日本基準トピックス 第454号
主旨
- 2022年12月26日、法務省は、「会社法施行規則等の一部を改正する省令」(以下、「本省令」とする)を公表しました。
- 令和元年(2019年)改正会社法により、株主総会資料の電子提供制度が創設され、上場会社等では2023年3月1日以降に開催される株主総会から適用が義務付けられます。
- 電子提供制度を適用する場合でも、希望する株主は株主総会資料の書面による交付を請求することができます。ただし、株主総会資料のうち一部の事項は、定款の定めにより書面への記載を省略することが認められています。
- 本省令により、書面への記載を省略できる範囲が当初の定めよりも拡大されました。具体的には、事業報告のうち一定の事項や、貸借対照表、損益計算書、連結貸借対照表および連結損益計算書が追加的に省略可能とされています。
- また、従来のウェブ開示によるみなし提供制度においても同様に対象範囲が拡大されています。
- 意見募集の結果についてはe-Govのウェブサイトを、原文については官報をご覧ください。
経緯
令和元年(2019年)改正会社法により、株主総会資料の電子提供制度が創設されました。電子提供制度では、「株主総会参考書類」、「議決権行使書面」、「事業報告」、「計算書類」および「連結計算書類」(以下、これらを合わせて「株主総会資料」とする)(*1)を自社のホームページ等のウェブサイトに掲載し、株主に対して当該ウェブサイトのアドレス等を書面で通知することにより、株主総会資料を提供したものとされます(会社法第325条の2)。電子提供制度は、株主総会資料の全体が対象となり、従来の書面による交付は不要となります(会社法第325条の4第3項)(*2)。
電子提供制度は、振替株式を発行する上場会社等については2023年3月1日以降に開催される株主総会から適用が義務付けられます(社債、株式等の振替に関する法律第159条の2)。振替株式を発行する上場会社等以外の会社では、定款変更により任意で電子提供制度を適用することができます。
電子提供制度が適用される場合であっても、インターネット等の利用が困難な環境にある株主の利益の保護のために、希望する株主は、株主総会資料の書面(電子提供措置事項記載書面)での交付を請求することができます。ただし、株主総会資料のうち一部の事項は、定款で定めることにより書面への記載を省略することができます(会社法第325条の5)。記載を省略することができる事項の範囲は、令和2年(2020年)11月改正会社法施行規則により定められました(会社法施行規則第95条の4)。
しかし、書面への記載を省略することができる事項の範囲については、その後の新型コロナウイルス感染症の影響やデジタル化の進展の観点を踏まえて、さらにウェブ開示の対象とすることができる事項の範囲との関係も含めて、引き続き検討が行われてきました。今般、検討の結果、書面への記載を省略することができる事項の範囲を拡大するために本省令が公表されました。
また、本省令では、従来のウェブ開示についても同様に対象範囲が拡大されています。
*1 これらの資料は、電子提供制度のもとでは「株主総会参考書類等」(会社法第325条の2)と呼ばれるが、ここでは一般的な用語として「株主総会資料」を用いている。
*2 ただし、書面投票を行う場合の議決権行使書面については、電子提供措置に含めずに、ウェブサイトのアドレス等を記載した招集通知(アクセス通知)と併せて書面で提供することもできる(会社法第325条の3第2項)。
改正内容
本省令では、主に以下の改正が行われています。
1. 電子提供措置事項記載書面で記載を省略することができる範囲の拡大 ※後述の図表3も参照
電子提供制度を適用する場合に、株主から書面交付請求があったときに交付する書面(電子提供措置事項記載書面)に記載することを要しない事項の範囲を拡大して、以下が追加的に省略可能とされています(会社法施行規則第95条の4第1項第2号~第4号)。
- 事業報告における、役員の責任限定契約に関する事項、事業の経過およびその成果、対処すべき課題、補償契約に関する事項および役員等賠償責任保険契約に関する事項
- 貸借対照表および損益計算書
- 連結貸借対照表および連結損益計算書
2. ウェブ開示によるみなし提供制度の対象範囲の拡大 ※後述の図表3も参照
従来のウェブ開示によるみなし提供制度(*3)においても、上記1と同様に対象範囲を拡大して、以下が追加的にウェブ開示の対象範囲に含められています(会社法施行規則第133条、会社計算規則第133条)。
- 事業報告における、事業の経過およびその成果(*4)、対処すべき課題(*4)、補償契約に関する事項および役員等賠償責任保険契約に関する事項
- 貸借対照表(*4)および損益計算書(*4)
*3 株主総会資料の一部をインターネット上のウェブサイトに掲載し、そのウェブサイトのアドレス等を株主に通知すれば、当該事項に係る情報が株主に提供されたものとみなす制度。今後も上場会社等以外の会社が電子提供制度を適用しない場合は、株主総会資料の書面での交付およびウェブ開示の適用がある。
*4 新型コロナウイルス感染症の影響を踏まえた時限措置(2023年2月28日で失効)によりウェブ開示の適用対象に含められていた項目を恒久的措置とするもの。なお、これにより時限措置終了時の経過措置(同日までに招集の手続が開始された定時株主総会資料の取扱い)は不要となるため削除されている。
施行期日
本省令案は、公布の日から施行されます。
ただし、ウェブ開示によるみなし提供制度に関する改正規定は、2023年3月1日(時限措置の失効の翌日)から施行されます。
(参考)株主総会資料の提供方法について
1. 従来の取扱い
