改正適用指針第176-5項)。
(1) 使用量の見積方法(改正適用指針第103‐2項、第176-4項)
分散検針分のうち未検針となっている使用量の見積りは、決算月の月初から月末までの送配量を基礎として、気温、曜日等を加味して見積ることが考えられる。しかし、気温、曜日等を加味することは実務的に困難である可能性があるため、当該決算月の日数に対する未検針日数の割合に基づき日数按分により見積ることができる。
(2) 単価の見積方法(改正適用指針第103‐2項、第176-4項)
電気事業およびガス事業では、契約の種類、使用量、時間帯等によって単価が変動する料金体系を採用している場合があり、単価の見積りは、使用量等に応じて、それらの構成比の変動等を調整することが考えられる。しかし、このような調整を行うことは実務的に困難である可能性があるため、決算月の前年同月の平均単価を基礎とすることができる。
適用時期
改正適用指針は、2020年改正の会計基準の適用時期等と同様に、2021年4月1日以後開始する連結会計年度および事業年度の期首から適用することとされています(改正適用指針第107項)。