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日本基準トピックス 第455号
主旨
  • 2022年12月27日、金融庁は、「金融審議会 ディスクロージャーワーキング・グループ報告」(以下「本報告書」という)を公表しました。
  • 本報告書では、金融審議会「ディスクロージャーワーキング・グループ」(以下「WG」という)が、2022年10月以降、計4回にわたり、以下の事項について検討および審議を行った結果がとりまとめられています。
    1. 四半期開示をはじめとする情報開示の頻度・タイミング
    2. サステナビリティに関する企業の取組みの開示
  • 本報告書は今後、金融審議会総会・金融分科会において報告されるものとされています。
  • 原文については、金融庁のウェブサイトをご覧ください。
経緯
  • WGは、2021年6月に金融担当大臣から以下の諮問を受けて設立されました。
「企業を取り巻く経済社会情勢の変化を踏まえ、投資家の投資判断に必要な情報を適時に分かりやすく提供し、企業と投資家との間の建設的な対話に資する企業情報の開示のあり方について幅広く検討を行うこと」
  • 2022年6月に、サステナビリティ情報等の非財務情報開示の充実の施策や四半期開示に関する施策を取りまとめた報告(「ディスクロージャーワーキング・グループ報告」)(以下「2022年6月の報告書」という)を公表しました。2022年6月の報告書では、四半期開示義務(第1・第3四半期)を廃止し、取引所の決算短信に「一本化」する方向性が示されましたが、具体化に向けた課題や、サステナビリティ開示に関するロードマップ等については更なる検討が必要とされていました。
  • これらの事項を検討すべく、2022年10月から4回にわたり検討および議論が行われました。
  • 学識経験者、利用者、企業等の立場から計18名が委員として参加し、オブザーバーとして経済産業省、東京証券取引所、日本経済団体連合会、関西経済連合会、日本公認会計士協会等が参加しています。
「金融審議会ディスクロージャーワーキング・グループ報告」について
本報告書の構成
本報告書は以下の内容で構成されています。
I. 四半期開示をはじめとする情報開示の頻度・タイミング
1. 四半期開示の見直し
(1) 四半期決算短信の義務付けの有無
(2) 適時開示の充実
(3) 四半期決算短信の開示内容
(4) 四半期決算短信に対する監査人によるレビューの有無
(5) 四半期決算短信の虚偽記載に対するエンフォースメント
(6) 半期報告書および中間監査のあり方
(7) その他の論点
➀ 会計基準・監査基準の整備
② 公衆縦覧期間の延長
II.サステナビリティに関する企業の取組みの開示
1. サステナビリティ開示を巡る国際的な動向と我が国における対応
(1) 国際的な動向と我が国における今後の議論
(2) 我が国におけるサステナビリティ開示基準
2. サステナビリティ基準委員会(SSBJ)の役割や開示基準の位置付け
3. サステナビリティ情報に対する保証のあり方
4. ロードマップ
本報告書の主な内容 1
I.四半期開示をはじめとする情報開示の頻度・タイミング
1.四半期開示の見直し
2022年6月の報告書では、四半期開示について金融商品取引法上の四半期開示義務(第1・第3四半期)を廃止し、取引所規則に基づく四半期決算短信に「一本化」することが適切との考え方が示されました。
「一本化」の具体化に当たっては、取引所の適時開示の充実を図りながら、将来的に、期中における情報開示のあり方について、信頼性を確保しつつ、投資判断における重要性が高まっている適時の情報開示に重点を置いた枠組みへと見直していくことも考えられる等の議論を踏まえ、以下に示した「一本化」の具体化における各論点について検討が行われました。
(1) 四半期決算短信の義務付けの有無
四半期開示は、速報性と、比較可能性および信頼性を確保しながら、特定の期限までに、集約された財務情報が開示される枠組みであり、投資家および企業双方にメリットがあるという意見があります。一方で、四半期開示は、膨大な人的資源の投入を必要とし、企業に多大な事務負担をもたらしていることなどから、四半期開示の任意化を求める意見があります。
本報告書では、日本企業の開示を巡る現状に照らして、経営戦略の進捗状況の確認としての意義、平均的な企業の開示姿勢への懸念や、開示の後退と受け取られることで日本市場全体の評価が低下する恐れなどに鑑みて、以下の内容が提案されています。
  • 当面は、四半期決算短信を一律に義務付ける
他方で、将来的な四半期決算短信の任意化については、まず、企業の開示に対する意識の改善・向上や、企業が積極的に投資家へ充実した情報を提供するような市場環境の確立によって、投資家からの懸念を払しょくする必要があるとの考えから、以下の内容が提案されています。