株主総会資料(「株主総会参考書類」、「議決権行使書面」、「事業報告」、「計算書類」および「連結計算書類」)は、取締役会設置会社において書面投票または電子投票を認める場合、図表1の方法により提供するとされています(会社法第301条、第302条、会社法施行規則第94条、第133条、第222条、会社計算規第133条、第134条)。
実務的には、株主総会資料の全体を書面で交付、または書面での交付とウェブ開示の組み合わせが多く見られます。株主総会資料の全体を電磁的方法により提供する方法も認められますが、株主の個別の事前承諾(会社法第299条第3項、会社法施行令第2条)を必要とするため、多数の株主を有する会社では採用が必ずしも容易ではない場合があると考えられます。
図表1 株主総会資料の従来の提供方法
すべての株主 | 次のいずれかの方法による。
- 書面で交付
- 電磁的方法による提供(ウェブサイトへの掲載またはメールでの送信など)
| 一部の項目はウェブ開示(ウェブサイトへの掲載)によるみなし提供制度により代替できる。 |
なお、上場会社等以外の会社が電子提供制度を適用しない場合は、今後も上記の方法の適用があります。
2. 株主総会資料の電子提供制度の導入(令和元年改正会社法による)
図表2では、令和元年(2019年)改正会社法により創設された、電子提供制度による株主総会資料の提供方法を示しています。従来のウェブ開示によるみなし提供制度とは異なり、株主総会資料の全体が電子提供(ウェブサイトへの掲載)の対象となります。
電子提供制度が適用される場合であっても、インターネット等の利用が困難な環境にある株主の利益の保護のために、希望する株主は、株主総会資料の書面(電子提供措置事項記載書面)での交付を請求することができます。ただし、株主総会資料のうち一部の事項は、定款で定めることにより書面への記載を省略することができます(会社法第325条の5第3項)。
図表2 電子提供制度による株主総会資料の提供方法
すべての株主 | 電子提供(ウェブサイトへの掲載)(*5) |
書面交付請求を行った株主 | 書面(電子提供措置事項記載書面)を交付 | 一部の項目は書面への記載を省略できる。 |
*5 書面投票を行う場合の議決権行使書面については、電子提供措置に含めずに、ウェブサイトのアドレス等を記載した招集通知(アクセス通知)と併せて書面で提供することもできる(会社法第325条の3第2項)。
図表3では、株主総会資料の各項目について、ウェブ開示によるみなし提供の可否および電子提供制度における書面への記載省略の可否を示しています。いずれも重要と考えられる一部の事項が対象外とされていますが、電子提供制度における書面への記載省略が可能な範囲は相対的に狭く設定されており、これは、電子提供制度の下においてあえて書面交付請求をする株主に対しては、書面により十分な情報提供がされる必要があると考えられることなどを理由としていました(令和2年(2020年)11月改正会社法施行規則公表時の「会社法の改正に伴う法務省関係政令及び会社法施行規則等の改正に関する意見募集の結果について」)。
本省令ではその後の新型コロナウイルス感染症の影響やデジタル化の進展の観点を踏まえて、これらの対象となる範囲を拡大するとともに、両者の範囲を整合させる改正が行われています。
図表3 ウェブ開示によるみなし提供の可否/電子提供制度の書面への記載省略の可否
(〇:可、×:不可、下線は本省令により変更された項目)
ウェブ開示の可否(括弧内はコロナ時限措置) | 電子提供制度の書面への記載省略の可否 | ウェブ開示・電子提供制度共通 |
・重要な資金調達・設備投資・企業結合等の状況 | × | × | × |
・企業集団または株式会社の現況に関する重要な事項 | 〇 | 〇 | 〇 |
・会社役員の報酬等、報酬等の決定に係る方針等 | × | × | × |
・監査役、監査等委員または監査委員の財務および会計に関する相当程度の知見 | 〇 | 〇 | 〇 |
・常勤の監査等委員または監査委員の有無およびその理由 | 〇 | 〇 | 〇 |
・業務の適正を確保するための体制に関する事項 | 〇 | 〇 | 〇 |
(8) 事業報告に係る監査報告 | ×(〇)(*6) | × | 〇 |
計算書類 | ・貸借対照表・損益計算書 | ×(〇)(*6) | × | 〇 |
・計算書類に係る監査報告・会計監査報告 | ×(〇)(*6) | × | 〇 |
連結計算書類 | ・連結貸借対照表・連結損益計算書 | 〇 | × | 〇 |
・計算書類に係る監査報告・会計監査報告(*7) | 〇 | 〇 | 〇 |
*6 事業報告のうち事業の経過およびその成果や対処すべき課題、計算書類のうち貸借対照表や損益計算書は、当初はウェブ開示の適用対象とはされていなかった。しかし、新型コロナウイルス感染症の影響を踏まえ、決算・監査業務の負担を軽減するため、2020年5月以降、これらの項目も時限措置としてウェブ開示の適用対象に含められていた(2023年2月28日で失効)。本省令では、これらの項目を時限措置ではなく恒久的措置としてウェブ開示の適用対象に含めている。
*7 連結計算書類に係る監査報告・会計監査報告の株主への提供は要求されていないが,提供することを定めたときには他の株主総会資料と同様に書面(または電磁的方法)による提供や電子提供措置を行う(会社計算規則第134条第2項、第3項)。また、書面(または電磁的方法)に代えてウェブ開示によることもできる(会社計算規則第134条第5項)。なお、電子提供措置を行う場合であっても、電子提供措置事項記載書面に記載することは要求されない(2022年12月26日「会社法施行規則等の一部を改正する省令案」に関する意見募集の結果について)。