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論点
2024年4月公表の国際通貨基金(IMF)の「世界経済見通し」(WEO)では、インフレの現在の水準および予測される水準についてアップデートされたデータが提供されています。2023年10月に提供されたアップデートからの最も大きな変化は、以下に関連するものです。
- エジプト、ラオス、およびマラウイ(2024年末までに、超インフレ経済になると予想される)
- 南スーダン(2024年において、引き続き超インフレ経済であると予想される)
- イエメン(2024年6月30日から、もはや超インフレ経済とはみなされない)
誰にどのような影響があるか
超インフレ経済の国
IMFの「世界経済見通し」によれば、2024年6月現在、機能通貨が以下のいずれかの国の通貨である企業は、IAS第29号「超インフレ経済下における財務報告」を適用する必要があることが示されています。
- アルゼンチン
- エチオピア
- ガーナ
- ハイチ
- イラン
- レバノン1
- シエラレオネ
- 南スーダン(2024年にアップデート)
- スーダン
- スリナム
- トルコ
- ベネズエラ
- ジンバブエ
2023年に超インフレ経済であった全ての国は、2024年も引き続き超インフレ経済です(ただし、2024年6月からもはや超インフレ経済でなくなるイエメンを除く)。上記の経済の3年間の予想累積インフレ率は、2024年中も引き続き100%を超えると見込まれています。
南スーダン
2023年10月公表のIMFの「世界経済見通し」では、南スーダンのインフレは2023年と2024年に大幅に下落すると予想され、PwCのIn brief INT2023-09「2023年12月31日現在の超インフレ経済」(和訳は
こちら)では、IAS第29号の適用を中止する前に、企業は重大な事象または状況を考慮しなければならないと述べていました。そこからインフレ率のデータに著しい変化があり、2024年4月公表の「世界経済見通し」によると、3年間の累積インフレ率は2024年には137%、2025年には198%へと大幅に上昇する見込みであることが示されています。したがって、機能通貨が南スーダンの通貨である企業は、2024年も引き続き超インフレ経済であると見込まれ、2024年もIAS第29号の適用を継続しなければなりません。
もはや超インフレ経済ではない国
イエメン
IMFの「世界経済見通し」では、3年間の累積インフレ率は2023年には47%でしたが、2024年には17%に下落し、2025年には再び39%まで上昇する見込みであることが示されています。上記に基づき、機能通貨がイエメンの通貨である企業は、2024年6月30日に終了する報告期間においてIAS第29号の適用を中止しなければなりません。
2024年末に超インフレ経済になることが見込まれる国
IMFの「世界経済見通し」によれば、機能通貨が以下のいずれかの国の通貨である企業は、2024年末までにIAS第29号を適用する準備をしなければならないことが示されています。
- エジプト(2024年、新規)
- ラオス(2024年、新規)
- マラウイ(2024年、新規)
エジプト
IMFの「世界経済見通し」では、3年間の累積インフレ率は2024年に103%、2025年に107%まで上昇する見込みであることが示されています。エジプト中央銀行が公表した現地の実績データは、この結論を裏付けています。しかし、企業は、現時点から2024年末までの間にこの結論と矛盾する可能性のある重大な事象または状況が生じた場合には、それを考慮しなければなりません。これには、2024年9月以降に新たに公表されるIMF の「世界経済見通し」が含まれます。したがって、機能通貨がエジプトの通貨である企業は、2024年12月31日以後に終了する報告期間についてIAS第29号の適用を開始する準備をしなければなりません。
ラオス
IMFの「世界経済見通し」では、3年間の累積インフレ率は2024年には105%まで上昇する見込みであることが示されており、ラオスが超インフレ経済であることを裏付けています。ラオス中央銀行が公表した現地のデータは、この結論を裏付けています。しかし、「世界経済見通し」によれば、3年間の累積インフレ率は2025年には64%まで下落すると予測されています。企業は、現時点から2024年末までの間にラオスが超インフレ経済であるというこの結論と矛盾する可能性のある重大な事象または状況が生じた場合には、それを考慮しなければなりません。これには、2024年10月に新たに公表されるIMFの「世界経済見通し」が含まれます。しかし、2024年12月31日以後に終了する報告期間についてIAS第29号を適用する準備をしなければなりません。
マラウイ
IMFの「世界経済見通し」では、3年間の累積インフレ率は2024年に108%まで上昇する見込みであることが示されており、マラウイが超インフレ経済であることを裏付けています。機能通貨がマラウイの通貨である企業は、2024年12月31日以後に終了する報告期間にIAS第29号の適用を開始しなければなりません。しかし、「世界経済見通し」によれば、3年間の累積インフレ率は2025年に82%まで下落すると予測されています。企業は、現時点から2024年末までの間にマラウイが超インフレ経済であるという結論と矛盾する可能性のある重大な事象または状況が生じた場合には、それを考慮しなければなりません。これには、2024年10月に新たに公表されるIMFの「世界経済見通し」が含まれます。しかし、2024年12月31日以後に終了する報告期間についてIAS第29号を適用する準備をしなければなりません。
2024年および2025年において動向を注視すべき国
以下の経済は超インフレ経済ではありませんが、2024年および2025年において動向を注視する必要があります。
- ブルンジ(2024年、新規)
- ナイジェリア
- パキスタン
- スリランカ
ブルンジ
2024年4月公表のIMFの「世界経済見通し」では、3年間の累積インフレ率は2024年には87%(2025年には74%)に上昇する見込みであることが示されています。この予測では、ブルンジが翌年に超インフレ経済になるとは見込まれていませんが、インフレ率は引き続き高水準で推移しています。機能通貨がブルンジの通貨である企業は、2024年および2025年のインフレの動向を注視する必要があります。
スリランカ
2024年4月公表のIMFの「世界経済見通し」では、2023年以降、信頼性のあるデータが入手できないことが示されています。しかし、スリランカ中央銀行が公表した現地のデータによれば、2023年にインフレ率は前年比で大幅に下落しており、2024年第1四半期中も安定していました。スリランカは、現時点では超インフレ経済とはみなされていませんが、機能通貨がスリランカの通貨である企業は、2024年および2025年のインフレの動向を慎重に注視する必要があります。
超インフレ経済である可能性のあるその他の国(信頼性のある情報の欠如)
以下の国については、一貫した信頼性のあるインフレのデータが入手できない状況となっています。
- アフガニスタン
- エリトリア
- シリア・アラブ共和国
- ヨルダン川西岸地区およびガザ地区(2024年、新規)
機能通貨がこれらの国の通貨である企業は、IAS第29号を適用すべきかどうかを決定するために報告日時点で入手可能な情報を検討する必要があります。
適用日
IAS第29号第4項は、超インフレ経済国の通貨で報告する全ての企業が、同一の日付からIAS第29号を適用することが望ましいと述べています。また、経済が常に超インフレ経済であったかのようにIAS第29号を適用する必要があります。
1 現在IMFはインフレ予測を公表していません。しかし、IMFは2022年12月に3年間の累積インフレ率の実績を公表しており、当該データでは3年間の累積インフレ率は1,671%となっていました。