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日本基準トピックス 第489号
主旨
  • 2024年3月29日、金融庁は「有価証券報告書の作成・提出に際しての留意すべき事項等(サステナビリティ開示等の課題対応にあたって参考となる開示例集を含む)及び有価証券報告書レビューの実施について(令和6年度)」を公表しました。
  • 2024年3月期以降の事業年度に係る有価証券報告書を作成・提出する際の留意事項等(サステナビリティ開示等の課題対応にあたって参考となる開示例集を含む)として、以下が挙げられています。
    1. 有価証券報告書レビューの審査結果と審査結果を踏まえた留意すべき事項等
    2. サステナビリティ開示等の課題対応にあたって参考となる開示例集
  • 2024年3月期以降の事業年度に係る有価証券報告書レビューについて、以下の内容で実施するとされています。
1.法令改正関係審査
・2023年1月に施行された企業内容等の開示に関する内閣府令等の一部を改正する内閣府令(サステナビリティ、人的資本・多様性及びコーポレート・ガバナンスに関する開示についての改正)
・識別された課題に関連する開示項目(「従業員の状況」における女性管理職比率、「コーポレート・ガバナンスの状況等」における取締役会・監査役会等の活動状況と政策保有株式に関連した開示を含む)
2.重点テーマ審査
・サステナビリティに関する企業の取組の開示1
3.情報等活用審査
  • 原文については、金融庁のウェブサイトをご覧ください。
有価証券報告書の作成・提出に際しての留意事項(2024年3月期以降)
2024年3月期以降の事業年度に係る有価証券報告書の作成・提出に際しての留意事項は以下のとおりです。
有価証券報告書レビューの審査結果と審査結果を踏まえた留意すべき事項
2023年度有価証券報告書レビューでは、サステナビリティ、人的資本・多様性およびコーポレート・ガバナンスに関する開示についての改正を対象に法令改正関係審査を実施するとともに、サステナビリティに関する企業の取組の開示を重点テーマとした審査も行われ、当該審査結果が公表されています。審査の結果、改善の余地があると考えられる事項が識別され、これを踏まえて記載にあたって留意すべき事項が示されています。
(1)法令改正関係審査と重点テーマ審査の審査結果の概要
法令改正関係資産と重点テーマ審査の審査結果の概要として、以下の点が示されています。
・「サステナビリティに関する考え方及び取組」における人的資本や「コーポレート・ガバナンスの状況等」における取締役会等の活動状況等の開示に関連して、複数の会社に共通した課題が識別された。
・重点テーマ以外の記載項目についても適宜審査を行った結果、「コーポレート・ガバナンスの状況等」における政策保有株式に関する開示について課題が識別された。
(2)審査結果を踏まえた留意すべき事項等
(a)サステナビリティに関する企業の取組の開示
個別の留意事項として、以下の9つの主な課題が示され、具体的な留意事項等として法令等に準拠した開示を行うにあたって留意すべき事項(以下「留意すべき事項」という)と開示の充実に向けて参考になると考えられる事項(以下「参考になる事項」という)が示されています。また、それぞれの課題については、実際の開示例をもとにした課題のある事例も示されています(金融庁ウェブサイトに掲載の別紙1を参照)。
主な課題
留意事項等(抜粋)
① サステナビリティ関連のガバナンスに関する記載がない、または不明瞭である
留意すべき事項
  • サステナビリティ関連のリスクと機会を監視・管理するためのガバナンスの過程・統制・手続の内容を記載する。
参考になる事項
  • 執行・監督の両面から記載すると効果的である。
  • 取締役会等に関してだけではなく、監査役会等や内部監査部門に関しても併せて記載する。
  • 「コーポレート・ガバナンスの状況等」への参照方式を活用することによって開示を充実させる。
② サステナビリティ関連のリスクを識別・評価・管理するための過程に関する記載が不明瞭である
留意すべき事項
  • リスク管理では、サステナビリティ関連のリスクだけでなく、機会を識別・評価・管理するための過程も記載する。
