日本基準トピックス 第452号
主旨
- 2022年11月7日、金融庁は、有価証券報告書および有価証券届出書(以下、「有価証券報告書等」という)の記載事項について、主に以下の内容を改正する「企業内容等の開示に関する内閣府令」等の改正案を公表しました(以下、「本改正案」という)。
- サステナビリティに関する企業の取組みの開示
- コーポレートガバナンスに関する開示
- 本改正案に対するコメント募集期限は、2022年12月7日となっています。
- 原文については、金融庁のウェブサイトをご覧ください。
- なお、本改正案とは別に、EDINETが稼働しなくなった際の臨時的な措置として代替方法による開示書類の提出を認めるため、「開示用電子情報処理組織による手続の特例等に関する内閣府令」の改正も提案されています。
経緯
- 2022年6月13日、金融庁は、「金融審議会 ディスクロージャーワーキング・グループ報告-中長期的な企業価値向上につながる資本市場の構築に向けて-」(以下、「DWG報告書」という)を公表しました。
- DWG報告書において、「サステナビリティに関する企業の取組みの開示」、「コーポレートガバナンスに関する開示」などに関して、制度整備を行うべきとの提言がなされました。
- 当該提言を踏まえ、金融庁は、有価証券報告書等の記載事項について本改正案を公表しました。
「企業内容等の開示に関する内閣府令」等の改正案について
本改正案の構成
本改正案は、「企業内容等の開示に関する内閣府令」(以下、「開示府令」という)、「企業内容等の開示に関する留意事項について」(以下、「開示ガイドライン」という)の改正に加え、「記述情報の開示に関する原則」1の改正を提案しています。具体的には、以下の内容で構成されています。
- サステナビリティに関する企業の取組みの開示
- サステナビリティ全般に関する開示 (開示府令・開示ガイドラインの改正)
- 人的資本、多様性に関する開示 (開示府令・開示ガイドラインの改正)
- サステナビリティ情報の開示における考え方および望ましい開示に向けた取組み (記述情報の開示に関する原則の改正)
- コーポレートガバナンスに関する開示 (開示府令の改正)
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本改正案の主な内容 2
I. サステナビリティに関する企業の取組みの開示
1. サステナビリティ全般に関する開示
我が国では、2020年10月、政府として2050年のカーボンニュートラルを目指すことが宣言され、サステナビリティに関する取組みが企業経営の中心的な課題となるとともに、それらの取組みに対する投資家の関心が世界的に高まっています。同時にサステナビリティ開示の基準設定の動きが急速に進んでいます。
2021年11月には基準設定主体となる国際サステナビリティ基準審議会(以下、「ISSB」という)の設立が公表され、ISSBは2022年3月、サステナビリティ開示基準の公開草案(サステナビリティ関連財務情報の開示に関する全般的要求事項及び気候関連開示)を公表しています。我が国においても、2022年7月、サステナビリティ基準委員会(以下、「SSBJ」という)が設置され、精力的な議論が行われています。
このような国内外の状況を踏まえ、我が国においてもサステナビリティ開示に向けた検討を進めることが急務となっており、本改正案において以下の内容が提案されています。
(1)サステナビリティ情報の「記載欄」の新設 (開示府令の改正)
- 有価証券報告書等に、「サステナビリティに関する考え方及び取組」の「記載欄」を新設する
- 「ガバナンス」と「リスク管理」について、必須記載事項とする
- 「戦略」と「指標及び目標」について、重要性に応じて記載を求める
- サステナビリティ情報を有価証券報告書等の他の箇所に含めて記載した場合、サステナビリティ情報の「記載欄」において当該他の箇所の記載を参照できるものとする
(2)将来情報の記述と虚偽記載の責任及び任意開示書類の参照 (開示ガイドラインの改正)
- 将来情報の記載について、次のような場合、記載した将来情報と実際の結果が異なる場合でも、直ちに虚偽記載の責任を負うものではないことを明確にする
- 将来情報に関する経営者の認識やその前提となる事実や仮定などに関する合理的な説明が記載されている場合
- 将来情報について社内で合理的な根拠に基づく適切な検討を経たうえで、その旨が、検討された事実や仮定などとともに記載されている場合
- サステナビリティ情報や取締役会等の活動状況の記載について、詳細な情報に関して、任意開示書類を参照できることを明確化する
- 単に任意開示書類の虚偽をもって直ちに虚偽記載等の責任を問われるものではないことを明確化する(任意開示書類に明らかに重要な虚偽があることを知りながら参照する等、当該書類の参照自体が有価証券報告書等の重要な虚偽記載等になり得る場合を除く)
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2. 人的資本、多様性に関する開示
人的資本、多様性に関する開示については、2021年6月のコーポレートガバナンス・コードの再改訂により、経営戦略に関連する人的資本への投資や、多様性の確保に向けた方針とその実施状況の開示が盛り込まれるなどの取り組みが行われてきました。国際的には、米国ではSECが2020年11月、年次報告書において人的資本に関する開示の義務付けを行い、国際標準化機構(ISO)は、2019年1月、人的資本の状況を示す指標を公表するなど、開示の議論が進んでいます。
このような状況を踏まえ、投資家の投資判断に必要な情報を提供する観点から、我が国における開示の対応として以下の内容が提案されています。
人的資本、多様性に関する開示 (開示府令、開示ガイドラインの改正)
- サステナビリティ情報の「記載欄」の「戦略」と「指標及び目標」において、次の記載を求める