  • 将来的な四半期決短信の任意化については、今後、以下を踏まえた上で、幅広い観点から継続的に検討していく
    • 適時開示の充実の達成状況
    • 企業の開示姿勢の変化
    • 適時開示と定期開示の性質上の相違に関する意見等
(2) 適時開示の充実
企業環境の急速な変化や情報技術の進展等を背景に、投資家の投資判断において企業による適時の情報開示の重要性は高まっており、これまで想定されなかった事象について、企業が適切にリスクの識別・評価を行い、取引所の適時開示の枠組みで情報開示を充実させていくことが重要な課題となっています。加えて、前述のとおり、四半期開示の任意化を検討する前提として、適時開示の充実は重要な考慮要素となっています。
企業の積極的な開示を促すために、本報告書においては以下の内容が提案されています。
  • 取引所において、以下について、継続的に検討を進める
    • 好事例の公表エンフォースメントの強化
    • 適時開示ルールの見直し(細則主義から原則主義への見直し、包括条項における軽微基準の見直し)
  • 適時開示ルールの見直しについては、以下を踏まえた検討が必要である
    • 細則が定められている中でこれまで実務が行われてきた点
    • インサイダー取引規制およびフェア・ディスクロージャー・ルールとの関係
  • 適時開示情報の信頼性を確保するために、将来的に、重要な適時開示事項(例えば、重要な財務情報等)について、以下の点を検討した上で臨時報告書の提出を求めることを検討する
    • 重要な適時開示事項の範囲や、将来情報が含まれる場合の取扱い
    • 現状、適時開示は取引所のシステムに、臨時報告書等の法定開示は金融庁のシステムに提出するが、同じ情報の2度提出(適時開示と臨時報告書)を避けるよう、ワンストップ化に向けた制度上の整理やシステム連携
    • 当局と取引所のシステム更改のタイミングも勘案した、中期的な視点での上場企業の開示情報に係るシステムのあり方
(3) 四半期決算短信の開示内容
これまで、四半期決算短信は、その後に四半期報告書が開示されることを前提に、速報性の観点から開示内容が簡素化されてきた経緯があるため、現行の開示内容のままでは、投資判断に必要な情報が十分に提供されなくなるおそれがあるとの意見があります。今回の見直しが情報開示の後退と受け取られないようにする観点から、本報告書において以下の内容が提案されています。
  • 原則として速報性を確保しつつ、投資家の要望が特に強い事項(セグメント情報キャッシュ・フローの情報等)の開示を四半期決算短信に追加する方向で、取引所で具体的に検討を進める
  • 四半期報告書において直近の有価証券報告書の記載内容から重要な変更があった場合に開示が求められてきた事項(例えば、重要な契約など)については、臨時報告書の提出事由とする
(4) 四半期決算短信に対する監査人によるレビューの有無
これまで、四半期報告書については、監査人によるレビューが求められてきました。「一本化」後の四半期決算短信について、速報性の観点、財務情報の信頼性の確保、投資家への情報提供の観点等、さまざまな意見を踏まえ、本報告書において以下の内容が提案されています。
  • 四半期決算短信については監査人によるレビューを一律には義務付けない
  • 企業においてレビューを受けるかは任意とし、レビューの有無を四半期決算短信において開示する
  • 例えば、以下の場合、取引所規則により一定期間監査人によるレビューを義務付ける
    • 会計不正が起こった場合(これに伴い、法定開示書類の提出が遅延した場合を含む)
    • 企業の内部統制の不備が判明した場合
  • その際、監査人によるレビューを義務付ける要件や期間は、取引所において、不適正開示等に対する実効性確保措置との関係も踏まえて、具体的に検討を進める
(5) 四半期決算短信の虚偽記載に対するエンフォースメント
四半期決算短信は取引所における開示書類のため、「一本化」後の四半期決算短信の虚偽記載に対するエンフォースメントについて、本報告書において以下の内容が提案されています。
  • 取引所でエンフォースメントをより適切に実施していく
  • 半期報告書および有価証券報告書において法令上のエンフォースメントが維持されるため、現時点では、四半期決算短信に対する法令上のエンフォースメントは不要とする(ただし、意図的で悪質な虚偽記載が行われた場合には、現行でも金融商品取引法上の罰則の対象となりうる)
  • 将来的に、重要な適時開示事項(例えば、重要な財務情報等)を臨時報告書の提出事由とする場合には、四半期決算短信に含まれる情報も重要な適時開示事項に含め臨時報告書の提出事由とすることを検討していく
