Expand
日本基準トピックス 第488号
主旨
  • 2024年3月29日、サステナビリティ基準委員会(SSBJ)は、サステナビリティ開示ユニバーサル基準公開草案「サステナビリティ開示基準の適用(案)」、サステナビリティ開示テーマ別基準公開草案第1号「一般開示基準(案)」およびサステナビリティ開示テーマ別基準公開草案第2号「気候関連開示基準(案)」(以下、これらを合わせて「本公開草案」という)を公表しました。
  • 本公開草案は、国際的に整合性のある基準となるよう、国際サステナビリティ基準審議会(ISSB)が2023年6月に公表したIFRSサステナビリティ開示基準の要求事項をすべて取り入れたうえで、企業が適用を選択できる我が国固有の選択肢を一部追加しています。
  • 本公開草案は、プライム上場企業を適用対象企業と想定して開発されていますが、プライム上場以外の企業も適用可能とされています。また、本公開草案に強制適用時期は定められていませんが、確定基準公表日以後終了する年次報告期間から任意で適用可能とすることが提案されています。
  • 本公開草案についてのコメント提出期限は、2024年7月31日です。
  • 原文については、SSBJのウェブサイトをご覧ください。
経緯
SSBJは、ISSBが国際的なサステナビリティ開示基準を開発するために設立されたことを受け、我が国におけるサステナビリティ開示基準を開発すること等を目的として、2022年7月に設立されました。
ISSBは、国際的なサステナビリティ開示基準の開発にあたり、白紙の状態から基準の開発を始めるのではなく、既存の基準やフレームワークを基礎として開発することとしました。ISSBは、これを「グローバル・ベースライン」と位置付け、2023年6月、最初のIFRSサステナビリティ開示基準となるIFRS S1号「サステナビリティ関連財務情報の開示に関する全般的要求事項」(以下、「IFRS S1号」という)およびIFRS S2号「気候関連開示」(以下、「IFRS S2号」という)を公表しました。
SSBJは、高品質で国際的に整合性のあるサステナビリティ開示基準を開発するにあたり、グローバル・ベースラインとされるIFRSサステナビリティ開示基準と整合性のあるものとすることが市場関係者にとって有用であると考えました。このため、SSBJは、我が国のサステナビリティ開示基準においても、IFRS S1号に相当する基準およびIFRS S2号に相当する基準の開発に取り組むこととし、検討を重ね、このたび本公開草案を公表しました。
なお、SSBJは、IFRS S1号およびIFRS S2号と本公開草案における提案との項番対照表および差異表も公表しています。
構成
本公開草案には、次の3つのサステナビリティ開示基準案が含まれています。
(1)
サステナビリティ開示ユニバーサル基準公開草案
「サステナビリティ開示基準の適用(案)」
サステナビリティ開示基準の全体像を説明
IFRS S1号の「コアコンテンツ」に相当する定め以外の定めを想定
(2)
サステナビリティ開示テーマ別基準公開草案第1号
「一般開示基準(案)」
IFRS S1号の「コアコンテンツ」に相当する定め
(3)
サステナビリティ開示テーマ別基準公開草案第2号
「気候関連開示基準(案)」
IFRS S2号に相当する定め
概要
(1)本公開草案の適用対象企業
本公開草案では適用対象企業を定めていません。しかし、金融庁から「SSBJ基準の適用対象については、グローバル投資家との建設的な対話を中心に据えた企業(プライム上場企業ないしはその一部)から始めることが考えられる」との方向性が示されたことを踏まえ1、プライム上場企業が適用することを想定し、本公開草案の開発が行われています。
本公開草案の公表時点において、SSBJが公表するサステナビリティ開示基準の金融商品取引法(以下、「金商法」という)に基づく法定開示における位置付けは明らかにされていません。しかし、SSBJが企業会計基準委員会(ASBJ)と同様に法令上位置付けられた場合に、本公開草案の定めに基づく開示が有価証券報告書に含められることが想定されることを踏まえたものです。
また、本公開草案は、プライム上場企業が適用することを想定して開発されているものの、プライム上場企業以外の企業(例えば、金商法以外の法令によりサステナビリティ関連財務開示の開示が求められる場合や、法令に基づかず、任意でサステナビリティ関連財務開示を作成する場合)も適用できるとされています。
(2)SSBJが公表するサステナビリティ開示基準の構成
