日本基準トピックス 第490号
主旨
- 2023年11月20日、「金融商品取引法等の一部を改正する法律」が、第212回国会(臨時会)において可決され、2024年4月から四半期報告書制度を廃止することが決定されています。具体的には、上場企業等の第1・第3四半期報告書が廃止され、第2四半期報告書が半期報告書に変更されます。これにより、第1・第3四半期は四半期決算短信に「一本化」されることとなりました。
- 当該四半期決算短信への「一本化」に関して、東京証券取引所は、2023年6月に投資家、上場会社、学識経験者その他の市場関係者で構成される「四半期開示の見直しに関する実務検討会」を設置して検討を開始し、11月22日には「四半期開示の見直しに関する実務の方針」(以下、「実務の方針」という)を公表しました。
- さらに、東京証券取引所は、当該実務の方針等を踏まえて所要の上場制度の整備を行うとして、2023年12月18日に「金融商品取引法改正に伴う四半期開示の見直しに関する上場制度の見直し等について」(以下、「本見直し等」という)を公表しパブリック・コメントを募集したうえで、2024年3月28日に「金融商品取引法改正に伴う四半期開示の見直し等に係る有価証券上場規程等の一部改正について」(以下、「本上場規程等」という)を公表しました。
- 原文については、日本取引所グループのウェブサイト(実務の方針、本見直し等、本上場規程等)をご覧ください。
改正対象の規程等
本上場規程等では、有価証券上場規程を含む以下の規程を改正しています。
- 有価証券上場規程
- 特定上場有価証券に関する有価証券上場規程の特例
- 有価証券上場規程施行規則
- 上場審査等に関するガイドライン
- 上場管理等に関するガイドライン
- 特定上場有価証券に関する有価証券上場規程の特例の施行規則
また、
本見直し等のページにおいては、四半期財務諸表等の作成基準を含む以下の確定版が同時に公表されています。
- 四半期財務諸表等の作成基準
- 決算短信・四半期決算短信作成要領等
本上場規程等および本見直し等の概要
本上場規程等および本見直し等は、第1・第3四半期決算短信の開示事項や、公認会計士または監査法人によるレビューの取扱いを整備しています。なお、第2四半期(中間期)決算短信については、現在の取扱いを維持するとされています(ただし、財務諸表の名称は中間に変更)。
1.サマリー情報
サマリー情報については、基本的に現在の取扱いを維持して、所要の整備が行われています。
ただし、3で後述する通り、第1・第3四半期決算短信においては、四半期連結財務諸表に対する公認会計士または監査法人によるレビューの有無を記載することになります。
2. 四半期連結財務諸表
第1・第3四半期決算短信に添付される、四半期累計期間に係る四半期連結財務諸表(作成していない場合には四半期財務諸表、以下同様)では、少なくとも図表1の事項を開示します。四半期報告書が廃止されることに伴い最低限の開示を担保する観点から、「セグメント情報等の注記」および「キャッシュ・フローに関する注記」の開示が新たに義務付けられています。
なお、四半期連結キャッシュ・フロー計算書を任意で作成することもでき、この場合は「キャッシュ・フローに関する注記」は不要となります。
第1・第3四半期の取扱いを定めた「
四半期財務諸表等の作成基準」4条1項においては、四半期財務諸表等および注記は企業会計基準委員会が定める「四半期財務諸表に関する会計基準」に準拠して作成するとしており、同4条2項で図表1に相当するもの以外の記載を省略できるとしています。また、「
決算短信・四半期決算短信作成要領等」63頁以降で図表1の各項目のより詳しい説明が行われています。
(図表1) 四半期決算短信に添付される四半期連結財務諸表の内容(日本基準の場合(注1))
第1・第3四半期決算短信 | (参考) 第2四半期(中間期)決算短信 |
- 四半期連結貸借対照表
- 四半期累計期間に係る四半期連結損益計算書および四半期連結包括利益計算書(注2)
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- 中間連結貸借対照表
- 中間会計期間に係る中間連結損益計算書および中間連結包括利益計算書
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- 継続企業の前提に関する注記
- 株主資本の金額に著しい変動があった場合の注記(注3)
- 会計方針の変更、会計上の見積りの変更、修正再表示に関する注記
- 四半期特有の会計処理に関する注記
- セグメント情報等の注記
- キャッシュ・フローに関する注記(注4) (四半期連結キャッシュ・フロー計算書を任意で作成する場合を除く)
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- 継続企業の前提に関する注記
