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EONIAの改革に関連して、一部のユーロ建有担保デリバティブの担保に係る支払金利の低下が予想されています。未決済デリバティブの公正価値への影響は、一時払いの補償金によって補償されます。本In briefでは、以下の両方について、会計上の影響を解説します。
(a) 補償金:企業は、純利得または純損失が生じないように、デリバティブの公正価値に補償金を計上することができる。
(b) 影響を受けるヘッジ関係:この変更により、特定の事実および状況に応じて、変更時または一定期間にわたって追加の非有効部分が生じる。
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論点
2019年下半期にEONIAの算出方法が修正されました。EONIAは、2021年12月31日に終了する移行期間の間は€STRに8.5bpsの固定スプレッドを加えたものであると再定義されました。今後、EONIAの公表が中止され、€STRに移行することが予想されます。しかしながら、現時点(2020年1月)では、移行の正確な詳細について依然として不確実性があります。
EONIAから€STRへの移行によって、一部のユーロ建有担保付デリバティブの現金担保に係る支払金利の変更(€STR+8.5bpsの固定スプレッドから€STRフラットへの変更)が予想されています(2020年の実施が見込まれています)1 。有担保デリバティブを公正価値評価する場合、標準的な市場慣行では、担保に係る支払金利を反映した割引率を使用します。そのため、現金担保に係る支払金利の変更は、基礎となるデリバティブの公正価値に影響を与えます。この影響を補償するため、金利変更日に当事者間で補償金の一時払いが行われると予想されています。
本In briefでは、上記の会計処理について、特に以下の点を検討します。
- 一時払いの補償金
- EONIAを参照する既存のヘッジ関係に与える影響(特に、変更の影響を受けるデリバティブがヘッジ関係の一部である場合)
設例
A銀行は、デリバティブのポートフォリオを中央清算機関との間で保有しています。デリバティブは変動証拠金を担保と見て(すなわち、担保はデリバティブとは別個に会計処理されて)2おり、現金担保契約の対象となります。2019年12月31日現在、担保はEONIAに基づいて補償されます。EONIAは、2019年の改革を前提にすると、€STR+8.5bpsの固定スプレッドとなります。2020年半ばに、中央清算機関は金利をEONIA(すなわち€STR+8.5bps)から€STRフラットに変更し、変更日時点の未決済のデリバティブについて補償金を支払う予定です。補償金は、担保の金利の変更がデリバティブの公正価値に与える影響を相殺することになります。
一時払いの補償金はデリバティブと担保のどちらに関連するか、当該補償金は過去の報告日におけるデリバティブの公正価値に影響を与えるか
一時払いの補償金は、担保に係る金利の変更の結果として生じるデリバティブの公正価値の変動について、デリバティブの保有者を補償するものであるため、デリバティブに関連します。そのため、A銀行は、一時払いの補償金を(将来に向かって配分するのではなく)デリバティブの公正価値に対して計上することができます。これは、一時払いの補償金が公正価値の変動を補償する範囲まで、支払時にデリバティブに係る純利得または純損失が生じません。このアプローチと整合的に、一時払いの補償金がその発生時に担保に係る金利の変更による公正価値への影響を補償する限りにおいて、一時払いの補償金が、変更前の報告日現在(2019年12月31日を含む)の国際財務報告基準(IFRS)第13号に基づくデリバティブの公正価値に影響するとPwCは考えていません。
ヘッジ会計を適用する場合、ヘッジ対象の測定に影響があるとすればどのような影響があるか、また非有効部分は生じるか 3
補償金はデリバティブのヘッジ手段に支払われますがヘッジ対象には支払われないため、特定の事実および状況に応じて、変更時または一定期間にわたって非有効部分が生じます。影響する時期は、ヘッジ対象の公正価値の変動を計算するために使用する割引率を変更するかどうかによって異なり、キャッシュ・フロー・ヘッジと公正価値ヘッジについては区別して考慮しなければなりません。
キャッシュ・フロー・ヘッジ-仮想デリバティブの公正価値を計算するために使用する割引率を変更すべきか
これは、ヘッジ文書において、割引率を金利の変更の影響を受ける特定のリスク・フリー・レートと指定しているかどうかによって異なります。
例えば、ヘッジ文書において、割引率を「同等の有担保デリバティブに支払われる金利で測定されるリスク・フリー・レート」と指定している場合、仮想デリバティブの公正価値を計算するために使用する割引率を更新する必要があります。その結果生じる利得または損失は補償金によって相殺されず、変更時に一回限りの非有効部分が生じることになるため、これを損益計算書に認識する必要があります(キャッシュ・フロー・ヘッジの通常の「より低い方」のテストの対象となります)。
逆に、ヘッジ文書において特定の割引率を指定していない(しかし、例えば、「リスク・フリー・レート」とのみ言及している)場合、企業は割引率を更新するかどうかを決定する際に判断を用いる必要があるでしょう。経営者は、同様の状況(例えば、市場が、LIBORに基づく金利を用いた有担保デリバティブの割引から翌日物金利スワップ(OIS)に基づく金利を用いた割引に移行した場合)における過去の慣行を考慮する必要があります。割引率が更新されない場合には、その結果として非有効部分が生じ、一定の期間にわたって認識されます(キャッシュ・フロー・ヘッジの通常の「より低い方」のテストの対象となります)。
公正価値ヘッジ-ヘッジされたリスクに起因するヘッジ対象の公正価値の変動を計算する際に使用する割引率を変更すべきか
公正価値ヘッジに対しては、ヘッジ文書に従うか、ヘッジ文書において特定の割引率を指定していない場合に判断を行使するかという点と同様の検討を行います。しかし、企業は、ヘッジ対象の価値の変動はヘッジ手段とは別個に決定されるものの、その目的は、ヘッジされたリスクに起因するヘッジ対象の公正価値の変動を市場参加者の仮定を用いて測定することであることを念頭においておかなければなりません。_______________________________________________________________