【関連リンク】
本資料は、2017年12月31日以後に終了する報告期間について解説しており、In brief INT2017-01「2016年12月31日現在の超インフレ経済」に置き換わるアップデート版です。 |
論点
IAS第29号「超インフレ経済下における財務報告」
国際会計基準(IAS)第29号「超インフレ経済下における財務報告」第4項は、超インフレ経済の存在を認識した期間の期首から当該基準を適用することを要求しています。
本資料は2017年12月31日現在で超インフレ経済である国のほか、当該日現在では超インフレ経済になるとは予想されないものの2018年に動向を注視すべき国を取り上げています。本資料の中で引用する定量的データは、国際通貨基金(IMF)のデータ(「世界経済見通し 2017年10月」)に基づいています。
影響
2017年度における超インフレ経済の国および2018年度に動向を注視すべき国
以下のいずれかの国の通貨を機能通貨とする企業は、2017年度の報告でIAS第29号を適用しなければなりません。
- 南スーダン共和国
- スリナム
- シリア・アラブ共和国
- ベネズエラ
- アンゴラ
以下の国は2017年度において超インフレ経済ではありませんでしたが、2018年度は動向を注視する必要があります。
考察
南スーダン共和国
IMFのデータによると、南スーダン共和国では2017年12月31日までの3年間の累積インフレ率が100%を大幅に超えており、以後の年度においても100%を大幅に超える状態が続くと見込まれます。南スーダン共和国は、2017年度も引き続き超インフレ経済となります。機能通貨が南スーダン共和国の通貨である企業は、2017年度も引き続きIAS第29号を適用しなければなりません。
スリナム
IMFのデータによると、スリナムでは2017年12月31日までの3年間の累積インフレ率が100%を超えており、2017年度も引き続き超インフレ経済となります。機能通貨がスリナムの通貨である企業は、2017年度も引き続きIAS第29号を適用しなければなりません。
シリア・アラブ共和国
シリア経済に関する信頼性のあるインフレデータは存在しませんが、この国の状況は前年度から変化していません。欧州連合(EU)と国際連合(UN)は依然として貿易制裁を課しています。入手可能な情報によると、シリアは2017年度も依然として超インフレ経済であることが示されています。機能通貨がシリア・アラブ共和国の通貨である企業は、2017年度も引き続きIAS第29号を適用しなければなりません。
ベネズエラ
ベネズエラは2009年度に超インフレ経済になりました。IMFのデータによると、ベネズエラでは2017年12月31日までの3年間の累積インフレ率が100%を大幅に超えており、以後の年度においてもさらなるインフレ率の上昇が見込まれます。ベネズエラは2017年度も依然として超インフレ経済となります。機能通貨がベネズエラの通貨である企業は、2017年度も引き続きIAS第29号を適用しなければなりません。
アンゴラ
IMFのデータによると、アンゴラでは3年間の累積インフレ率が100%をわずかに超えており、2018年度も依然として100%を超えることが見込まれます。現地のインフレデータは、2017年度および2018年度に関するIMFの予測と整合しています。定性的指標は、強弱混在していますが、アンゴラが超インフレ経済であることを示しています。アンゴラは2017年度において超インフレ経済とみなされるべきです。したがって、機能通貨がアンゴラのクワンザである企業は、2017年度においてIAS第29号を適用しなければなりません。IAS第29号は、その経済が常に超インフレであったものと仮定して適用しなければなりません。
IAS第29号は、機能通貨が超インフレ経済国の通貨である企業の財務諸表は、報告期間の末日現在の購買力を反映するように修正再表示することを要求しています。したがって、2017年における取引および当該年度末における非貨幣性残高は、2017年度の貸借対照表日時点の物価指数を反映するように修正再表示しなければなりません。
比較財務諸表および表示する最も古い期間の期首時点での開始財政状態計算書についてもまた、2017年度の貸借対照表日時点の物価指数を反映するように修正再表示しなければなりません。
IAS第21号「外国為替レート変動の影響」第43項は、機能通貨が超インフレ経済国の通貨である子会社の財務諸表を連結財務諸表に含める前に、IAS第29号に従い修正再表示することを要求しています。安定した通貨において過去に表示された比較金額は修正再表示されません。
アルゼンチン
アルゼンチンにおけるインフレは、数年にわたり高い水準となっています。また現地のインフレデータは首尾一貫した報告を行っていません。3年間の累積インフレ率は、(使用する指標によっては)100%をわずかに超える可能性がありますが、下落傾向にあります(2017年度のインフレ率は2016年度のインフレ率を下回っています)。定性的指標は強弱混在していますが、アルゼンチンが超インフレ経済であることを示していません。国の卸売物価指数(測定期間を通じて唯一首尾一貫して報告が行われる指標)によると、3年間の累積インフレ率は引き続き100%を下回り、2017年12月31日現在では80%程度になると予想されます。
一貫性のないデータ、インフレ率の下落、強弱混在する定性的指標などを合わせると、アルゼンチンの状況は前年度から実質的に変わっておらず、アルゼンチンが2017年度において超インフレ経済であると結論づけるには証拠が不十分であることを示唆しています。したがって、機能通貨がアルゼンチンの通貨である企業は、2017年度にIAS第29号を適用すべきではありませんが、2018年度においてはインフレに注視する必要があります。
スーダン
スーダンは2013年度に超インフレ経済となりました。2016年までの3年間の累積インフレ率は2016年度末時点で100%を下回り、以後も100%を下回ると予想されることから、2016年度において同国は超インフレ経済ではなくなりました。2017年のIMFデータによると、3年間の累積インフレ率は2016年度のインフレ率を下回ると見込まれており、2018年度においても引き続き100%を下回ると予想されます。しかし、スーダンにおけるインフレはなお不安定で、予測は困難です。したがって、機能通貨がスーダンの通貨である企業は、2017年度にIAS第29号を適用すべきではありませんが、2018年度においてはインフレに注視する必要があります。
リビア
IMFのデータによると、3年間の累積インフレ率は100%をわずかに超え、2016年度のインフレ率と比べてかなりの増加(40%超)がみられます。現地のデータは、IMFのデータよりも低いインフレ率を示しており、定性的指標は強弱混在しています。IMFのデータと現地のデータに整合性がないことは、機能通貨がリビアの通貨である企業は、2017年度にIAS第29号を適用すべきではないことを示唆しています。これらの企業は2018年度においてインフレに注視する必要があります。
コンゴ民主共和国
IMFのデータによると、3年間の累積インフレ率は100%を下回るものの、急激に上昇しています。2017年度には3年間の累積インフレ率が60%超上昇しています。定性的指標は明確ではないものの、いくつかの超インフレ経済の兆候を示しています。しかしながら、現地のインフレデータとIMFデータはともに、2017年度までの3年間の累積インフレ率が100%を下回ると予想しています。機能通貨がコンゴ民主共和国の通貨である企業は、2017年度にIAS第29号を適用すべきではありませんが、2018年度においてはインフレに注視する必要があります。