本公開草案は、IFRSサステナビリティ開示基準(IFRS S1号およびIFRS S2号)の内容を取り入れるかどうかについて、個々の論点ごとに検討を行い開発されています。IFRSサステナビリティ開示基準の内容を取り入れる場合であっても、公開草案では主として基準の読みやすさを優先してIFRSサステナビリティ開示基準の定めの順番等を入れ替えたり、用語を言い換えたりしたうえで基準を定めることが提案されています。
また、IFRS S1号の基本的な事項を定めた部分とコアコンテンツの部分とを、分かりやすさの観点から、以下の図に示したように、別々の基準(ユニバーサル基準、テーマ別基準)とすることが提案されています。
(出典:「コメントの募集及び本公開草案の概要」(SSBJ) P5をもとに作成)
(3)開発にあたっての基本的な方針
本公開草案は次の基本的な方針のもとで開発されています。
  • 国際的な比較可能性を大きく損なわせないものとするため、原則として国際的な基準の定めを取り入れる。
  • ただし、すべての定めを無条件で取り入れることはせず、例えば、次のような場合にはそのままの形で取り入れないこともある。
    • 国際的な基準の定めによって提供される情報が有用ではない(国際的な基準が多くの選択肢を与えており、比較可能性を損なっている場合を含む)と判断される場合
    • 国際的な基準の定めによって提供される開示に一定の有用性が認められるものの、企業に過度の負担をかけることが明らかであると判断される場合
    • 周辺諸制度との関係を考慮した結果、国際的な基準の定めをそのままの形で取り入れないことが適切であると判断される場合
  • 比較的短期間で基準開発を行うことから、国際的な基準の定めをそのままの形で取り入れるかどうかについてコンセンサスが得られない項目は、取り入れたうえで、当面、適用を任意とすることもある。
  • 国際的な基準と異なる定めを置くことにはならないものの、我が国の諸制度を考慮した場合の取扱いを明らかにすることが有用である場合、当該取扱いを追加することもある。
コメント募集
本公開草案にあわせて公表された「コメントの募集及び本公開草案の概要」(以下、「コメント募集等」という)には、11個の質問が記載されています。このうち、質問2から質問9は、上記の開発にあたっての基本的な方針を踏まえて審議を行う過程で、意見が分かれた主な項目に関するものです。また、コメント募集等においては、各質問の前に「問題の所在」、「本公開草案における提案」、「本公開草案において採用されなかった案」の概要が記載されています。
各質問の質問項目と本公開草案における主な提案の概要は下記の表のとおりです。なお、表中の「基準案の考え方」に記載した「ISSB基準と同じ」、「ISSB基準と整合」、「ISSB基準に追加」は、SSBJの事務局による評価に基づくものです2
質問項目
本公開草案における主な提案
質問1 開発の基本的な方針
本公開草案の開発にあたっての基本的な方針に関する提案に同意するか
  • 前述の「概要」(3)を参照。
質問2 ガイダンスの情報源
「ガイダンスの情報源」における「SASBスタンダード」および「産業別ガイダンス」の取扱いに関する提案に同意するか
基準案の考え方:ISSB基準と同じ
  • サステナビリティ関連のリスクおよび機会の識別、並びに、識別したリスクおよび機会に関する重要性がある情報の識別にあたり、IFRS財団が公表する「SASBスタンダード」(2023年12月最終改正)を「参照し、その適用可能性を考慮しなければならない」情報源とする。
  • 気候関連のリスクおよび機会の識別、並びに、開示する産業別の指標の決定にあたり、ISSBが公表する「産業別ガイダンス」(2023年6月公表)を「参照し、その適用可能性を考慮しなければならない」情報源とする。また、「SASBスタンダード」(2023年12月最終改正)についても、「適用基準」の適用を通じて「参照し、その適用可能性を考慮しなければならない」情報源とする。
質問3 GHG排出量の合計値
スコープ1、スコープ2およびスコープ3の温室効果ガス(以下、「GHG」という)排出量の合計値に関する提案に同意するか
基準案の考え方:ISSB基準に追加
  • スコープ1 GHG排出、スコープ2 GHG排出およびスコープ3 GHG排出の絶対総量の合計値を開示しなければならない。
質問4 温対法に基づく報告の利用
「地球温暖化対策の推進に関する法律」に基づく「温室効果ガス排出量の算定・報告・公表制度」」(以下、「温対法」という)に基づくGHG排出量の報告に関する提案に同意するか
  • 温対法に基づくGHG排出量をサステナビリティ関連財務開示においても報告することを選択した場合、サステナビリティ関連財務開示の公表承認日において既に当局に提出したGHG排出量のデータのうち、直近のものを用いなければならない。