参考になる事項
  • ISSBのS1基準では、サステナビリティ関連のリスクと機会を識別、評価、優先順位付けおよびモニタリングするためのプロセスが、企業の全体的なリスク管理プロセスにどのように統合されているかなどに関する情報の開示を求めており、参考になる。
③ サステナビリティ関連の機会を識別・評価・管理するための過程に関する記載がない
④ 戦略と指標・目標のうち、重要なものについて記載がない
留意すべき事項
  • 重要なものについて記載が求められる。
  • 重要性の判断にあたっては、「記述情報の開示に関する原則」2-2において「記述情報の開示の重要性は、投資家の投資判断にとって重要か否かにより判断すべきと考えられる」としていること等を参考にする。
参考になる事項
  • 重要性を判断した上で記載しない場合でも、当該判断やその根拠の開示を行うことが期待される。
  • 検討中や策定中等の理由により開示できない場合は、その旨を当連結会計年度末現在での取組状況として記載し、今後の取組予定も併せて記載する。
⑤ サステナビリティ関連のリスクと機会の記載がない、または不明瞭なため、サステナビリティに関する戦略と指標・目標に関する記載が不明瞭である
留意すべき事項
  • 戦略と指標・目標のうち、重要なものについて記載が求められる。
  • サステナビリティ関連のリスクと機会への対処の取組や当該リスクと機会に関する連結会社の実績を長期的に評価・管理・監視するために用いられる情報として、戦略と指標・目標が規定されていることに留意する。
参考になる事項
  • 投資者が戦略や指標・目標の内容を適切に理解できるよう、対応するサステナビリティ関連のリスクと機会も併せて記載する。
  • 財務的影響や指標などの定量情報を記載する場合、前提その他の補足情報(定義、算定方法、仮定等)も併せて記載する。
⑥ 人的資本(人材の多様性を含む)に関する方針・指標・目標・実績のいずれかの記載がない、または不明瞭である
留意すべき事項
  • 人材の多様性の確保を含む人材の育成に関する方針と社内環境整備に関する方針を戦略の項目で記載する。
  • 指標の内容と当該指標を用いた目標・実績を、指標・目標の項目で記載する。
  • これらの項目の記載が困難な場合、その旨と記載が困難な理由を記載する。
参考になる事項
  • 記載した方針と関連する指標・目標・実績は、対応関係を分かりやすく開示する。
  • 指標は、特に企業固有のものであるような場合、前提その他の補足情報(指標の定義、算定方法、仮定等)も併せて記載する。
⑦ 人的資本(人材の多様性を含む)に関する指標・目標・実績が連結会社ベースの記載になっていない
留意すべき事項
  • 基本的に、連結会社ベースの戦略と指標・目標を開示する。
  • 連結会社ベースの開示が困難な場合、その旨、連結会社ベースの開示が困難な理由、開示の対象とした範囲、当該範囲とした理由を記載する。
⑧ 「サステナビリティに関する考え方及び取組」に記載すべき事項を有価証券報告書内の他の箇所に記載して参照する場合において、記載上の不備がある
留意すべき事項
  • 「サステナビリティに関する考え方及び取組」に記載すべき事項を有価証券報告書の他の箇所に記載して省略する場合、「サステナビリティに関する考え方及び取組」に他の箇所に記載している旨を記載する。
  • 当該他の箇所において「サステナビリティに関する考え方及び取組」に記載すべき事項を適切に記載する必要がある。
⑨ 「サステナビリティに関する考え方及び取組」の記載事項について、公表した他の開示書類等に記載した情報を参照する場合において、記載上の不備がある
留意すべき事項
  • 有価証券報告書に記載する必要がある項目を記載した上で、当該記載事項を補完する詳細な情報について、公表した他の書類を参照する旨を記載できる。
参考になる事項
  • 有価証券報告書の記載内容を補完する詳細な情報は、将来公表予定の任意開示書類を参照することもある。
  • 将来公表予定の書類を参照する際は、公表予定時期や公表方法、記載予定の概要等も記載することが望ましい。
  • ISSBのS1基準では、サステナビリティ関連財務開示について、財務情報との結合性や、財務諸表と同じ報告期間を対象とすることが求められている。SSBJが策定する国内基準の内容も踏まえ、適切な情報開示に向けて検討していくことが重要である。