(6) 半期報告書および中間監査のあり方
金融商品取引法において、第1・第3四半期報告書を廃止した後、上場企業は、開示義務が残る第2四半期報告書を、同法上の半期報告書として提出することとなりますが、上場企業と投資家のこれまでの実務への配慮や、半期の財務諸表に対する保証の国際的な整合性の観点から、本報告書において以下の内容が提案されています。
  • 上場企業の半期報告書は、現行と同様、第2四半期報告書と同程度の記載内容監査人のレビューを求め、提出期限を決算後45日以内とする
  • 非上場企業は、現行制度で、任意で四半期報告書を提出することができる枠組みがあるところ、今回の四半期開示の見直し後においても、上場企業に義務付けられる半期報告書の枠組み(現行の第2四半期報告書と同程度の記載内容と監査人のレビュー、45 日以内の提出)を選択可能とする
  • 上場企業である銀行や保険会社等(金融商品取引法における「特定事業会社」)の半期報告書については、破綻処理制度等との関連も踏まえ、金融監督上の観点から、引き続き検討していく
(7) その他の論点
その他の論点として、本報告書において以下の内容が提案されています。
➀ 会計基準・監査基準の整備
  • 四半期会計基準四半期レビュー基準は、金融庁、企業会計基準委員会(ASBJ)、取引所、日本公認会計士協会等の関係者において、今回の見直しに伴う必要な対応を行う
② 公衆縦覧期間の延長
  • 半期報告書および臨時報告書の公衆縦覧期間を、金融商品取引法を改正し、有価証券報告書の公衆縦覧期間および虚偽記載に対する課徴金の除斥期間である5年間へ延長する
  • 将来的に、コスト面も考慮しながら、公衆縦覧期間や閲覧期間のさらなる延長を検討する
Ⅱ.サステナビリティ開示に関する企業の取組みの開示
1.サステナビリティ開示を巡る国際的な動向と我が国における対応
2022年6月の報告書では、国内の開示基準設定主体の役割の明確化や、サステナビリティ情報に対する保証のあり方、企業や投資家の実務的準備に資するロードマップについて、更なる検討を進める必要があるとされました。2022年7月には、サステナビリティ開示について、国際的な意見発信や、具体的開示内容(「開示基準」)の検討を行うことを目的とする、サステナビリティ基準委員会(以下、「SSBJ」という)が設立されました。
また、国際的な動向は、以下のとおりとなっています。
  • 国際サステナビリティ基準審議会(International Sustainability Standards Board、ISSB)は、2022年3月に公表したサステナビリティ開示基準(S1およびS2)案を2023年前半に最終化することを目指して、公開草案後の議論を行っている。
  • 欧州では、2021 年4月に公表した企業サステナビリティ報告指令(Corporate Sustainability Reporting Directive、以下、「CSRD」という)案が2022年 11 月に最終化された。また、CSRDに基づく具体的な開示基準である欧州サステナビリティ報告基準(European Sustainability Reporting Standards、ESRS)案が、2022年 11 月に欧州委員会(European Commission、EC)に送付され、更なる検討が進められている。
  • 米国では、証券取引委員会(Securities and Exchange Commission、SEC)が2022年3月に気候関連開示を義務化する規則案を公表して市中協議を行い、検討が進められている。
このように、国際的にサステナビリティ開示に関する基準策定の議論が進んでいる中、国際的に整合性を図りつつ、全体として充実したサステナビリティ開示を着実に進めていくことが重要であるとされ、この観点から、本報告書において以下の内容が提案されています。
(1)国際的な動向と我が国における今後の議論
  • 国内の開示基準の検討や有価証券報告書への取込み、保証のあり方の議論、これらを支える人材育成等が必要
  • サステナビリティ情報の作成や利用等に関する教育・訓練・研修を充実することにより、社会全体として人材育成に取り組んでいく
  • 企業において、サステナビリティ開示の充実に向けて積極的に対応できるよう、リソースを適切に配分していく
(2)我が国におけるサステナビリティ開示基準
  • ISSBにおける基準開発の方向性を見据えながら、国内の開示基準の開発に向けた議論を進めていく
  • 最終的に全ての有価証券報告書提出企業が必要なサステナビリティ情報を開示することを目標としつつ、今後、円滑な導入の方策を検討していく
  • 法定開示である有価証券報告書には、国内において統一的に適用しうる開示基準を策定して取り込んでいく