  • そのうえで、GHG排出量の報告のための算定期間と当該企業のサステナビリティ関連財務開示(および関連する財務諸表)の報告期間の差異が1年超の場合、一定の事項を開示しなければならない。
質問5 スコープ2の測定方法
スコープ2 GHG排出におけるロケーション基準とマーケット基準に関する提案に同意するか
基準案の考え方:(1)はISSB基準と同じ、(2)はISSB基準と整合
  • スコープ2 GHG排出について、ロケーション基準による排出量を開示しなければならない。そのうえで、当該開示に加え、少なくとも次のいずれかの事項を開示しなければならない。
(1)契約証書を企業が有している場合、スコープ2 GHG排出を理解するうえで必要な、当該契約証書に関する情報
(2)マーケット基準によるスコープ2 GHG排出量
質問6 スコープ3の重要性判断
スコープ3 GHG排出の絶対総量の開示における重要性の判断の適用に関する提案に同意するか
基準案の考え方:ISSB基準と同じ
  • スコープ3 GHG排出の絶対総量の測定に含めるカテゴリーに関して、特段の定めを置かない。
質問7 気候関連のリスク・機会
産業横断的指標等(気候関連のリスクおよび機会)に関する提案に同意するか
基準案の考え方:(1)はISSB基準と同じ、(2)はISSB基準と整合
  • 気候関連の移行リスク/物理的リスクに関して、次のいずれかを開示しなければならない。
(1)気候関連の移行リスク/物理的リスクに対して脆弱な資産または事業活動の金額およびパーセンテージ
(2)気候関連の移行リスク/物理的リスクに対して脆弱な資産または事業活動の規模に関する情報
  • 気候関連の機会に関して、次のいずれかを開示しなければならない
(1)気候関連の機会と整合した資産または事業活動の金額およびパーセンテージ
(2)気候関連の機会と整合した資産または事業活動の規模に関する情報
質問8 資本投下
産業横断的指標等(資本投下)に関する提案に同意するか
基準案の考え方:ISSB基準と同じ
  • 資本投下に関する産業横断的指標等に関連して、次の事項を開示しなければならない。
・気候関連のリスクおよび機会に投下された資本的支出、ファイナンスまたは投資の金額
質問9 内部炭素価格
産業横断的指標等(内部炭素価格)に関する提案に同意するか
基準案の考え方:ISSB基準と同じ
  • 内部炭素価格に関する産業横断的指標等に関連して、次に関する情報を開示しなければならない。
(1)内部炭素価格を意思決定に用いている場合、次の事項に関する情報
① 内部炭素価格の適用方法(例えば、投資判断、移転価格およびシナリオ分析)
② GHG排出に係るコストの評価に用いている内部炭素価格(GHG排出のメートル・トン当たりの価格で表す)
(2)内部炭素価格を意思決定に用いていない場合、その旨
質問10 経過措置
経過措置に関する提案に同意するか
  • サステナビリティ開示基準に従い開示を行うことを要求または容認する法令に従い開示を行う場合と、任意でサステナビリティ開示基準に従った開示を行う場合について、それぞれ経過措置を定める(提案されている経過措置の詳細は「コメントの募集及び本公開草案の概要」等を参照)。
質問11 その他
その他、本公開草案に関する意見があるか
_______________________________________________________________
1 2024年2月19日金融庁第52回金融審議会総会・資料1 説明資料(サステナビリティ情報の開示と保証のあり方に関する検討)p.1参照
2 ASBJ/SSBJオープンセミナー2024「我が国における会計基準及びサステナビリティ開示基準の最新動向」の「ご意見をいただきたい主な項目」参照
Expand Expand
Resize
Tools
Rcl

Welcome to Viewpoint, the new platform that replaces Inform. Once you have viewed this piece of content, to ensure you can access the content most relevant to you, please confirm your territory.

signin option menu option suggested option contentmouse option displaycontent option contentpage option relatedlink option prevandafter option trending option searchicon option search option feedback option end slide