全般的事項としては、以下の点が開示の充実に向けて参考になると考えられるとされています。
① 開示の重要性
  • サステナビリティに関する企業の取組の開示にあたっては、投資者の投資判断にとって重要な情報の開示が求められる。重要性の判断にあたっては、「記述情報の開示に関する原則」2-2において、「その事柄が企業価値や業績等に与える影響度を考慮して判断することが望ましい」としていることを参考にする。
② ストーリー(文脈)を意識した開示
  • サステナビリティに関する企業の取組の開示にあたっては、投資者がストーリー(文脈)を理解できるように開示することが期待されるが、例えば、以下のような事項が参考になる。
    • サステナビリティ関連全体の考え方を記載した上で、ガバナンス、戦略、リスク管理、指標・目標の4つの構成要素について記載すると分かり易い。
    • 4つの構成要素は、サステナビリティ関連のリスクと機会に関連した取組であることから、各取組に関連するリスクと機会も併せて開示することが望ましい。4つの構成要素の繋がりについて分かり易く開示することが望ましい。
③ 検討中・策定中等の場合の開示
  • サステナビリティに関する取組の内容について、期末日現在において検討中・策定中等の場合、その旨を期末日現在における取組の状況として記載する。また、期末日現在での今後の取組の予定も併せて開示する。
④ 補足情報の開示
  • 企業独自の情報については、企業外部の投資者でも理解可能なように、前提その他の補足情報を併せて開示する。
⑤ 参照方式
  • 有価証券報告書内の他の箇所や他の開示書類等に記載した情報を参照する方式を活用して、開示を充実させる。
(b)従業員の状況とコーポレート・ガバナンスの状況等の開示
個別の留意事項として、以下の6つの主な課題と具体的な留意事項等が示されています。それぞれの課題については、実際の開示例をもとにした課題のある事例も示されています(金融庁のウェブサイトに掲載の別紙1を参照)。
主な課題
留意事項等(抜粋)
① 女性管理職比率を女性活躍推進法の「管理職」の定義に従って算定・開示していない
留意すべき事項
  • 「管理職」とは「課長級」と「課長級より上位の役職(役員を除く)」にある労働者の合計をいう。
  • 「課長級」とは、次のいずれかに該当する者を指す。
① 事業所で通常「課長」と呼ばれている者であって、その組織が2係以上からなる、または、その構成員が10人以上(課長含む)のものの長
② 同一事業所において、課長の他に、呼称、構成員に関係なく、その職務の内容と責任の程度が「課長級」に相当する者(ただし、一番下の職階ではない)
  • 「課長級」か否かは、まず上の①に該当するか判断し、該当しない場合、②に該当するか実態に即して事業主が判断する。
  • ただし、一般的に「課長代理」、「課長補佐」と呼ばれる者は、①、②の組織の長やそれに相当する者とは見なされない。
  • 「係長級」とは、「課長級」より下位の役職であって、(a)事業所で通常「係長」と呼ばれている者または(b)同一事業所においてその職務の内容と責任の程度が「係長」に相当する者を指す。これらの者を管理職に含めて女性管理職比率を算出しないよう留意する。
② 取締役会、会社が任意に設置する指名・報酬委員会、監査役会等の開催頻度、具体的な検討内容、出席状況等の記載がない
留意すべき事項
  • 開催頻度、具体的な検討内容、個々の役員の出席状況と常勤の監査役の活動について、それぞれ当該事業年度における実績を記載する。
  • 具体的な検討内容には、サステナビリティ関連の検討事項も含まれ得る。
③ 内部監査が取締役会に直接報告を行う仕組みの有無に関する記載がない
留意すべき事項
  • 内部監査の実効性を確保するための取組を記載する際には、内部監査部門が、取締役会に直接報告を行う仕組みの有無も記載する。
  • 関連る仕組みが無い場合、その旨を記載する。
④ 政策保有株式の銘柄ごとの保有目的が具体的に記載されていない
留意すべき事項
  • 保有目的等を具体的に記載する。
  • 銘柄ごとの定量的な保有効果(記載が困難な場合には、その旨と保有の合理性を検証した方法)を開示する。