2.サステナビリティ基準委員会(SSBJ)の役割や開示基準の位置け
今後、ISSBにおける基準開発の方向性を見据えながらサステナビリティ情報に関する我が国の開示基準を開発し、これを法定開示である有価証券報告書に取り込んでいくためには、我が国の開示基準設定主体や当該開示基準設定主体が開発する開示基準を、法令の枠組みの中で位置づけることが重要であるとされ、本報告書において以下の内容が提案されています。
  • 会計基準設定主体や企業会計基準と同じく、サステナビリティ情報についても、開示基準の設定主体と開示基準を金融商品取引法令の中で位置づけることが考えられる
  • 今後、必要となる関係法令の整備を行い、SSBJが開発する開示基準を個別の告示指定により我が国の「サステナビリティ開示基準」として設定することで、サステナビリティ開示の比較可能性を確保し、投資家に有用な情報を提供していく
3.サステナビリティ情報に対する保証のあり方
サステナビリティ情報に対する第三者による保証については、国際的には、欧州や米国において限定的保証から導入し、合理的保証に移行するアプローチが提案されているほか、監査・保証に関する国際的な基準設定主体である国際監査・保証基準審議会(International Auditing and Assurance Standards Board、IAASB)において、基準開発に向けた審議が開始されており、今後、2023年9月までに基準の公開草案を承認し、 2024年12月から 2025年3月の間に最終化することが予定されています。
有価証券報告書において、我が国の開示基準に基づくサステナビリティ情報が記載される場合には、法定開示において高い信頼性を確保することに対する投資家のニーズや、国際的に保証を求める流れであることを踏まえて、本報告書において以下の内容が提案されています。
保証のあり方
  • 将来的に、当該情報に対して保証を求めていく
  • サステナビリティ情報の外縁が拡張し続けている中、どの範囲に保証を求めるか検討する
  • 保証を求める場合には、金融商品取引法において規定する必要がある
保証の担い手
  • 財務情報との結合性(コネクティビティ)を踏まえると、財務諸表の監査業務を行っている公認会計士・監査法人によって担われることが考えられる
  • サステナビリティというテーマが広範であり、多様な専門性を必要とする領域であることを踏まえると、保証の担い手を広く確保することも重要
  • 担い手の要件は、独立性や高い専門性、品質管理体制の整備、当局による監督対象となっていることなどが考えられ、保証の担い手を法制度の中で位置付け、保証業務の一定の品質を確保し、必要な場合にはサンクションを設け、当局の監督対象とする
保証基準および保証水準
  • 国際的な保証基準と整合的な形であることが、比較可能性の確保に資する
任意の保証
  • 有価証券報告書におけるサステナビリティ情報の「記載欄」で、任意で保証を受けている旨を記載する際には、例えば、保証業務の提供者の名称、準拠した基準や枠組み保証水準、保証業務の結果、保証業務の提供者の独立性等の明記が重要であり、取扱いを明確化する
4.ロードマップ
企業や投資家における予見可能性を高め、実務的な準備を確実に進める観点から、本報告書の別添資料として、「我が国におけるサステナビリティ開示のロードマップ」が示されており、本報告書において以下の内容が提案されています。
  • 国際的な動向が流動的であることを踏まえ、将来の状況変化に応じて随時見直しすることを前提とする
  • ロードマップに沿って、以下を進め、サステナビリティ開示の充実を着実に進める
    • 将来的に我が国のサステナビリティ開示基準の開発やその法定開示への取り込み
    • サステナビリティ情報に対する保証のあり方の議論
    • サステナビリティに係る人材育成の取り組み
Ⅲ.今後の見通し
四半期開示については、金融商品取引法上の四半期開示義務(第1・第3四半期)の廃止に向けて金融商品取引法の改正案を検討した後、必要となる政府令や取引所規則を整備すること、サステナビリティ開示については、開示基準設定主体やその開示基準について法令上の枠組みの中で位置付けるなど、制度の整備に向けた必要な対応を進めることが期待されるとされています。
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1 本資料における枠で囲った部分は本報告書で提案されている内容を記載しています。なお、枠内の下線を付した箇所はポイントを理解しやすいよう、本トピックス作成にあたりPwCあらた有限責任監査法人にて付したものです。
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