- 株主資本の金額に著しい変動があった場合の注記(注5)
- 会計方針の変更、会計上の見積りの変更、修正再表示に関する注記
- 中間特有の会計処理に関する注記
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(注1) IFRS適用会社および米国基準適用会社も基本的に同様(セグメント情報の注記やキャッシュ・フローに関する注記を含む)。詳細は、「
決算短信・四半期決算短信作成要領等」63頁以降を参照。
(注2) IFRS適用会社において、「
四半期財務諸表等の作成基準」5条1項または2項に準拠して四半期財務諸表を作成する場合は、IAS第34号「期中財務報告」に準拠することになるため四半期累計期間だけではなく四半期会計期間(3か月情報)の開示が必要となる。しかし、同5条5項に準拠する場合(上記図表1に相当するもの以外の記載を省略できる取扱いを適用する場合)は、四半期累計期間のみを開示すれば足り、四半期会計期間(3か月情報)の開示は省略できる。また、同5条5項に準拠する場合は、「国際会計基準に準拠して四半期(連結)財務諸表を作成している旨の注記」は省略できる。本見直し等の「
提出された意見とそれに対する考え方」28および33を参照。
(注3) IFRS適用会社および米国基準適用会社が持分変動計算書等を作成し開示する場合、当該注記は不要。
(注4) 期首からの累計期間に係る有形固定資産およびのれんを除く無形固定資産の減価償却費およびのれんの償却額(負ののれんの償却額を含む)について記載。
(注5) 特定事業会社(銀行、保険会社および信用金庫等)やIFRS適用会社においては、中間連結株主資本等変動計算書や中間持分変動計算書を作成する。他方で、株主資本の金額に著しい変動があった場合の注記は不要。
また、決算短信においては、財務諸表やその他の情報として開示が義務付けられる事項以外についても、原則として、上場会社が投資者ニーズを適切に把握し、投資判断に有用な情報を積極的に開示することが推奨されています。
3.公認会計士または監査法人によるレビュー
第1・第3四半期決算短信において、四半期連結財務諸表に対する公認会計士または監査法人によるレビューを受けることは原則として任意とされています。
ただし、直近の有価証券報告書、半期報告書または四半期決算短信において、無限定適正意見(無限定の結論)以外の監査意見(期中レビューの結論)が付された場合や、直近の内部統制報告書において、内部統制に開示すべき重要な不備がある場合等、一定の要件に該当する場合はレビューを受けることが義務とされます。
これらに伴い、第1・第3四半期決算短信のサマリー情報においては、四半期連結財務諸表に対する公認会計士または監査法人によるレビューの有無(義務のレビューと任意のレビューを区別)を記載することになります。
なお、第2四半期については、半期報告書に含まれる中間連結財務諸表がレビュー対象となるため、決算短信はレビューの対象外です。
4.経営成績等の概況
第1・第3四半期決算短信に添付される「経営成績等の概況」においては、当四半期連結累計期間の経営成績等の概況の記載が求められます。なお、四半期決算短信において記載をせず、四半期決算の補足説明資料等において開示する方法も認められており、この場合には、当該資料を参照すべき旨およびその参照方法を記載します。
5.第1・第3四半期決算短信の開示タイミング
第1・第3四半期決算短信は、決算の内容(開示が義務付けられる事項および投資判断に有用な情報として開示する事項)が定まったときに開示を行います。ただし、各四半期終了後45日を超える場合は直ちにその理由等の開示が必要となります。
四半期財務諸表のレビューを任意で受ける場合、「決算の内容が定まったとき」として短信を開示する時期は、各上場会社において判断することとされています。すなわち、レビューの完了前に決算の内容が定まったと判断する場合は短信を開示し、レビュー報告書は後日開示するのに対し、短信に一本化されることを踏まえて、レビューが完了した時点を決算の内容が定まったときと判断して短信を開示することでも差し支えないとされています。
レビューを義務で受ける場合については、信頼性の観点からレビューを義務付けている趣旨に鑑み、レビューが完了次第、短信を開示することが原則とされています。
なお、第2四半期(中間期)決算短信については従来通り、決算の内容が定まったときに、また遅くとも半期報告書の提出までには開示を行います。
6.適用時期
本上場規程等および本見直し等のうち、四半期開示の見直しに関する事項は、改正金融商品取引法の施行日(2024年4月1日)以後に開始する第1・第3四半期会計期間に係る決算短信から適用されます。
なお、四半期報告書制度の廃止に関する動向については、以下の日本基準トピックスも参照ください。