参考になる事項
  • 保有方針が、例えば、主としてスタートアップ企業との協業を通じたシナジー効果の発揮にある場合、そのような全体的な保有方針を記載し、銘柄ごとの開示では、個別の協業の内容等について具体的に記載する。 
  • 全体的な保有方針との整合性を確認できるよう、非上場株式を含む政策保有株式のうちのスタートアップ銘柄の数や、当該スタートアップ企業との協業により見込まれるシナジー効果を記載することは、投資者の投資判断にとって有用である。
⑤ 政策保有株式縮減の方針を示しつつ、売却可能時期等について発行者と合意をしていない状態で純投資目的の株式に変更を行っており、実質的に政策保有株式を継続保有していることと差異がない状態になっている
参考になる事項
  • 左記のケースの場合、投資者に誤解を与える可能性もある。
  • このような場合、区分変更の理由の合理性や純投資目的の株式として継続保有することの合理性を検証し、その内容を「保有目的が純投資目的である投資株式と純投資目的以外の目的である投資株式の区分の基準や考え方」等と併せて開示する。
  • また、株式の売却制限(売却可能時期の制限を含む)がある場合には、その内容を開示する。
⑥ 政策保有株式縮減の方針を示しつつ、発行者から売却の合意を得た上で純投資目的の株式に区分変更したものの、実際には長期間売却に取り組む予定はなく、実質的に政策保有株式を継続保有していることと差異がない状態になっている
なお、上記の④に関連して、「スタートアップ銘柄の保有の意義と政策保有株式の開示」というコラムが含まれており、提出会社から確認した株式保有の考え方や取組等が紹介されています。
2.サステナビリティ開示等の課題対応にあたって参考となる開示例集
今後の提出会社による自主的な改善に資するよう、サステナビリティ開示等の課題対応にあたって参考となる開示例集が示されています。
有価証券報告書レビュー(2024年3月期以降)の実施
金融庁は、各財務局等と連携して、有価証券報告書レビューを実施しています。2024年度の有価証券報告書レビューは、以下の内容で実施されます。なお、過去の有価証券報告書レビューにおいて、フォローアップが必要と認められた会社についても、別途審査が実施されます。
1.法令改正関係審査
2024年3月期以降の事業年度に係る全ての有価証券報告書提出会社が対象となります。近年のサステナビリティに関する企業の取組の開示とコーポレート・ガバナンスに関する開示の改正、2023年度の審査において識別された課題の状況等を踏まえ、2024年度は以下の記載内容について審査が行われます。有価証券報告書提出会社は、金融庁ホームページの「調査票」に回答し、所管の財務局等に提出することが要請されています。
・2023年1月に施行された企業内容等の開示に関する内閣府令等の一部を改正する内閣府令(サステナビリティ、人的資本・多様性及びコーポレート・ガバナンスに関する開示についての改正)
・識別された課題に関連する開示項目(「従業員の状況」における女性管理職比率、「コーポレート・ガバナンスの状況等」における取締役会・監査役会等の活動状況と政策保有株式に関連した開示を含む)
2.重点テーマ審査
2023年度の審査において識別された課題の状況等を踏まえ、2024年度においても、以下のテーマに着目し、審査対象会社が選定されます。審査対象となる会社には、所管の財務局等から個別の質問状を送付するとされています。
・サステナビリティに関する企業の取組の開示
3.情報等活用審査
適時開示や報道、一般投資家等から提供された情報等を勘案し、審査対象会社が選定されます。審査対象となる会社には、所管の財務局等から個別の質問状を送付するとされています。
_______________________________________________________________
1 2023年1月に施行された企業内容等の開示に関する内閣府令等の一部を改正する内閣府令の適用にともない、有価証券報告書において開示される「サステナビリティに関する考え方及び取組」に関する記載内容について自主的な改善に資するよう審査が行われます。
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