日本基準トピックス 第461号
主旨
- 2023年3月期以降の事業年度に係る有価証券報告書レビューについて、以下の内容で実施するとされています。
法令改正関係審査
2023年1月に施行された企業内容等の開示に関する内閣府令等の一部を改正する内閣府令
重点テーマ審査
サステナビリティに関する企業の取組みの開示2
情報等活用審査
原文については、
金融庁のウェブサイトをご覧ください。
有価証券報告書の作成・提出に際しての留意事項(2023年3月期以降)
2023年3月期以降の事業年度に係る有価証券報告書の作成・提出に際しての留意事項は以下のとおりです。
1.新たに適用となる開示制度に係る留意すべき事項
2023年3月期以降に適用される開示制度に係る公表・改正のうち、主なものは以下のとおりです。
・2023年1月に施行された企業内容等の開示に関する内閣府令等の一部を改正する内閣府令1
2.有価証券報告書レビューの審査結果及び審査結果を踏まえた留意すべき事項
2022年度有価証券報告書レビューの審査結果が公表されています。審査の結果、改善の余地があると考えられる事項が識別され、これを踏まえて記載にあたって留意すべき事項が示されています。
(1)法令改正関係審査
(a) 「収益認識に関する会計基準」の公表を踏まえた財務諸表等規則等の改正
「収益認識に関する会計基準」の公表を踏まえた財務諸表等規則等の改正に関して、財務諸表等規則等の規定への準拠性(開示の漏れや誤り等の有無)について審査が行われました。審査の結果、全体として財務諸表等規則等の規定に準拠した記載が行われていることを確認したとの結果が示されています。なお、重点テーマ審査において識別された事項については、後述の(2)(a)「収益認識に関する会計基準」を参照ください。
(b)「時価の算定に関する会計基準」、「棚卸資産の評価に関する会計基準」の改正、および「金融商品に関する会計基準」の改正(以下、「時価の算定に関する会計基準等」)の公表を踏まえた財務諸表等規則等の改正
「時価の算定に関する会計基準等」の公表を踏まえた財務諸表等規則等の改正に関して、記載内容の審査が行われました。審査の結果、複数の提出会社に共通して以下の課題が識別されました。
金融商品のレベル別開示において、「時価で連結貸借対照表に計上している金融商品」として記載するべき金融商品を誤って「時価で連結貸借対照表に計上している金融商品以外の金融商品」として開示、もしくは、その逆の開示
<具体例>
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上記を受け、留意すべき事項として以下の点が示されています。
<留意すべき事項>
(2)重点テーマ審査
(a)収益認識に関する会計基準
提出会社から審査対象会社を選定し、「収益認識に関する会計基準」に関する記載事項について、形式的な記載の有無に留まらず、会計処理方法の適切性や開示目的に照らして財務諸表利用者に十分な情報が開示されているか否かについても審査が行われました。
審査の結果、「収益認識に関する会計基準」に関する会計処理方法について、全体として適切に行われていることが確認された一方、「収益認識に関する会計基準」に関する開示について、主に開示目的に照らした十分性の観点から、複数の審査対象会社に共通した課題が識別されています。
審査の結果を踏まえて、全般的な留意事項として以下の点が示されています。
<全般的な留意事項>
① 開示の重要性に関する適切な判断
収益認識に関する注記の開示目的は、顧客との契約から生じる収益およびキャッシュ・フローの性質、金額、時期および不確実性を財務諸表利用者が理解できるようにするための十分な情報を企業が開示することである。 収益認識に関する注記事項を作成するにあたり、どの注記事項にどの程度の重点を置くべきか、どの程度詳細に記載するかについては、開示目的に照らして企業が適切に判断することとされている。 開示目的に照らして、重要性が乏しいと考えられる注記事項については省略できる一方、重要性があると考えられる注記事項については詳細に記載することが期待される。 審査の結果、開示目的に照らすと重要性があると考えられる注記事項について、重要性が乏しいと判断し、詳細に記載していない事例が見受けられた。 開示目的に照らして、開示の重要性に関する判断を適切に行うことに留意する。
② 一貫性のある明瞭な開示
収益認識に関する会計基準に基づく開示は、通常、重要な会計方針注記および収益認識関係注記において記載され、有価証券報告書の他の記載項目(セグメント情報等の注記、事業の内容、経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析等)とも関係する。 審査の結果、重要な会計方針注記と収益認識関係注記との関係性や有価証券報告書の他の記載項目との関係性がわかりづらい開示となっている事例が見受けられた。 財務諸表利用者が容易に理解できるように一貫性のある明瞭な開示を行うことに留意する。
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また、個別の留意事項として以下の9つの主な課題と改善の方向性が示されています。
なお、それぞれの課題について、実際の開示例をもとにした課題のある事例と改善のイメージが併せて示されているため、詳細については金融庁のウェブサイトに掲載の
別紙1をご覧ください。
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主要な事業における主な履行義務の内容や履行義務の充足時点の記載が抽象的である
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履行義務の内容等と収益の分解情報やセグメント情報等との関係性が不明瞭である
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重要性等に関する代替的な取扱い(出荷基準等)を適用したにもかかわらず、その旨の記載がない
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一時点で充足される履行義務について、財又はサービスの支配を顧客が獲得した時点を評価する際に行った重要な判断の記載がない
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一定の期間にわたり充足する履行義務について、収益を認識するために使用した方法および当該方法が財又はサービスの移転の忠実な描写となる根拠の記載がない
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一定の期間にわたり充足する履行義務については、以下についても記載する。
(a) 収益を認識するために使用した方法(インプット法またはアウトプット法など進捗度の具体的な測定方法)