- 人材の多様性の確保を含む人材育成の方針や社内環境整備の方針
- 当該方針に関する指標の内容、当該指標を用いた目標および実績
- 女性活躍推進法等に基づき、次の指標を公表している提出会社およびその連結子会社に対して、有価証券報告書等の「従業員の状況」においても当該指標の記載を求める
- 上記指標の記載に当たって、次の点を明確化する
- 任意で追加的な情報を記載できること
- サステナビリティ記載欄の「指標及び目標」における実績値に、上記の指標の記載は不要であること
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3. サステナビリティ情報の開示における考え方および望ましい開示に向けた取組み
先述の通り、ISSBは2022年3月、気候関連開示基準の公開草案を公表しました。諸外国の当局でも気候変動開示関連の議論が進展しており、米国では、2022年3月、証券取引委員会(SEC)が気候関連開示を義務化する内容の規則案を公表し、市中協議を開始しました。欧州では、2021年4月、欧州委員会がサステナビリティ開示の対象企業拡大や詳細開示要件を定める企業サステナビリティ報告指令(CSRD)案を公表しています。
また、DWG報告書で提言されたサステナビリティ情報の開示についての期待等を踏まえて、サステナビリティ情報の開示における考え方及び望ましい開示に向けた取組みをまとめた記述情報の開示に関する原則の改正が提案されています。
(サステナビリティ情報の開示における考え方)
- サステナビリティに関する考え方および取組は、中長期的な持続可能性に関する事項について、経営方針・経営戦略等との整合性を意識して説明するもの
- 「ガバナンス」と「リスク管理」は、業態や経営環境、企業価値への影響等を踏まえ、サステナビリティ情報を認識し、その重要性を判断する枠組みが必要となる観点から、すべての企業が開示することが求められる
- 「戦略」と「指標及び目標」は、開示が望ましいものの、「ガバナンス」と「リスク管理」の枠組みを通じて重要性を判断して開示することが求められる
(望ましい開示に向けた取組み)
- 業態や経営環境等を踏まえ、重要であると判断した具体的なサステナビリティ情報は、「ガバナンス」、「戦略」、「リスク管理」、「指標及び目標」の枠で開示すべき
- 「戦略」と「指標及び目標」について、重要性を判断した上で記載しない場合でも、当該判断やその根拠の開示が期待される
- 国際的に確立された開示の枠組みである気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)またはそれと同等の枠組みに基づく開示をした場合、適用した開示の枠組みの名称を記載する
- サステナビリティ情報には、国際的な議論を踏まえると、例えば、環境、社会、従業員、人権の尊重、腐敗防止、贈収賄防止、ガバナンス、サイバーセキュリティ、データセキュリティなどに関する事項が含まれ得る
- 温室効果ガス(GHG)排出量について、各企業の業態や経営環境等を踏まえた重要性の判断を前提としつつ、スコープ1、スコープ2のGHG排出量 3については、積極的な開示が期待される
- 「女性管理職比率」等の多様性に関する指標は、投資判断に有用である連結ベースの開示に努めるべき
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II. コーポレートガバナンスに関する開示
コーポレートガバナンスに関する開示については、近年、スチュワードシップ・コードの再改訂やコーポレートガバナンス・コードの再改訂など着実な進展が見られ、さらに2022年4月からは、東京証券取引所における上場株式の市場区分が再編され、市場区分に応じたコーポレートガバナンス・コードの適用が行われるなど、ガバナンス向上に向けた枠組みの整備も進められています。
このような中、企業内容の開示においても、コーポレートガバナンスに関する取組みの進展を適切に反映することが求められるとして、本改正案において以下の内容が提案されています。
「コーポレート・ガバナンスの概要」、「監査の状況」、「株式の保有状況」など (開示府令の改正)
- 有価証券報告書等の「コーポレートガバナンスの概要」において、取締役会や指名委員会・報酬委員会等の活動状況(開催頻度、具体的な検討内容、出席状況等)の記載を求める
- 有価証券報告書等の「監査の状況」において、内部監査の実効性を確保するための取組(デュアルレポーティング 4の有無を含む)について、具体的、かつ、分かりやすく記載することを求める
- 有価証券報告書等の「株式の保有状況」において、政策保有株式の発行会社との業務提携の概要の記載を求める
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III. 施行・適用時期
本改正案は、改正規定の公布の日から施行することが提案されています。
なお、改正後の「企業内容等の開示に関する内閣府令」等の規定は、2023年3月31日以後に終了する事業年度に係る有価証券報告書等から適用予定です。
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1 記述情報の開示に関する原則とは、財務情報以外の開示情報である、いわゆる「記述情報」について、開示の考え方、望ましい開示の内容や取り組み方をまとめたものです。
2 本資料における枠で囲った部分は本改正案で提案されている内容を記載しています。なお、枠内の下線を付した箇所はポイントを理解しやすいよう、本トピックス作成にあたりPwCあらた有限責任監査法人にて付したものです。
3 スコープ1は、事業者自らによる直接排出、スコープ2は、他社から供給された電気、熱・蒸気の使用に伴う間接排出を指す。
4 内部監査部門が代表取締役のみならず、取締役会や監査役・監査役会に対しても直接報告を行う仕組み