(b) 当該方法が財又はサービスの移転の忠実な描写となる根拠(進捗度を測定する方法として何故その方法が適切と判断したのか)
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不動産賃貸収入などのリース収益を顧客との契約から生じる収益に含めて開示している
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単一セグメントであることや履行義務の充足時点が全て一時点であることのみを理由として、収益の分解を行っていない
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「収益認識に関する会計基準の適用指針」第106-4項および第106-5項を踏まえて、収益の分解の区分方法について慎重な検討を行う必要がある。 例えば、単一セグメントであっても、経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析において、主要な製品別の分析を開示している場合、同じ区分で分解することなどを検討する。 検討の結果、収益を分解すべきものがなかったとしても、上記の適用指針に従って適切な検討を行ったことがわかる内容の開示が望ましい。
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契約資産と契約負債の内容の説明がなく、履行義務の充足の時期と通常の支払時期が契約資産と契約負債の残高に与える影響に関する記載がない
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実務上の便法を適用し、残存履行義務に配分した取引価格の総額等の開示を省略したにもかかわらず、その旨の記載がない
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履行義務が当初に予想される契約期間が1年以内の契約の一部である場合など一定の条件を満たす場合には残存履行義務に配分した取引価格の総額等の開示を省略できるが、その場合には、その旨(どの条件に該当するか、および当該注記に含めていない履行義務の内容)を開示する必要がある。 経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析において、受注残高を開示していることを理由に、残存履行義務に配分した取引価格の開示を省略できないことに留意する。
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(b)重点テーマ以外の主な項目
重点テーマ審査の審査対象会社に対しては、重点テーマ以外の有価証券報告書の記載項目についても適宜質問を実施しています。比較的多くの会社で識別された主な課題は以下のとおりです。有価証券報告書を作成する際には、これらについても留意が必要です。
<主な課題>
第4 提出会社の状況等 4 コーポレートガバナンスの状況等 (5)株式の保有状況
第5 経理の状況 1 連結財務諸表等 連結貸借対照表
≪年金資産に関する表示の誤り≫
連結貸借対照表において、本来、年金資産(退職給付に係る資産)と退職給付債務(退職給付に係る負債)を相殺せずに表示するべきであったにもかかわらず、相殺されて表示されている事例があった。
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第5 経理の状況 1 連結財務諸表等 注記事項 (連結包括利益計算書関係)(退職給付関係)
≪退職給付に係る調整額に関する開示誤り≫
退職給付に係る調整額(その他の包括利益)は、連結包括利益計算書注記および退職給付関係注記において開示される(包括利益の表示に関する会計基準第31項(4)、退職給付に関する会計基準第30項(3)~(8))。 退職給付関係注記における①数理計算上の差異の発生額と費用処理額および②過去勤務費用の発生額と費用処理額が、連結包括利益計算書関係注記における退職給付に係る調整額(当期発生額と組替調整額)と整合していない事例があった。
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第5 経理の状況 1.連結財務諸表等 注記事項 (セグメント情報等)
≪特定の国別情報の記載漏れ≫
特定の国の売上高が連結損益計算書の売上高の10%以上である場合には、当該国の売上高(①)、また、特定の国の有形固定資産の残高が連結貸借対照表の有形固定資産の残高の10%以上である場合には、当該国の有形固定資産の残高(②)を開示する必要がある(セグメント情報等の開示に関する会計基準第31項、同適用指針第16項)。 ①または②の記載が漏れている事例があった。(例:北米の売上高は開示されているが、アメリカ合衆国の売上高が単独で連結損益計算書の売上高の10%以上であったにもかかわらず、開示されていない。)
≪主要な顧客に関する匿名開示≫
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それぞれの詳細は、金融庁のウェブサイトに掲載の
別紙1をご覧ください。
有価証券報告書レビュー(2023月3月期以降)の実施
金融庁は、各財務局等と連携して、有価証券報告書レビューを実施しています。2023年度の有価証券報告書レビューについては、以下の内容で実施されます。なお、過去の有価証券報告書レビューにおいて、フォローアップが必要と認められた会社についても、別途審査が実施されます。
1.法令改正関係審査
2023年3月期以降の事業年度に係る全ての有価証券報告書提出会社が対象となります。以下の改正について、記載内容の審査が行われます。有価証券報告書提出会社は、金融庁ホームページの
「調査票」に回答し、所管の財務局等に提出することが要請されています。
・2023年1月に施行された企業内容等の開示に関する内閣府令等の一部を改正する内閣府令
2.重点テーマ審査
以下のテーマに着目し、審査対象会社が選定されます。審査対象となる会社には、所管の財務局等から個別の質問状を送付するとされています。
・サステナビリティに関する企業の取組みの開示
3.情報等活用審査
適時開示や報道、一般投資家等から提供された情報等を勘案し、審査対象会社が選定されます。審査対象となる会社には、所管の財務局等から個別の質問状を送付するとされています。
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1 主にサステナビリティに関する企業の取組みの開示およびコーポレートガバナンスに関する開示についての改正
2 2023年1月に施行された企業内容等の開示に関する内閣府令等の一部を改正する内閣府令の適用にともない、有価証券報告書において開示される「サステナビリティに関する考え方及び取組」に関する記載内容について自主的な改善に資するよう審査が行われます。